♯63 旅の途中 ―回想
いつもご閲覧、ブクマ評価、本当に有難う御座います!
第五部、冒険者編、漸く始ります!
「いやぁ、今日も一日、良い天気だったぁ」
二人と一式の旅が始まって大体一月くらい、ヴォルパ村での事件から一月半ほど経った今日、僕達は王都へと続く街道を目指して進んでいた。
「なー、転移使って一気に進もうぜー、今度こそ大丈夫だからさー」
徒歩での旅はした事が無いらしく、情けない顔でレイクが零したけれど、僕は華麗に却下。
「一度ならまだしも、二回連続で変な所に飛んでる以上、僕は一緒に転移するつもりは無いよ」
そもそも、レイクと僕の目的地は違うので一緒に行動する理由は此方には無いんだけど、途中まででも一緒に行こうと誘われて、今は同行している状態なのだ。
因みに、一回目の転移はヴォルパ村からほど近い山の山頂(標高は凡そ6000mを超える結構な高さ)で、急激な酸素濃と気温の低下に、一気にHPが削れて意識を持って行かれそうになった。
二度目がルゴナ大森林内の、淀んだ沼地の真上に転移。これは咄嗟にレイクを踏み台にして事なきを得た。
レイクは見事に全身アオミドロ塗れになっていたけれど、こればかりは仕方ない。と、言う事にしておく。
どちらの失敗もレイクにとっては初めてらしく、ここまで座標がズレる事は今までに無かったらしい。
超長距離転移でロブロの地下洞窟に到達した際に通ってきた座標を地図上で確認したところ、最終目的地のセルバ王国と出発地点のパロバ大陸西部のクロスア大帝国内グレッドナッド領、そしてロブロの地下洞窟の三点は直角三角形に近い形で結ばれる形となった。
レイク曰く、惑星の自転による影響を忘れていた為に起こった事。とかなんとか。
地理か物理の授業だったかで習った気がしないでもないけれど、正直「あー、なるほどねー」くらいの感想しか持てなかった。
「っていうかさ、僕等が一緒に転移するから変な所に着くんじゃない?」
「あっ」
実のところ、レイクは一度セルバ王国の王都、冒険者ギルド本部のあるスメイまでの転移を成功させていたりする。
事件が一旦の終息を見せた際、用事を思い出して慌てて転移したレイクは、見事に一回でスメイのギルド本部に到達して、目的たる冒険者等級の昇格申請を終えているのだ。
では、何故旅立ったハズのレイクと、村に残ったハズの僕が一緒に旅をしているのかと言うと、事件の後ギルド本部に向かったレイクが事の顛末をギルドに報告して、解決の為に尽力してくれた事に関係している。
そう、あの不愉快で最悪な事件は、思ったよりも悪くない結果を残したのだから、なんとも、遣る瀬無いというか、なんとうか‥‥。
もう日も沈み始めたし、夜営の準備をしながらあの後の事を思い出していこう。
■■■
壊れたボイスレコーダーの様に「どうして」と呟きながら涙を流していた僕に向けて、不意に声が掛けられる。
『のう、重蔵、主はいつまで女子を待たせるつもりよ?』
「‥‥‥‥‥へぁ?」
周りにも聞こえたらしい不思議な声に、ドワーフ達が戸惑っている。
『さっさと名を呼べ、今は幾分機嫌が良いから、主の望みを叶えてやる』
聞いた事のある声。
僕が前世で、一番頼りにしていて、一番式神として呼び出す事を厭うていた存在。
「‥‥黒面銀毛、六呂‥‥」
目の前の黒い火の塊が一度大きく揺らめき、続いて僕の体を虚脱感が襲う。
周りに散らばっていた今までに多くの血を吸ってきたであろう悪趣味な拘束具や拷問器具が硝子の砕け散る様な音を立てて消え去り、黒銀の毛並みと六本の尾を持った小さな狐が、僕の目の前の地面に寝そべった状態で出現した。
皆がどよめき、ラータさんに至っては、腰を抜かして座り込んでいる。
「ふあぁ‥‥、やれやれ、漸く直接話せるな、重蔵よ」
「‥‥、出来れば、今は会いたくなかったけどね‥‥」
月刀ペアや、他の式神達と違って、六呂は本当の意味で僕の式神とは言えない立ち位置にいる存在だ。
本を正せばシーカーズという物探しを生業とする者達の仕事で出遭った、悍ましい存在。
生きとし生ける者を蝕み、人を呪い、呪いを貪り成長する祟神の残滓。
偶然とはいえ、彼女のお陰で僕は拝み屋になるだけの資質を手に入れる事になったけれど、それは一旦置いておこう。
結論だけ言うと、とにかく厄介な相手なのだ。
目の前で寝ぼけている様にしか見えない、この式神は。
「失礼な‥‥、それで、何を望む?重蔵」
僕の心が読める彼女は、憤慨している振りで笑いながら、僕に訊ねてきた。
決まっている、レーネさんを生き返らせるんだ!
