♯77 旅の途中 ―晴天の霹靂
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(´ヮ`)あざっす
砦組の面々の半数は、僕が村を出発する時点で既に働けるくらいまでに回復していた。
多少は軽減されたとはいえ、心の傷を抱える人たちが畑仕事等を笑顔でこなしている様を見られたのは、本当に良かったと思える。
残念ながら皆が口をそろえて
「奴隷のままでは故郷には帰れない」
と言って聞かなかったのだけが残念だったけれど‥‥。
まぁ、正直な話、身分としての奴隷ではなく、なんと言うか、職業としての奴隷は、即ちペナルティみたいな物だと思っているので、降って湧いた不幸をそのまま受け入れていると感じてしまう僕としては、何とも遣る瀬がないと思ってしまう感じだけど‥‥。
この世界では、犯罪者として裁かれるか心を折られて無理やり隷属させられるかで成り立ちは違えど、置かれる立場は奴隷になるらしい。
それも、自動的に。
嫌な決まり事だこと‥‥。
一応試してみたけれど、現時点では打つ手がないと分かったので、一旦棚上げして村を出発する事にして、結界転移を発動した。
そんなハートブレイクな僕は現在、かなり不思議な状況に陥っている。
旅を再開するつもりで中継地点にしてある、結界転移が可能な安全地帯、廃砦に転移したはずだったんだけど‥‥。
なんというかもう、これじゃあ廃砦跡地だ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥えー‥‥」
▼フォロール侯爵領近郊 廃砦跡地
茫然と立ち尽くす事しか出来ない重蔵を嘲笑うかの様に、砂埃を巻き上げる風が吹いた。
ここは重蔵とその式神である六呂が立ち寄って、囚われていた奴隷の少女達を救出した後に有る程度まで回復させる事に成功した場所であり、六呂と、奴隷少女の一人であるノノリアと共に侯爵領への潜入を行う際に一時的な拠点とした場所でもある。
所々が崩れたり壊れたりはしていたけれど、少女達を弄んでいた実行犯である盗賊達が生活していた、曲りなりにも元軍事拠点が、ほんの二週間程度の期間で跡形もなく消え去っている事実に、重蔵は驚いていた。
それこそ、転移魔法に失敗した勇者、アーサー・レベット・フォン・グレッドナッドを思い出すくらいに。
しかし結界転移の精度は何度も試して知っているし、森の中の小高い丘に有る敷地を覆い隠すような木々や野草、そしてけもの道の様な街道へひっそりと続く道すらも以前見たままの状態であり、村へと転移した地点に間違いは無い。
だからこそ、重蔵はかなり混乱する事になったのだが‥‥。
何せ砦が存在していた範囲の土地だけが、砂漠のような有様なのだから。
建物はおろか、周囲に広がっていた雑草が生い茂る土地すらも、今はどこにも存在していない。
見渡す限り、という程広くはないけれど、見回した範囲内はただの砂で埋め尽くされていて、その外側だけが今尚、何事も無かったかの様な鬱蒼とした森として重蔵を取り囲んでいる。
「‥‥六呂、これスォォォオオオイ!!!!」
当然この惨状に疑問を持った重蔵が、この場を共に確認している六呂に言葉を投げかけようとして、いきなり背を大げさに反らしながら叫んだ。
直後に広がる轟音と地響き、そして巻き上げられて吹きあがる砂のキノコ雲は、少し離れた侯爵領でも観測された。
この時の噂が、数か月の間領内をにぎわせる事になったけれど勿論それは重蔵には関係の無い話で、彼の立つこの場は、ただ純然なる殺意にみたされた空間へと変貌したのだった。
はるか上空に存在する、今の重蔵にとっては二人目の、この世界での重蔵にとっては三人目の、女神の使徒の降臨だ。
■■■
途轍もない爆発音と衝撃に、辺りの地形が瞬く間に姿を変えていた事を知ったのは、吹き荒れる砂嵐が収まる、大衝撃発生から数分後の事だった。
