♯71 旅の途中 ―スニーキング・ミッション! 始
僕の知らないところで何故か勝手に命を落としていた賊の死骸を片づける為に牢獄と元中庭を数回行ったり来たりしている間も色々と手伝ってくれたノノリアさんにお礼を言うと、少し疲れた笑顔で気丈に答えてくれた。
短い時間でここまで打ち解けられたのは、彼女の人懐っこい性格のお陰だろうか。
ともあれ、僕の独り言を聞いて腰を抜かしてしまった彼女に、何とか話を聞いて貰って誤解を解く事が出来たのは運が良かった。
ノノリアさんに指摘されて気がついたけれど、大きな鎌を持って目深にローブ(正式には外套だけど)を羽織った僕の見た目は、確かに死神と勘違いされても仕方が無い物だったからね。
「ゴメンなさい、オレ、命の恩人にひどい事‥‥」
とか言われると、此方こそ紛らわしい格好してて済みませんでした!
って話なので、無難に「いえいえ」と返しておいた。
レクスを呼び出してから、結局2時間程はもろもろに時間を取られたけれど、お陰で作業中に作戦を練り直す事が出来たので彼女等には感謝する事にしておいた。
囚われていた間の、凄惨な記憶を請け負った僕も気分が少しは晴れたので。というのが理由の大半だけど。
勝手に記憶を持って行って、しかも自分の手を汚さずに気分が晴れるとか考えてる時点でかなり自己中心的ではあるけれど。
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そんなこんなで、僕は六呂とノノリアさんを連れて、公爵邸の近くまで来ている。
「オレと妹は、もともと公爵様のお屋敷で働かせて頂いていたんです」
と言う事で、折角なので同行して貰う事にした。
何でも公爵夫人と公女さんにはすごく良くして貰っていたから、心配をかけてる現状を何とか打破したいのと、彼女自身、二人の事がとても心配なのでどうしても付いていきたいと言われたからだ。
アルルアさんは囚われていた人達の中でも幾分まともな人に面倒を見て貰える様に頼んで預けてきた。
夜も遅く、安らかに眠っていたし、レクスが居てくれる以上連れて歩くよりも任せた方が安心出来る。
さてさて、それでは作戦を開始しよう。
▼フォロール公爵領中央部 フォロール公爵邸
盗賊達との交信が途絶えて数時間が経過した夜中。
屋敷の主にしてこの地を治める壮年の男性は、ランプの明りを頼りに物思いに耽っていた。
領民に手を出さない事を条件に必要悪として、また、綺麗な力ではどうしても押さえられない部分を押さえつける為に、領地の近郊、不可侵地帯の外れに屯する事を許した盗賊達。
妻である公爵夫人の身に降りかかった重い病。
既に領地の数%を、将来の統治の為に預けている息子たちの成果。
昨今増加傾向にある、冒険者による犯罪行為と、それに伴う領地の警護隊強化策。
とにかく考えなければならない事が多いというのに、此処に来ての魔獣の出現と、公爵であるゲリュスの頭は綺麗な銀髪から総白髪に変わってもおかしくないレベルのストレスに晒されている。
「脅威的な魔獣の出現‥‥か」
不愉快さを隠そうともしない声音で呟くゲリュスの顔は、ランプの仄かな明りで影が濃く写っていた。
本来なら盗賊による脅威を喧伝し、王へと領地拡大、それに伴う兵力の増強を提言する計画だった。
近い将来、子供達に統治を任せる以上、また、第三子までが男子である以上、仲たがいをさせずに分割統治させるには、ああいった悪意が近くに在るべきだと、ゲリュスは考えている。
「人は弱い‥‥。共通の敵が無ければ、簡単に他を蔑にする‥‥」
一昔前に起こった戦争の後、彼が痛感した事実。
人は欲望に弱く、誘惑に従順だ。
椅子に座ったままで思い悩む様は、後ろ暗い部分を抱えた彼の姿を、少しだけ小さく見せるのだった。
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「よぅし、取り敢えずは潜入成功だ」
妃蜂の結界によって、誰に知覚される事も無く公爵領に侵入を果たした僕達は、街灯も無い小さな街中の月明かりに照らされるだけの道を歩いていた。
「あ、あの、何でバレなかったんですか‥‥?門番の人達、こっちを見ても居なかったですけど‥‥」
ノノリアさんが胸に手を当てて己の緊張と戦っている。
一人称はオレだけど、端々の所作を見るにやはり女の子だなぁ。とか考えてしまう。
「僕のスキルの一つです、特殊な結界で隠密行動を補助してくれるんですよ」
「そう、なんですか‥‥?」
いまいち納得の出来ていない感じを隠し切れていないノノリアさん。
もしかしたら、隠密系のスキルについて何か知っている事が有るのかも知れない。
この件が片付いたら聞いてみるのも良さそうだな‥‥。
「あ、そこの道をまっすぐじゃ、あと2,3分で見えてくるぞ」
高い石壁に囲まれた領内。
遠くの方にいまだ明るい一角も存在する様だけど、そういった極一部を除いた大半の敷地は夜の闇を受け入れ涼しげな静謐さを湛えている。
程なくして見えてきた公爵邸は急ごしらえの物では無く、華美ではないけれど荘厳な雰囲気で僕達を待っていた。
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「僕達はこれから潜入する為に公爵邸へ向かうんですよ?」
オレの目の前、あの盗賊が使っていた椅子に腰かけて机に頬杖を突いた死神が、少し迷ってからそう告げた。
「なら、なおさらオレの案内が有った方が安全なんじゃないかと思うんです」
領内への門や、そこから御屋敷に向かう道程、そして御屋敷の中での案内は重要だと思った。
「いや、それには及ばんよ。儂が居る」
壁の一部と、ボロい砦の内装に似合わないキャビネットが砕けた後に現れた黒い小さな狐の魔物が言う。
ほんの少し前に、なにも無い空間から出てきた事にとても驚かされたけど、死神の使い魔みたいなので取り敢えず安全らしい。
「そうですね、六呂は既に一度公爵邸に潜り込んで、正確な構造を把握しています」
リクロと呼ばれた狐の顔と似た仮面をフードから覗かせた死神は、オレの事を心配してくれているらしく
「救助隊が派遣されるか、僕が戻るまで此処に居た方が、何の問題も無く帰る事が出来るんじゃないですか?」
と続けた。
オレ達はもう、奴隷に落ちた身だって言うのに‥‥。
奉公先としてお仕えしていた時は、村人のままだった。
でも、今はあの盗賊達のせいでオレ達全員は奴隷にされている。
そして、公爵ともなれば自分たちに仕える人間の身分には気を使わなければならない。
「オレ達はもう、公爵様にお仕えする事は出来ないんです、今は奴隷、ですから‥‥」
「ふむ‥‥」
悔しくて涙が出た。
妹をあんな目にあわせた盗賊が憎い。
オレ達を笑いながら弄んだ男たちが憎い。
全部が、憎くて堪らない‥‥。
「のう、連れて行こう。きっと役に立つぞ」
「えぇ?そんな簡単に‥‥」
リクロの言葉に嫌そうな死神の返答を耳にして焦る。この機会を逃せば奥様やお嬢様に御挨拶すらできなくなってしまう!
「お願います!決して邪魔はしません、一目だけでも御二人にお会いして、お伝えしたいんです!お願いします!!」