「六呂、僕は彼女を助けたい、僕の命の替わりに、レーネさんを助けて欲しい」
頭を下げて、お願いする僕を、六呂が笑った。
「主の命は魅力的だが、そこな女子は別に死んでおらんよ?」
「‥‥は!?」
■■■
壁も天井も、床すら曖昧な真白に染まる部屋の中にレーネさんと僕だけが存在している。
六呂が用意した、現実とは隔絶された不思議な空間で、再会を果たした僕は涙を流して膝から崩れ落ちる。
「‥‥レーネさん‥‥、助けられなくて、本当に済みません‥‥!」
「んーん、じゅうぞうは助けてくれたよ、今だってあたしは生きてるもん」
項垂れる僕の頭を優しく抱いて、レーネさんが声をかけてくれる。
「じゅうぞう、ありがとう、毛並みの色とかだいぶ変わっちゃったね‥‥」
慈しむように撫でてくれるレーネさんの声色に心が軋む。
「レーネさん‥‥、僕は‥‥、僕は‥‥!」
『ほれ、いつまでも乳繰りあっとらんで、早う戻ってこんかい!』
「ふわぁ!?ビックリした‥‥」
うん、まぁゆっくりしてるヒマは無いんだけどさ‥‥。もう少し感傷に浸らせてくれても良いじゃないか‥‥。
「え‥‥と、レーネさん、今から僕のスキルと魔法で、貴女の体を分解して、再生したいんですけど‥‥」
「うん、お願い」
よろしいですか?と確認する前に、笑顔で頷くレーネさんに面喰って一瞬固まってしまった。
そんな僕に、変らぬ笑顔で頷くレーネさんがガッツポーズを寄こす。
「じゅうぞうとの思い出が消えないなら、あたしはどんなことにも負けないよ!」
おんなのこは、案外強いんだから。と続ける辺り、思いのほか逞しいのかもしれないと思いながら、僕も力を行使する。
「いきます‥‥」
真白な空間に光が溢れ、それが収まる頃にはレーネさんと僕は元地下室へ静かに帰還し、それまで気を失っていた双子を含めたドワーフ達全員に、泣きながら迎えられたのだった。
■■■
こうして、村人達の意識が戻る頃には集落時代からの皆のほかに捕えられていたドワーフ達の救出も完了して、全員で門前の広場に戻る事が出来た。
六呂の力で辛うじて【生きているだけ】の状態を維持している調査団の三名を男爵の前に放り投げて、彼らのした事を伝えた上で
「助けたければ非を認めて降伏しろ」
と伝えると、驚くほどすんなりと謝罪の上、大人しく投降した男爵を見て、少し拍子抜けした。
レーネさん含め地下に囚われていた大人のドワーフ達とレイク、そして僕で話し合った結果、回復させてからセルバ王国及び冒険者ギルド、ドワーフの国家ゴウ・パサーツへの報告と、その後商業都市オベロに送還して、国としての対応を見る事に決まった。
「まぁ、爵位や領地の没収は間違いない、処刑を希望するならその辺も伝えられるぜ?」
と、先だってスメイに転移するレイクが確認してきたけれど、今は元通りの健康な体に戻って、何故かご機嫌なレーネさんが首を横に振ったので、僕は黙っておく事にした。
「相変わらず、平和だなぁ‥‥」
レイクの言葉に僕も半分同意しつつ、一週間もすればオベロから衛兵隊が護送に訪れる事になるとの話を受けてから、レイクを見送った。
