♯85 旅の途中 ―No rope. no rope bungee jumP
更新も進行ペースも遅いですが読んで下さって有難う御座います。
次話♯86で、若干モヤっとするかも知れませんが今章は終了予定です。
因みに物語自体はまだ終わらないので今しばらくお付き合い頂ければ幸いです。てへぺろり。
▼フォロール侯爵領近郊 廃砦跡地
「それでは、そろそろ始めましょうか」
不意に苦しげな声をかけたのは、女神の使徒にして様々な攻撃で重蔵を翻弄したアウリョイナ。
ロンネリオ・クリャビャシカ・ラズライ・アウリョイナと名乗った、白基調に金糸の刺繍が入った豪奢な司祭服を身に纏い、前髪で表情の読めない女性だ。
それこそ、戦闘が始まってから意識を失うまでの間、重蔵は決定的な打撃を与える事も出来なかった程に、彼女の魔法は理解の及ばない物だった。
「まぁ、そうなりますよねぇ‥‥」
この世界でかなりの時間を過ごして来た重蔵は、有る程度魔法や特殊能力について理解していた。
否、したつもりでいた。
しかし実際は、相手が使ってきたであろう魔法の種類や性質なんかがサッパリ分かっておらず、このまま再戦しても同じ――つまり、再び滅茶苦茶眩しい光を受けて昏倒する――結果を演じそうで、正直な所余り乗り気になれていなかったりする。
『情報が足りないって、本当に困るなぁ‥‥。何か相手とか魔法を解析できるスキルか魔法が欲しいんだけど‥‥』
ゆるりと構え直した重蔵がアウリョイナと対峙しながら考えていると、ふと自分の中で何かが芽生える感覚を覚え、直後の六呂の言葉で状況を理解した。
何の事は無い。重蔵自身がスキルと魔法を創造できるという事実を、知ってはいても行使する方法を試していなかっただけだったのだ。
三代重蔵。異世界から召喚された魔王の力が、漸く猛威をふるい始める。
■■■
『重蔵、今のはなんじゃ?』
なんじゃってなんじゃ。とは、流石に言えない。
僕が知覚した通りだとすれば、新しくスキルと魔法を覚えたと見て間違い無さそうだ。
今までも何となくそんな感じはしていたけれど、どうやら魔法創造とスキル創造は、必要に迫られた時新しい力を与えてくれる物のようだ。
『新しい魔法と、スキルが出来たみたいだね』
対峙していたアウリョイナさんが無言で宙へと浮かび、此方に魔法での攻撃をしているけれど、それを回避しながら六呂と情報を共有して、何が出来るのかの検証を始める。
『先ずは、[魔法感知]と[魔法解析]。これはスキルか』
此方に向けられたアウリョイナさんの意思、魔法による攻撃を感知して、流れる魔力からどういった魔法なのかが理解できる。
『ふむ、儂にも奴の魔法の発動が分かるのは、重蔵の中に居るからかの?』
目に見えない空気の塊も、魔法の力が含まれている以上はどこからどうやって向かってくるのかも手に取るように理解できる。
『多分、そうだと思う。後で顕体出して確認してみようか』
『うむ』
頭の中で遣り取りをしつつも、忙しなく動き回る僕を捉えられない相手の魔法が地面を抉る。
そんな状況に理解が追いついていないアウリョイナさんは、若干焦れているのか此方に魔法を放ちながら声を上げた。
「今までとは随分と動きが違いますね」
目の前のアウリョイナさんから届く声に多大な違和感を覚えながら、不意打ちとも言える角度で飛来する空気の塊[女神の風]を、結界で防御するのではなく急激な軌道修正で回避する。
「お陰さまで、先の戦いでの変な感じも理解できましたから」
頭上から降り注ぐ魔法の数は夥しく、宛ら豪雨。
それでも、魔法の種類と発動場所、そして軌道が感知できるのなら、避ける事も不可能ではない。
何せ発動してから僕に到達するまで、かなりの長距離を進まなければならないのだから。
「それでは、趣向を変えましょうか」
僕の言葉をはったりと思ったのか、アウリョイナさんは一瞬怪訝な表情――口元以外は見えないけれど――を浮かべ、新しく魔法を発動した。
『成程な、これがカラクリか』
六呂も得心いった様で、邪悪なうすら笑いを浮かべた気がした。
■■■
