♯60 獣人、絶望す。
毎度ご閲覧、有難う御座います。
今回だけだと、少し「ん?」となる内容になっているので、少しモヤモヤするかも知れません。
そういうのが御嫌な場合は、次話♯61の更新まで、今しばらくお待ち下さい。
レクスを呼び出す直前から始めていた、鳥船と白華の二式による索敵にヒットしたのは、やはり男爵邸だった。
この並列索敵で、下手なGPSよりも正確な位置情報の把握が出来た為、建物自体の構造まで何となく分かってしまった。
まさか半地下みたいな防音施設まで作っていたとは思わなかったので、ドン引きである。
で、僕は今、戦線をレイクとレクスの二人に任せて疾走している。
二式の索敵で分かった事が
1、レーネさん含め入口に居なかった集落時代からの住人が纏められている場所が一つ
2、村に変った後の移住者が纏められている場所が二つ
3、それぞれに調査団の数名が見張りについている
以上の三点だったからであり、現実問題として、村の入口前広場よりも早急に対処を要すると判断したから。
因みに、二式の索敵開始後、流れてくる情報が最適化されていく事に気が付いた僕は、不審に思いながら自身のステータスを確認し、新しくスキルと称号が増えていた事に気が付いたけれど、取り敢えずそれは今は置いておく。
生命活動が有る事が分かった時は一安心したけれど、生きている=無事である。と、絶対に言い切れる訳では無い事を痛いほど知っている為。
戦線を任せた二人を残し、地面が抉れるのも構わずに走り出した。
■■■
村の正面門と外壁を初動で壊してしまったけれど
『無事に解決したら早めに直すので勘弁してもらおう』
なんて思いながら走っていると、目の前に男爵邸が見えてきた。
『鋼拳、月刃』
円月・新月の月刀ペアを拳に纏い、更に加速、跳躍する。
空中で方向転換して
『刀鴉、四象二編、八重単』
空中に固定した結界を足場に、地面に向かう。
既に遥か上空となった結界の砕ける、鈴の鳴った様な「シャン」とか細く高い音が響いた。
『二編じゃ弱いか‥‥』
今後、結界を足場にする時の強度を確認しつつ視線を送った先、男爵邸の門扉の前には、索敵結果通り、門番が二人。
槍を携え、全身を鎧で包んだ門番の後ろに音無しく着地し
『鈺黒爪狛、白粉花』
首元に手を当てて式神を発動した。
「ん!?どうした!?だいじょ‥‥」
ガシャリと音を立てて崩れた片割れに気付き声を上げるも、同じ音を立てて意識を失う事になったもう一人の門番を見降ろし、息を吐く。
『疑わしきは罰せず。なんて、レイクに笑われても仕方ないのかもなぁ‥‥』
今の音で男爵邸内に動きは感じられないので、まず間違いなく伏兵の心配は無いと言える。
ここからが本番だ‥‥。
■■■
三代 重蔵は、元々平和主義者である。
痛い事は、するのもされるのも嫌いだし、圧力には抵抗せずに受け流す努力を惜しまなかった。
中学生になって初めての夏、街中へ買い物へ出かけた時にカツアゲの現場を止めようとしてしまった結果、道場師範である師匠に半ば強引に入門させられた時など、本気で逃げ出す事ばかり考えていたくらいだ。
「いや、だから痛い思いをさせてしまう事自体が嫌なんですってば!」
「バッカ、お前!目の前で死にそうになってるヤツが居たらどうすんだよ!痛い思いさせたくないからこそ、助けてやれるはずだろ!?」
「違いますー。ちょっとした悪党みたいなのでも、出来れば平和に事を治めたいんですー」
「だぁから、それなら尚更、ブロック塀の一つでも粉砕して見せてやりゃあ大人しく解散!ってなるだろうがよ!」
「ああああぁぁ!もう!分かんない人ですね!」
「こっちのセリフだっつーの!」
当時13歳と、76歳の会話がこれである。
結局言い負かされてなし崩し的に学ぶ事になった歴史の長い(らしい)武術は、悲しいかな抑止力として、師匠の言葉通りに争いごとを遠ざけてくれたのが重蔵に、尚の事苦々しく感じさせた。
そうして青春時代の一部を道場で消費し、その最中に人助けをし始めてから、彼の人生は大きく狂う事になる。
人を助ける事自体が自身の自尊心を満たし。
人に感謝されると途方も無い多幸感に襲われる。
まるで依存性の高い薬物の様なソレは、まだ幼かった重蔵に正義のヒーローを夢見させるには十分だったのだ。
そうして彼は、自分の住む場所とは遠く離れた土地での救助のボランティアを開始し、拝み屋と、探し屋を経験する事になる。
勿論、結果的には、大いに彼を助ける事になる経験ではあるものの、社会の汚い部分にも接する頻度が増えた為、普通に暮らす上で見なくても良かった筈の諸々を目にした重蔵は、心を蝕まれる事にもなったのだから、一概に
「良い経験をした」
とも言えないのは、言うまでも無い事だろう。
『このまま進んで、次の部屋に階段‥‥、かな?』
隠密行動中に頭の中で独り言を漏らしながら進むのも、経験上、或る意味仕方のない話だ。
▼クローシュメル男爵邸 地下防音施設前
『‥‥ふむ、不用心な』
警備兵と思しき二名を気絶させ、縛り上げ、猿轡を咬ませてから、難なく邸内に侵入を果たし、廊下に設置されていた姿見(邸外へ出る際か、男爵謁見前の身だしなみチェック用だろう大型の鏡)に写った、真黒に染まって、尻尾が5本追加された自分の外見に心臓が止まる程驚いたものの、なんとか騒ぎを起こす事無く歩を進められた僕は、そんな平和な感想を抱いた。
音も無く扉を開き、音も無く地下へ続く階段を降り切り、音も無く扉に手をかけ、少し拍子抜けする程である。
ドアノブに電気が流されている訳でも無ければ、魔法の反応的な物も見当たらない。
『こういう時、こういう場所なら、罠が有ってもおかしくは無いんだけど‥‥』
鳴子やトラバサミ、サーモセンサーや集音機械とまでは言わないけれど、そう言った現実的な何かしらも全く見当たらない上、もっというと、見張りすら、部屋の外には配置されていなかったりする。
こうも何事も無い状況が続くと、悪い想像ばかりが出てくるから嫌だ‥‥。
『まぁ、最悪魅了されてたとしても、解除魔法はレイクに頼めるし、そこまで悲観的になるのもどうかって話か‥‥』
事実、いくら防音されていると言っても、科学的な装置はないし、魔法の反応も無い以上、そこまで素晴らしい効果は無いのだ。
現に、野郎の笑い声が、本当に僅かにだけど、聞こえる程度‥‥。
『聞こえる‥‥程度‥‥?』
不意に全身の血が凍りつく様な感覚に襲われる。
何が最悪魅了されてたとしても、だ!
最悪の事態なんて、いくらでも想定出来たハズだ!
ヴォルパの(今は既に村になった)集落での生活に浸かりすぎてた。
「『クソッ!!!!』」
二つの声が重なった様な怒鳴り声を上げながら、声が漏れ出ていた扉を拳で文字通り粉砕し、中に入
「『‥‥オ前ら‥‥、何シてんダぁァぁぁあアあ"あ"あ"あ"あ"ア"アあああァアああああ!!!!!!』
ハ 界 し 。




