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召喚師(?)さんが召喚されました。  作者: 平野 笹介
第五部 召喚師 式術師 冒険者

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♯65 旅の途中 ―境界線上の暴威

 剣戟の音を頼りに森の中を駆ける二頭の獣。


思い悩んでも仕方が無いと走り出した時に思いついたのだ。

『あ、別に人として乱入しなくても良いじゃん』

と。


そんな訳で、今僕は久しぶりに剣虎モードで木々の合間を疾走している。


結構久しぶりに獣化したんだけど、ステータスのお陰か以前よりも断然動き易く、視力は若干落ちるものの、動体視力が格段に良くなっているのか、すれ違う木肌の模様までしっかりと観察できる程だ。


あの事件以降、青かった毛皮は赤っぽい色になっている。

一度黒く染まった時はそのままかと肝を冷やしたけれど、元に戻らずそれ以上にインパクトのある色に変ってしまったので、冷えた肝ももう別に良いやと、諦観の様相である。


と、益体のない事を考えながら走っていたら、すぐに音の発信源たる現場を見つけられた。



まだ若いだろう冒険者風の男が3人、少し豪華な馬車を背にして薄汚い格好の、恐らく野盗と思しき集団と戦っている。


剣と楯を装備している20代くらいの茶髪、両手で戦斧を振りまわしている30代くらいの金髪、鈍器を構えて相手を殴りながら魔法を唱えている筋骨逞しいはげ頭の年齢不詳の三人は、それぞれが手傷を負ったまま、なんとか数人ずつを相手取って四苦八苦している。



野盗の側は弓を携えた後衛5人と、その指揮を執っているだろう頭目らしき40から50代くらいの鉄兜が一人、冒険者風一人につき2,3人の軽装盗賊が襲いかかっている状態だ。

野盗の総数は現時点で11人。


「おい、重蔵!早うせんと終わってしまう!全部食ってしまおう!」

「いやいやいやいや、食わねぇよ!しかも全部って‥‥」


観察を続けていた僕に恐ろしい提案をする六呂を黙らせて、もう一度思考を再開する。


楽なのは、六呂の言う通り全滅させてしまうのが一番だ。


見まわした範囲で、僕等の脅威になるようなレベル、能力値、スキルや魔法を持った人間は居ないので、単純に全滅させるだけなら問題ないだろう。

けれど、あの馬車の扉上に着いている紋章と思しき物は、恐らく貴族章とかそういう奴だ。


大々的に旗を掲げている訳ではないので、お忍びの(全然忍べてないけど)地方貴族とか、公爵の血縁関係者等の可能性もある。

位置的にフォロール公爵の関係者の可能性が高い気がする‥‥、厄介だ。


もしかしたら、最近規模を大きくしだしたヴォルパ村に対して、何らかのアクションを起こそうとしているのかも知れない。


あくまで可能性の話だけれど、ここで全滅させるのは却下した方が良さそうだ。


次に、野盗を全滅させた場合。


メリットは冒険者風の三人と、貴族(予想)に恩を着せられる事。

そして、ヴォルパ村以外に籍を置く人間と繋がりを持てる事。

即物的ではあるけれど、何かしらのお礼が期待できる事。の三つ。


デメリットは、野盗がこれで全部じゃない場合の後の報復と、助けた人間から情報が漏れて、僕の行動が著しく阻害される可能性がある事。

そして、何らかの形で、今後利用される危険性が有る事。


窮地に陥っているからと言って、必ずしも良い人間が虐げられているとは言い切れないのが、イヤな話だ。


「のう!いつまで考えておる!早う!早う!!折角獣として顕現したのだ!食らいたい!」


『コイツは‥‥、あ、いや待てよ‥‥』


ふとした思いつきが僕の頭を占有した。


「私に良い考えが有る!」

一言告げて、スキルを作り出し始めた僕を、六呂は怪訝そうな目で見つめるのだった。




■■■





 冒険者としてパーティを結成してから数年、段々と力を付けて公爵領での依頼を達成してきた【グランリオン】の面々は焦っていた。


今回の依頼は『公爵の第四子の護衛』で、父であるゲリュス・アルア・フォン・フォロールの誕生日に、何かプレゼントを送りたいと願う公女の為に第一子である長男、パズフがギルドに出した、謂わば簡単なお使い程度の物だったからだ。


