♯83 閑話 勇者と勇者、女王と軍隊 ~胃袋受難曲(ストマックパッション)~
もう少しで旅の途中編は終わると言ったな。アレはウソd
はい、見事に制御不能で物語は僕の手を離れて進んでおります。
目に映る人々の尽くが慌ただしく走り回る空間を眺める冒険者が五名。
転移魔法で全員を運び、膝をついている東の勇者、アーサー・レベット・フォン・グレッドナッド。
アーサーの肩に手を置き、回復促進魔法を使う頭に垂れた犬耳を生やす、透き通る美しさの赤毛を持つ獣人、司祭職で騎士級冒険者のネイア。
そのネイアが仕える、つい先日、一廉の冒険者に認定され、後に不遇なる真の勇者と字される英雄級冒険者、バル・エネス・ソルザード。
嘗ての大戦で武勇を刻み、祖国と諸国に平和を齎した、現在は冒険者としてバルと共に行動している、元剣聖、現オウラ級冒険者のテヘラフェルト・アーズナー。
地位は冒険者最高位、世界に数名の大英雄級冒険者であり、覇の拳王と呼ばれ、単身で国軍と渡り合える破格の力を有している、見た目はエルフの子供、ロルド・アルゼノ。
錚々たるメンバーがつい今し方到着したのは、ソベルオ大陸の南西を治める、ドワーフの王国ゴウ・パサーツのギルド支部だ。
職員達は慌ただしく駆け回り、冒険者達は極少数が装備や道具類の確認を行っている。
そんな状況も有って、転移して来た一行に気が付いたのは、冒険者とギルド職員各一名の二人だけだった。
「申し訳ありません、現在当支部は混乱状態で‥‥アルゼノ様!?それに、アーズナー殿まで!」
先に口を開いたギルド職員、ドワーフ族の男性セドが驚喜の声を上げ、それに冒険者が続く。
「まさか、伝説のデナ・オウラの拳王かぃ!助かったぜ!!」
現在のソルベオ大陸が置かれている状況は、大陸間転移の直前にロ・ルゴナ大陸はセルバ王国内の冒険者ギルド本部で聞いている。
ここ、ソルベオ大陸に、巨大な魔物が南東海域を北上し接近しており、大陸内各国に設置されている冒険者ギルドは、その対応に追われているだろう。という事。
そして、各国の戦闘可能な兵士や騎士達も、冒険者と連携する為に集結しているだろう。という事。
しかし、実際はどういう事かゴウ・パサーツのギルド支部にはギルドの職員十数名と、支部所属と目される冒険者が同じく十数名だけ。
経由したソルベオ南端にある、魔物の上陸の可能性が有る南ガガル海岸にも、そして窓から見える範囲の国内にも、国軍どころか冒険者すら、見当たらなかった。
「え、と‥‥、私は冒険者のバル・エネス・ソルザードと申します。連絡が取れなかったらしいですが、ギルド本部の予想では国とギルドの連名で大規模討伐隊が編成されるのではないか。との事だったのですが‥‥」
このパーティのリーダーを任されたバルが控えめな質問をすると、ギルド職員は口ごもってしまった。
代わりに、目の前の冒険者が重々しく口を開く。
「‥‥そうか、やっぱり伝わっていねぇんだな‥‥」
沈痛な面持ちで語られる冒険者の言葉は、五名の勇気などお構いなしに、心を砕きに来るような内容だった。
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「バカな!それほど巨大な魔物など‥‥、いや、それでは魔獣ではないか!!」
筋骨隆々で、高身長。ドワーフでありながら、特殊な条件をクリアしてハイ・ドワーフと呼ばれる種族に進化する事が出来たゴウ・パサーツ冒険者ギルドの支部長、バランガ・ガルンバが声を荒げた。
バル達のパーティが転移魔法で大陸を渡る直前の明け方、巨大な鷲にまたがるイーグルライダーと呼ばれる技術を持つ冒険者が偵察からギルドへ戻り、その報告を聞いたバランガは、信じられないとばかりに机を叩く。
「俺も目を疑ったがな、アレぁ本当にヤバいバケモンだ。あんなデカい奴、今までで初めて見たぜ‥‥」
常人を遥かに上回る視力と、長命であらゆる知識を有するエルフのイーグルライダー、ベレン・アレッソが静かに首を振った。
「悪い事は言わねぇ、直ぐに非難した方が良い、国王陛下、畏れながら申し上げますが、アレぁ災厄種だと言われても納得できるくらいに、強大ですわ‥‥」
一国の主に対する口調では無いが、それを咎める者は居なかった。
主要人種がドワーフである、ゴウ・パサーツの国王は、勿論ドワーフである。
名をリアレ・フォラレ・クオーレア一世。ゴウ・パサーツ建国以来初めての女王だ。
