♯74 旅の途中 ―一時帰還準備中
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▼ヴォルパ村 居住区 レーネの家
まだ日も昇らない時間、静まり返った涼やかな空気が漂う村の中に有る、少し前まで獣人とドワーフの少女が住んでいた家に居るのは、栗色の髪に大きな赤茶色の瞳、身長は人間の子供程度ではあるものの全体的なバランスは整っており、かなりの美少女と言える、ドワーフの【レーネ】だけ。
数ヶ月前に彼女が拾い、一緒に過ごした不思議な獣人の【重蔵】は現在村から遠く離れたセルバ王国へと向けて旅をしている最中だ。
短い期間とはいえ一緒に暮らした、彼女にとっては家族も同然の存在だった重蔵が家を出て行く前は、村の誰が見ても仲睦まじい姉妹の様な二人だった。
「‥‥っ!!」
レーネが不意に目を覚ます。
暗い室内、涼しい筈のその部屋にあって、それでも全身を濡らす汗が気持ち悪い。
重蔵が旅立ったあの日から何度も夢に見る光景。
何の罪も無い筈のただの村娘はある日、獣人と過ごし、村を訪れたドワーフの貴族の望む答えを差し出さなかったというだけの理由で地獄を見る事になった。
「‥‥じゅうぞう‥‥」
『何か有ったらすぐに帰ってきます』
そう告げて遠い国に旅立ってしまった大切な人の名前を溢し、レーネは一人静かに膝を抱えて肩を震わせた。
▼フォロール公爵領近郊 廃砦(元絶望齎す軍団の塒)
「ただいまー」
『あ、じゅうぞう、おかえりー』
公爵とその息子の屋敷でのなんちゃって潜入作戦(片方は屋内にすら入っていないけれど)を終えて期間した僕達をレクスが出迎えてくれた。
懸念していた侵入者や魔物は現れず、また、拘束した盗賊達は相変わらず意識を失ったままで、僕達が出発する直前に殺されてしまった者以外が奴隷達に命を奪われる事も無かったらしく、取り敢えずは一安心だ。
潜入作戦に同行していたノノリアさんが僕達にお礼を言って、彼女の妹であるアルルアさんの下へ向かった。
僕としては特に大層な事をしたつもりは無いけれど
『大切な奥様とお嬢様を助けて下さった事とあの男を倒して下さったので』
と言われると何も言えなかった。
っていうか、別に倒してはいないと思うんだけど‥‥。
欲を奪った結果がどうなるかも分からないし。
ただ単に物欲やらだけに作用すれば、今後は案外と良い領主に成長するかもしれない。
六呂が睡眠欲とかまでに効果を波及させていた場合、ほぼ間違いなく命を落とす事になるだろうけれど。
『それにしても、大切な、か‥‥』
ノノリアさんの背中を見送った時の事を思い出しながら、僕は僕でレーネさんの事を考えていた。
■■■
「僕は一度、村に戻ろうと思います」
不思議な力を使ってオレと一緒に捕まってた人達を或る程度回復させたミシロさんが、巨大毛虫(後になってレクスさんという名前を聞いた)を送り返してから言ってきた言葉に驚かされた。
「え‥‥、一度って‥‥、近いんですか?」
もしそう遠くないならアルを連れて行って貰いたいと思った。
出来れば怪我が治りきっていない人達や病気の人達も村で保護して欲しいけど、そこまで面倒を見てくれる程のお人好しだとは思えない。
だからせめて妹だけでもと思ったんだ。
見ず知らずじゃないけど、自分の家族を助けてほしいと思うのは当然だ。
「あー‥‥、ノノリアさん、その質問に答えるには、先に僕の質問に答えて貰う事になるんですけど、良いですか?」
申し訳ない。と頭を下げながら聞いて来るミシロさんは、結構真面目な人なのかも知れない。
ミシロさんの住んでいた場所は、ここから二週間程歩いた所に有るドワーフ達の村らしい事を、オレがミシロさんの行動やスキルなんかを口外しない事を約束する代わりに教えて貰った。
って言っても、一人で何人もの盗賊を行動不能にしたとか、公爵様のお屋敷に忍び込んで奥様の病を治したとか話しても信じてくれる人は居ないと思うけど‥‥。
「村長達に確認してからでないと、要救護者が受け入れてもらえるか分かりませんから」
「ヨウキュー‥‥ゴ?」
「けが人や病人の事です。勿論、そうじゃなくてもこんな所で助けが来るまで待って貰うなんて出来ませんから」
「‥‥ミシロさんは、欲張りなんですね‥‥」
困った様な短い笑い声を出しながら仮面を掻く姿は、何となくだけど信用出来る気がした。
その後、少し話しあってオレともう一人が村に同行して話をさせてもらう事になった。
ミシロさんは一人で行くつもりだったみたいだけど、当事者が居た方が分かりやすいと提案したら頷いてくれたので、一安心だ。
最終的にヴォルパ村へは朝になってから向かう事になったので、少し休むことになった。
全員が集まっても余裕のある一室で休憩し、朝に備える。
オレの膝で眠るアルともう一人の名前も知らない少女を支えながら、必ず全員で助かるんだ。と、堅く誓った。
■■■
日が昇って少ししてから、全員の状態を確認する。
一応はまだ使える井戸が有ったので、先ずはそこで全身を綺麗にしてもらう序でに着替えて貰う事にした。
何時の間にか使えるようになっていたスキル、[物質創造](転化{重量換算})は、途轍もないチート性能と言える。
何せ材質を問わず、重さだけで思った通りの物が生み出せるのだ。
同じ重さの物なら、石ころ一つからTシャツやジーンズ、果ては梅酒まで。
作り方や材質、構造等をちゃんと理解していれば制限なしに作れるらしい。
つまり、テレビや自動車なんかは作れないって事だけど‥‥。
テレビは有っても映らないか‥‥。
ともあれ、砦の一部を分解して全員分の衣服や下着を準備(材質等は理解していたけれど、細かい部分は適当に辻褄を合せて制作)し、動く気力の無い者は動ける者で手助けをしながら体を拭いたり傷などが無いかを確認してから着替えてもらった。
因みに、最初にスキルで出来あがったモノはTシャツの形をしたペラペラの一枚布だった。
構造を正確に思い描か無いとちゃんとしたものは出来ないらしい。
総数十一名で、年齢は下が6才から上は23才で、今のところ状態異常:感染が確認出来たのは3名。
アルルアさん、13才の子、19才の子だ。
ただ、確認出来た状態異常は感染のみで、病気とかは消えている。
因果関係は分からないけれど、取り敢えずレクスの地下庭園で様子を見よう。
反対されないと助かるけど、どうなることやら‥‥。
砦内部に残っていた食料で作った朝食を全員分準備して、ご飯を食べる前から胃袋がズシリと重くなる感覚で食堂モドキに向かった。
十一名の女の子が、全員同じ服装で並ぶ姿に若干ヒキながら
『せめて修道服みたいな感じにしておけば違和感も少なかったかなぁ』
なんて考えてしまった。
朝ごはんが終わったら早速話し合いだ、それが終われば今度は村に行っての受け入れ交渉。
うん、大丈夫だ‥‥。
頑張れ僕‥‥。