嘗てこの周辺に存在したという盗賊の拠点は既に冒険者ギルドと公爵の兵団によって壊滅させられており残党も居ない筈。


地形も平野に少しの丘陵と小規模な森が有る程度で、大型の魔物も存在せず平和な地域だった。


だというのに、不意に現れた盗賊達は自分達よりかは幾分劣るものの、経験豊富な、つまり人を殺す事になんら躊躇のない危険な集団。


グランリオンのリーダーであるデイルは、自身の情報収集能力を過大評価していた事を反省しつつ、全員が無事に生き残る事を目標に魔法の詠唱を続けた。


嘗て何が有ったかなど今はどうでも良い、現在の戦力であれば生き残るだけならば不可能ではないのだ。

例え、無事では無かったとしても‥‥。


「オラオラ、どうしたぁ!?」

「後ろの馬車の中身が楽しみだぜぇ」


下卑た笑い声を上げながら短剣を振りまわす盗賊が憎らしい。

幾ら地力でこちらが勝っていても、三対一ではほんの少し気が逸れただけでも押し込まれかねない。


「デイル!くそっ!今行くぞ!」


二人と戦っていた軽装の戦士であるゼルスが声を張り上げながら一人目の盗賊を吹き飛ばす。

魔法の効果が付与された片手剣は、魔力を込める事で真価を発揮する。

風の魔法を刀身に宿した鉄の剣は、一薙ぎで大の男を吹き飛ばす程の力を持っており、残った盗賊の慌てふためく様を確認しゼルスは自身を奮い立たせた。


戦斧を振りまわすラノックは、敵後衛が放つ矢を叩き落としながらも二人の盗賊を押さえて、デイルとゼルスを上手く守りながら戦っている。


実力は十二分にあるパーティだ、このまま相手が前衛と後衛に別れたまま戦ってくれるのなら、押し切って勝利を掴む事も、恐らく不可能ではなかっただろう。



そんな遣り取りを眺めながら、にやりと不敵に笑う頭目が声を張る。

「手前ぇらぁ!!情けねぇツラしてんじゃねぇぞ!全員で押し込めぇ!!!」


号令と共に雪崩れこんでくる5人の盗賊達に、グランリオンと彼らの護衛対象である馬車の中の数名が暗澹たる絶望感に襲われた。


『こんな所で‥‥!!』


せめて一矢を報い、馬車だけでも何とか逃がせまいかと思考を続けていたデイルの背筋を悪寒が走る。


まるで自分達の居るこの空間だけが夜の闇に侵されているかの様な暗い雰囲気に飲み込まれ、敵味方の別なく、動く事が出来なくなった。



不意に訪れた静寂の恐ろしさを具現化した様に森の藪から現れた獣は、深い絶望をその身から滾らせ此方をじっと見つめていた。





■■■




 まるで子供の頃の寝物語に聞き怯えた、正しく魔獣と言って差し支えない存在感。


公女を守る為にその身を(馬車の中で、ではあるが)滑り込ませた公爵家侍女長のオルノラは自身の選択を後悔した。


馬車横に設置された小窓から外を覗いた瞬間に、魔獣と目が合ってしまった気がしたから。


実際に目が合ったかは分からない、けれど我が目に映った黒い獣はその存在が神を冒瀆するが如く輝き、死を振りまいているとしか言えない物だ。


ガクガクと震えて力の抜ける膝に、なんとか力を入れようと踠(もが)くも、腰が抜けてへたり込んでしまった。

そのまま公女に覆いかぶさり、死の嵐が早々に収まる事を祈る。

願わくは、公女の命だけでも助かりますように。と。




■■■




 『良いか、六呂。先ずは全力で盗賊相手だけに呪詛を振り撒け』

六呂は面倒臭そうにしていたけれど、結局は僕の提案に乗ってくれた様で、取り敢えず一安心だ。


作戦は簡単。

森から姿を現した六呂の、圧倒的な存在感でその場を飲み込み戦闘行為を中断させる。


その後、此方に敵対してくる者が居たら出来るだけ凄惨に食い散らかす。

もしも逃げるようなら、精神体に戻って盗賊の根城を突き止めて、敵の総数を確認し、場合によってはその場で全滅させる。


裏で糸を引く者の可能性があれば、そこまで調べてから必要であれば手を下す事に決めた。


冒険者風の三人と馬車の中身については、余程の事が無い限り手を出さずに無力化し、最低でも一人と馬車の中身だけは生き残らせる事。


幾ら元悪神といえど、僕の式神という枠にギリギリとは言え収まってくれている間は言う事を聞いてくれるので、僕の意図を汲んでくれた六呂は作戦通りに動いてくれる。


『おい、大丈夫なのか?全員固まってしまっているぞ‥‥』


おっと、全員動かなくなるのは考えてなかった‥‥。


仕方ない、プランBだ!


六呂には姿を消す様にお願いして、今度は僕が藪の中を進んでいく。


『もしも向かってくる者が居ったら、すぐに儂を呼び出せよ!?』

とにかく貪欲な六呂に曖昧な相槌を返しながら鞄を木陰に隠し、剣虎モードのままで森との境界線を跨いだ。



「『煩わしいぞ、人間共!』」


有りっ丈の怒気を含めた咆哮と共に、先刻作り出す事に成功したスキル[下位威圧]を発動する。


突如現れた禍々しい獣が消え、気が抜けたかの様にへたり込んだ盗賊と冒険者達が新たに藪から姿を現した赤い毛並みの巨大な虎に目を白黒させて再び固まってしまったので、今度は動き出す事を期待して此方からアクションを起こして見た。


結果は散々。


盗賊の頭目は‥‥、まぁ、アレだ。

色々と漏らしながら腰を抜かして後ずさっている、気を失わなかったのはやはりこの中で一番レベルが高いからだと思う。


冒険者風の三人も、内二人が気絶してしまっていて、意識を保っているのは筋骨隆々な魔導士っぽいはげ頭だけ。


他の盗賊達は、数名が地べたを這いつくばって逃げ出そうとしているが、殆どが泡を吹いて倒れている。


まさか、[下位威圧]だけでここまでの惨状が展開されるとは思っていなかったので、若干引いてしまった。


『ど、どうしよう‥‥』


威圧を解いて相手の出方を待っている僕の背中は、少しばかり哀愁を漂わせている事だろう。と、詰らない事を考えてしまった。

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