今回の功労者たるレクスが、僕の変化と時を同じくして黒い魔力を体から溢れさせたらしく驚いたけれど、魔力をおさえれば外に漏れ出さないとの事で、普通の見た目に戻っているレクスにお礼を言って、地下庭園に帰って貰った。
男爵の魔法から解放された村人達からの、正に嗚咽の大合唱とも言える謝罪を受けてから、村の見回りを行い、翌日からの話し合い等を控えた僕達はレーネさんの自宅に戻って休息を取るのだった。
因みに、見回りの際に僕の背に乗っていたレーネさんが相変わらず上機嫌だった理由を知って僕が狼狽し、それを見た六呂が心底楽しそうに笑うという珍事が起きたけれど、それはまた別のお話で。
本当に勘弁して欲しかった。
事件よりも、こっちがトラウマになりそうだった。
■■■
とことんまで忙しかったのは、男爵達調査団の引き渡しまでだったので、期間としては実質二週間程度。
そこからは概ね大きな問題も起こらずに話が進み、僕は冒険者登録の為にセルバ王国に向かう事したのが、大体一月前だった。
同じくらいに、オベロの領王からの招致が届いたレイクがヴォルパ村に現れ、僕にも同行して欲しいと頼んできたけれど、その時にはもう僕の中で無価値になっていた国の王の話なんて聞くつもりは無かったので、其方はレイクに任せる事にした。
はっきり言って、まともではない精神状態の者に爵位、詰るところ権力を与える様な輩の相手をするつもりは無い。
レイクには「今後ヴォルパ村に対して害をなす事が無ければ、此方から何かを言うつもりは無い」旨を、向こうが強硬な態度を見せる場合には伝える様に言い含めて旅を始める事になった。
それでも、出来れば同行して欲しいというレイクが転移魔法を使い、僕を伴ってスメイに向かおうとした際に起きたのが、例の転移失敗事件だ。
僕が歩いての旅を始めた気持ちも分かって貰えるだろう。
こうして色々と大変な思いもしたけれど、領王の招致状に書かれていた内容がヴォルパの自治権を認め、当事者に何かしらの補償を与えるという物だった事と、今回の事件から冒険者ギルドが再発防止策の一つとしてヴォルパに支部を置く為に動き出したらしいので、村の発展という点を考えれば、遣る瀬無いと思った事も、同じく分かって貰えると思う。
「はぁ、失敗したのは俺だし、仕方ないか‥‥、そろそろ分かれ道だし、転生した時の話とか教えてくれよ、次はいつ会えるか分からないしさ」
と、少しさびしそうな顔で言うレイクに、何となく母性を刺激された様な錯覚を覚えた僕は、夜営の準備を終えて晩御飯の支度をしながら、口を開いた。
「あれは今から、36万‥‥いや、1万4000年前だったか‥‥」
理解できなかったレイクに、渾身のギャグに注釈を入れる事になり凹んだものの、僕がこの世界に来る事になった経緯を話し、お返しにとレイクの話を聞きながら、夜は更けていった。
相変わらず大きな月が三つ綺麗に輝いている、素敵な夜だった。
隣に居るのが六呂とレイクでなければ、尚良かった。
と、いう訳で、レーネさんは無事です!
基本的に、この物語では滅多に味方が命を落とす事はありませんので、そういうのが好きな方には面白くならないかも知れません。
ご理解賜れれば幸いです。