僕が何故無事なのかと言うと、六呂に声をかけようと口を開いた瞬間に嫌な気配を感じて身を反らし、目の前に迫る火の玉を目視した瞬間、咄嗟に結界を発動出来たからだ。
思っただけで発動出来る様に訓練はしていたけれど、この体の動体視力と状況判断能力には本当に助けられたのは言うまでもない。
「前世なら二、三回死んでたかな、これは‥‥」
一回目は火の玉の直撃で焼死、二回目は爆発の衝撃によって爆死、三回目は衝撃波で粉々にされて。
実際は一回目で即彼の世行きだったろうけれど‥‥。
「ところで、いきなり攻撃をかましてくるとは、随分とアグレッシブですね?」
「いやはや、まさか今の攻撃を防ぐ力をお持ちとは驚きました」
砂煙の晴れたクレーター状になったこの場所に下りてきた気配を感じて声をかけると、恐らく火の玉を飛ばしてきたであろう危険人物は、芝居がかった慇懃な態度で僕の正面で器用に浮遊しながら敬礼をしてきた。
いきなり致死の一撃を放ったのだから、最敬礼くらいしてほしいものである。
「それで、すごく聞きたく無いんですけど、どちら様ですか?」
これはこれは、申し遅れました!なんてわざとらしい身振りを交えて、白を基調とし、金糸で細かく、それでいて大胆な刺繍を施された、恐らく司祭服を着た中世的な顔立ちの相手が名前を名乗った。
「私の名前はロンネリオ・クリャビャシカ・ラズライ・アウリョイナ。イルミレア様にお仕えする女神の使徒です、以後、お見知りおきを」
「ジュウゾウ・ミシロです、初めまして」
命を奪おうと攻撃してきた相手に挨拶を返す様は、もし第三者が見ていたら場違いな程のんきに見られた事だろう‥‥。
日本の社会人は、名乗られると名乗りたくなる性質なのかも知れない。
知らないけど。
■■■
10メートル近く陥没したクレーターの中心部に、僕は今浮かんでいる状態だ。
正確には、結界によって空間が固定されているので、浮かんでいる様に見える状態と言った方がより正しいけれど。
そんな僕の目の前に、背中から生えている翼は飾りとでも言わんばかりにフワフワ浮いているのが、アウリョイナさんだ。女神に使える使徒とか、メシ夫を思い出すなぁ‥‥。
あ、もしかしてそれで攻撃してきたのかな?
以前ログロの地下洞窟で戦った、ケツなんとか言う女神の使徒の男(略してメシ夫)を思い出して眉間にしわがよってしまった僕をしり目に、アウリョイナさんが爽やかな春風のように澄き通る美声でいきなりの攻撃理由を告げてきた。
「ここに朽ちかけた砦が有ったと思うのですが、飼っていたヒト共が殆ど使えなくなってしまってまして、記憶を読み取れば魔獣に襲われたとか何とか‥‥」
あぁ、それ僕と六呂だわ。間違いないわ。なんだ、メシ夫の復讐じゃなかったんだ‥‥。
粘着質な復讐心とかだと面倒だったけれど、そうじゃないならまだマシだ。
「私が来た時には既に姿が無かったものですから、かれこれ9日目ですかね?此処で待っていたんですよ、犯人が戻ってくるのを」
「はぁ、それは大変でしたね。心中お察しするに余りあるお話ですよ」
「あはは、ありがとう御座います。でももう良いんですよ。もう、待っても来ないなら虱潰しに人が居る場所を探して行こうと思ってた矢先に、こうして出会えたんですから」
転移魔法の痕跡どころか、移動した形跡すら見つけられなかったのには参りましたけどね。
とか、目を隠すような前髪とフードから出ている口元が、心底楽しそうにゆがんだ。
「さて、それでは早速ですが始めましょうか」
「‥‥一応お聞きしますけど、何をです?」
楽しそうだった笑みが消えた無表情な口元から零れた声。
爽やかさが霧散し、ただただ冷たさに身を切られるような印象の声が耳に届いた。
「勿論、蹂躙ですよ」
アウリョイナさんは、激おこのご様子だった。
次回、また閑話が挟まりますので、本格的な戦闘は次々回となります。