まさかここまで当たらないとは思わなかった。
それがアウリョイナの率直な感想だ。
何せ、遥か上空に陣取って相手の目の前に自分を映し出す事で、対象の意識外から魔法を放つ奇襲攻撃だ。
今までに戦った強者はどれもこの戦法に気が付く事が無かったし、更に言うならば追加で発動する幻惑魔法[女神の悪戯]の効果で相手の知覚能力は大幅に減退する。
広範囲を纏めて包む以上魔力の消費はかなり大きいが、この効果を前に魔法を回避、或いは迎撃する事が出来る相手など、今までに存在していない。
『どうしよう、これじゃ逃げる事も出来ない』
女神の使徒は、本来この世界のどんな生物・無生物よりも力を有している。
それは魔力だけに留まらず、物理的な攻撃力や、移動する速度、扱う事が出来る魔法の数も含まれる。
ところが眼下の獣人は、此方の放つ魔法を正確に知覚し回避を繰り返しながら、レベル吸収の直前と同じくどこからか取り出したナイフを投げている。
このまま同じ事を繰り返していても、切札とも言える空間跳躍に必要な魔力を維持できず、速度において勝っていても、相手が追跡系のスキルか魔法を覚えてしまっては簡単には逃げ切れなくなってしまう。
世界に君臨する絶対者としての矜持と、自身らに仇なす事が出来る力を持つ危険分子は排除しなければいけない使命。
逃げ出したい気持ちを何とか抑えようと、アウリョイナは普段の口調で取り繕う事も忘れて慌て始めた。
■■■
「なんで急に掠りもしなくなってるのよぉ!」
アウリョイナさんいきなりのガチ取り乱し。
まぁ、僕も切る札切る札次々に無効化されてしまったら、恐らく同じような反応をしてしまうだろうし、仕方ないと言えばそれまでだけど‥‥。
「幻覚‥‥、それも結構な広範囲に影響が有るんですね。悪戯ってレベルじゃない気がしますけど‥‥」
「っ‥‥!」
相手が息を飲む音が耳朶を打つ。
『重蔵、今度は魔法‥‥魔導?コッチも試してみんか?』
なんかノリノリな六呂に驚きつつも、折角だし口車に乗ってみよう。
「それじゃ、アウリョイナさん、貴女の目的が僕を倒す事なら、申し訳無いですけど諦めて下さい」
使用可能魔法から、意趣返しとばかりに[風魔導 中]に意識を向ける。
{ [風魔導 中] [旋風]中範囲低威力 [強風]小範囲中威力 [風刃単体小威力]
風を司る神・精霊・悪魔に働きかけ、それぞれの力を行使可能。スキル効果適用対象 }
ほほう。
「‥‥私の魔法を避けられるようになったからって、調子に乗んないでよ!まだそっちの攻撃だって私には当たって無いんだから!!」
風魔導の種類と効果が頭に浮かんでくる不思議な感覚に少しワクワクしている僕に、激しい感情を表出させながらアウリョイナさんが毒づく。
別に本体狙ってナイフ投げてる訳じゃ無い流れ弾‥‥流れ刃?だし、当たらなくても後で回収できる様にしてあるからポイポイ投げていただけなんだけど、どうやら少し油断させてしまったらしい。
これは失敬。
『風って、相手の魔法と同じ感じかの?』
分かんないけど、そんな気がする。牽制には持って来いかな。
「それでは、少し本気で当てにいきますね。[風刃]」
僕の手の平から少し離れた空間に、馬鹿みたいな密度と濃度が直径10㎝程度に凝縮された魔動輪が展開された。
あ、これもしかするとヤバい奴かも。
▼ソベルオ大陸南部 ゴウ・パサーツ領南端 コダの島
何度目になるか分からない空間転移魔法の行使に目を回しながら、対象の遥か上空で錐揉み回転をする東の勇者アーサー。
その眼下では、世界中に数人しか存在しない伝説の冒険者が巨大な魔獣に向かって拳を打ち付けようとしていた。
上空数百メートルからの決死の自由落下は、その伝説の冒険者発案だ。
『ムリだ!ムリムリムリムリ!そろそろ死んじまう!!!』
今までに体験して来た様々な死線が、子供のお遊戯と一笑に付される錯覚に溺れながら空中でもがくアーサーの下へ、轟音と衝撃波が向かってきた。
「た、助けてぇぇぇぇええええ!!!!!!!!」
転移→落下→衝撃波防御→急上昇・即転移→最終防衛線に着地帰還→魔力回復+小休止(以下繰り返し)