『あい分かった。国内主戦力の一部を残し、全ての民をカスパ公国及びベイン帝国に受け入れて貰える様に手配する。ギルド職員並びに冒険者も直ぐに避難を開始せよ』
状況として、不意に南海に現れた魔物がソルベオ大陸に向かっている。としか分かっていなかったが故、王城の一室にいなければならなかったリアレ女王は、通信用の魔法が掛かった水晶越しにしか話を聞けない事を悔いながらも、それを表情には出さずに迅速な判断を下した。
彼女と、その正面に置かれた水晶に注視していた臣下達は、大いにどよめく。
長年国交はあるものの牽制しあっている二国を相手に、そのような判断をするなど予想していなかったからだ。
むしろ技術力に秀でるドワーフの国家である自国軍と、屈強な戦士の多い冒険者で共闘すれば災厄種であろうと、善戦出来ると信じており、各ギルドから最高位であるデナ・オウラを招集する時間を稼ぐ事さえできれば、勝利生還も不可能ではないとすら考えていた。
だというのに、自国の女王陛下は及び腰とも言える対応を取るつもりらしい。
これには臣下の一人も嫌味な態度で言葉を告げる。
『陛下、お言葉ですが、我が国の精鋭騎士達と冒険者であれば、時間を稼ぐ事も出来る筈ではありませんかな?』
『ふむ、それではアレッソと言ったな、そなたの見立てでは、敵の上陸にはどの程度の猶予が有る?』
「そうですな。‥‥恐らく最短で5時間、足止めに魔法師団等を投入されても、7時間後には上陸されるかと」
不敬な態度を素気無く流され、再び冒険者の声に耳を傾ける姿勢と、その冒険者の言葉に大声での反論
『愚かな!我が魔法師団を投入してそのよう『控えろ、大臣』‥‥むぐ』
を潰された臣下が押し黙った。
国境を含め、防衛に従事する魔法師団を抱える防衛大臣の言葉を遮り、女王がベレンに続きを促す。
ドワーフは魔法行使能力が低い者が多いとはいえ、それでも一国の防衛を任される程の実力者達だ。
その上、建国式典などでの軍事演習で、他国にも魔法師団と機兵隊の模擬戦が毎年開催されており、実力は広く世界中に知れ渡っている。
つまり、そんな魔法師団総勢八千名の投入を視野に入れての3時間と言う猶予の無さは、女王にとっては興味深い考察だった。勿論、女王以下大臣達も中には憤慨する者も居はするが、気になるところだ。
「先ずは、魔物の巨大さでさぁ、奴は南方のコダの島二つ分程の大きさを持っていた。」
女王を含めた数名が集まる会議室がざわめき、席に着いたたまま話を聞いていたバランガは椅子からずり落ちた。
比較的大型の魔物が多い水中(特に海中)で有っても、島二つ分となると計り知れないレベルだ。
コダの島が比較的小さな島である事を差し引いても、圧倒的な脅威と言える。
何せ前述のコダの島。面積は25㎢で、日本で有れば硫黄島よりも少し広い程度。
一番長い対角線で約5㎞とした場合、単純計算で魔物の体長は10㎞にも及ぶ事になる。
因みに、現時点で世界史に残る最大の魔物は巨大な海蛇の体長約800mなので、10倍してもまだ足りないという異常さだ。
会議室はすぐさま喧々囂々たる様相となり
『ありえん!そんな巨大さに成長する魔物など』だの
『何かの間違いじゃ‥‥、いや、それよりも避難の手配を‥‥』などと、様々な声が飛び交い始めた。
『私の記憶違いで無ければ、アレッソは我が国においてかなり良い働きをしてくれていたな』
普段で有れば、それこそ褒章物の女王の言葉に、ベレンが苦笑いし返答する。
「‥‥勿体ないお言葉でさぁ」
何せ、自分の未来がなんとなく決まったからだ。
百数十年前に流れ着いたこの国で、女王陛下に惚れてしまった哀れな冒険者としての、自分の未来が。
『よい。私は貴殿を信用し、身勝手ながら頼みたい。どうか、民達が避難を終えるまでの時間を、少しでも稼いで貰いたい』
冷徹とも言える態度で言葉を告げる女王の言葉に、不敵な笑みを返すベレン。
彼は胸を張って声を上げる。
「任せて下せぇ、俺達【大翼団】は、正義の味方ですからな」
ベレン・アレッソ率いる大翼団の、決死の足止め作戦参加が決定した。
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こうして、少数精鋭たる冒険者集団と、ゴウ・パサーツ国軍の内、混成師団2万名による足止め作戦の準備が行われているのは、サイズの比較にも使われたコダの島である。
現在、比較的フットワークの軽い冒険者達が先行して戦陣を敷き、次いで混成師団が船により移動している最中。
ギルドの連絡員が数名同行している為、現在ギルド内に居る数名の冒険者は、職員が退避する際の護衛という訳だ。
「で、俺もそろそろ出発する所だったんだが、お前さん方ぁどうするんだい?」
大翼団の団員、ヒト種のイーグルライダーがバル達に問いかける。
「私達もすぐに出発するつもりです。幸いにも此方には転移魔法を仕える方が居りますので、彼の回復を待ってすぐにでも」
コダの島での予測邂逅時間までは残すところあと1時間程。
ソルベオ大陸への上陸予測は2時間程度。
これからすぐにコダの島へ飛んでも、戦闘準備に約1時間は取れる為、バルの言葉にアーサーも頷いた。
「あぁ、俺ももう大丈夫だ。すぐに向かおう」
言うが早いか、アーサーが転移魔法の魔導輪を展開し、コダの島の座標を固定して詠唱を開始した。
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晴れ渡る青空に、白い砂浜とエメラルドグリーンに輝く海が視界に広がる。
転移先に重装騎士等が展開していなければ、とても清々しい景色だっただろう。
つい先刻まで無人島だったコダの島も、現在は多くの冒険者に、騎士や戦士、魔術師等が集まっており、海上には重厚で威圧的な印象の軍船と思しき塊が十数隻浮かんでいる。
「あーあー、なんか貧乏くじだねー。災厄種とか、もう戦いたくないんだけどなー‥‥」
口をとがらせ文句を言うロルドに視線が集まる。
「おい、きさmゴフッ」
恐らく文句を言おうとしたであろう、重装騎士の鎧の腹部が大きく凹み、そこから一握り程の砂がさらさらと浜へ帰っていく。
「お、ちょっ、ちょっと!何してんだよ!これから戦うって時に‥‥」
転移直後で息も荒いアーサーが、震える膝でロルドの前に歩み出る。
いくら最上位冒険者と言えど、これから共闘する仲間に攻撃するなんて、どうかしている。
しかも、どう考えたって今の発言は軽薄すぎた。
が、憤るアーサーに対して、ロルドは冷たい視線を向けて声をかける。
厭らしい笑みを浮かべながら。
「ふーん、まさか、キミってばコイツらを戦わせるつもりだった訳?うわぁ、無いわー」
などと嘲笑気味だ。
これにはアーサーも苛立ちを霧散させて「へぇ?」と素っ頓狂な声を上げるほかなかく、 未だに気絶したままの重装騎士に回復魔法をかけるネイアと話しを終えたバルが声をかけて来るまで、ポカンとしたままだった。
「つまり、国軍の魔法師団とその支援部隊、そして超長距離攻撃が可能な者以外は、避難させるつもりなんだよ、ロルドは」
遠巻きに見ていた冒険者と国軍の兵隊達は、絶句した。
魔法師団と口にした冒険者は、一体何名がこの戦場に来ているのか知らないのだろうか。
国民の避難に割かれた人員は少なくない。
コダの島に展開している人員は冒険者二百名、国軍歩兵二千五百名、魔法兵六千名、海兵が二千名。
百人乗りの軍船が二十隻という状態だ。
そこから、今現在自分達が展開している島を二倍した魔物、否、魔獣を相手取るという時に、一介の冒険者が何を言っていると言うのか。
「あー、部下の無礼を詫びよう。俺は総指揮を任されている、ドサガン・ワガンだ共闘に感謝する」
剣呑な気配を察知し、丁度良く近くに居た事を幸いにと、総指揮官たるドワーフが声をかけてきた。
「共闘ってさ、‥‥今弟子が言った事聞いてた?ボクらが戦うから、キミらは殆ど退場、支援だけしてくれれば良いんだってば」
「ロルド!もう少し言い方を‥‥ハァ‥‥」
バルが窘めるも、もう遅く、今まで遠巻きに見ていた兵士や冒険者達が周りに集まってきた。
「お前らは下がっていろ!俺が話を聞く!」
指揮官の一喝が無ければ、この一大事でも乱闘に発展していたかも知れない。
それだけ、この集団は矜持を持って戦いに挑む者達だったのだ。
「命は大切にした方が良いよ。わざわざ死ぬ覚悟なんかしてさ、バッカみたいじゃん」
どうせ残ったって死ぬだけなんだから。と続ける言葉に噛みつく様に、ドサガンが口を開く。
「俺達は、女王陛下のご下命で此処に居る、戦って、例え命を落とそうとも、国民を守る為だ‥‥」
拳を握りしめ、誇りを胸に抱いて告げるドサガン。
「だからさぁ、それが無駄だって言ってんの、それにそろそろ撤退しなきゃいけなくなるから、準備しときなよね」
それを心底見下し、再び言葉投げつけるロルド。
双方数分の睨みあいの後、ギルド職員の言葉がかかるまで、バルとアーサーは胃を痛め続けた。