というスーパーハードスケジュール。
イーグルライダー達、魔法遊撃隊が魔獣を発見してから既に三時間程が経過しているが、相手の魔獣が規格外も規格外と言うオチに、アルゼノの作戦は一から組み直される事と相成った。
最初は優勢とは言えなくもない状況で、作戦通りに進んでいたのだが、こちらの魔法軍船隊及び超長距離魔法攻撃隊が行使する【共鳴魔法】(同一魔法の一斉詠唱による威力・精度上昇法)のどの属性も、相手の発動する壁の様な物に阻まれ、霧散するのだ。
まだ子供とは言え、人種よりも長く生きているアルゼノをして、あんなの見たこと無いもん!インチキじゃん!と言わしめる何か。
魔動輪の発動も無く、さりとてスキルの様な発動形態とも異なる、不可思議な文様が一つ浮かぶ壁。
魔法軍船隊の包囲陣形から放たれる7方向に加え、超長距離魔法攻撃隊の一撃を足した8方向同時魔法攻撃すら、容易く霧散させる異様は、成程正しくインチキと言える。
本来、作戦開始前の態度を思えば悪口雑言が浴びせられても仕方ないと言えるアルゼノであったが、今尚魔法を撃ち込む部隊、船を操る操船隊、補給部隊等、作戦行動中の兵員の中に、子供エルフを罵る者は存在しなかった。
冒険者の最高峰という立場に何も言えないからでも、勿論性的嗜好による物でも無い。
全員の生存を第一に、集まっている冒険者・兵員の全てに的確な指示を出し、時折飛来する魔獣の攻撃――鋭い水鑓の穂先――をどういった原理かは不明だが、拳を振るう際の圧力と思しき力で迎撃し、実際に数百の命を救っているからだ。
その上で目の回る様な上空からの落下攻撃と空間転移を繰り返す姿は、正に大英雄と呼ぶに相応しい物であると言える。
決定打を撃てずに歯噛みをする姿は、英雄の活躍に眩んだ目の群衆には、一度も映っていなかった。
▼フォロール侯爵領近郊 廃砦跡地
『重蔵、流石にちとやり過ぎじゃないか?少しかわいそうになってきた‥‥』
字面だけ見ればかなりの良い奴発言だけど、頭の中に響く六呂の声は含み笑いを湛えている。
目の前には、右肘から先と左足首、片翼を失い、遥か彼方から急転直下して茫然自失のまま血を流し続けているアウリョイナさん。
彼女の座り込む、深さが恐らく10メートルは下らないクレーターの中心から大地に広がる亀裂が、その落下の衝撃を物語っている。
【[風刃]単体小威力 低位風魔導。対象単体に対して真空刃を3つ飛ばす。】
という文言が頭に浮かんだので牽制の為に武器を握っていない左手を上空のアウリョイナさん(の本体)に向けてみたんだけど‥‥。
恐らく、通常必要になるであろう頭に浮かんだ呪文がスキル[無詠唱]によって不要になり、同じくスキルの[思考最適化]で一発必中の軌道が計算されたらしい、魔法の[魔法速度・効果最適化]が付与された9つの真空の刃が殆どノータイムで魔動輪から飛び出し、彼女の体と吹き飛んだパーツを切り刻んだ。
『え、何コレ怖い』
個人的にはRPGの初級魔法的なイメージだったのに、まさかの高威力。
茫然と見つめ合うアウリョイナさんと僕にしびれを切らしたのか
『なんじゃ重蔵、ホレ、もっと撃たんか』
などと楽しそうに語る六呂にドン引きだ。もっと撃たんわ。
先刻のかわいそう発言はなんだったのか。
まぁ、個人的な恨みとかはないけれど、メシ男の件や盗賊連中を操っていたと思われる件等を考えれば、手心を加えて取り逃がす方が後々厄介な事になるだろうし、ここらで無力化しておかないといけないよね。
自分勝手な暴論と言われればそれまでだけど、最悪の場合何らかの魔法かスキルで僕が立ち寄った場所とかが追跡されれば村だけじゃなく関わり合った人々まで危険に晒す事になりかねない。
丁度良く使えそうな魔導が手に‥‥、頭に入った事だし、有効活用しないとだよね。
【[シュウシュウ]Lv,1小範囲複数 光属性魔法[女神の声]改変低位闇魔導。指定範囲内の対象からLv・能力値・スキル・魔法などを奪い取る。[収集]】
よし、これでいこう。決して知的好奇心に負けて実験的な意味合いで使う訳じゃない。
多分。




