♯59 黒い獣、白い毛虫
やってしまった!少し遅れましたが続きの投稿です、すみません(汗
苛々、くらくら、苛々、ぐらぐら‥‥。
レーネさんがいない。ラータさんも、ラーダさんも、ガーバさんも、お隣さんトコの双子、トゥーラとトゥーレも。
最近この村に来た人達は、まだ全員覚えていないけれど、その中の数人も見当たらない。
総数から見ると僅かな人数では有るけれど、恐らく何らかの形で男爵の【魅了】を防げたのだろう。
そして、何処かに囚われている。
それか‥‥
「なぁ、聞こえてるか?他の皆は何処に居るって、聞いてるんだけど」
自分でもこんな声が出るのかと驚くほど、冷たい声が出た。
調査団を含め、目の前のドワーフ達が身を竦ませているのが少し悲しい。
「‥‥ほ、本性を表したな‥‥、邪悪な魔女め。我が調査団員だけでなく、この村の者まで手に「何度も同じ事言わせるな。次は無いぞ。あと、調査団だか知らないけど、洞窟に来た二人は死んでねーよ」」
返答次第では全員を相手に戦わなければならない。
もし脅しが効き、監禁されている場所が分かれば、調査団を含め全員無視の最速で救出に当たる。
すぐにでも行動に移せるよう、足に力を込めて
「聞きましたか?同胞たちよ!あの魔女はやはり邪悪な存在!奴の言葉など所詮は紛い物!命を奪い、平然とする、最悪の存在!!!故に奴を匿ったこの村の全員は、血で贖う必要がある!そうですね!?」
全員が武器を構えた瞬間、踏み出そうとした足が地面に縫いつけられる。
「形勢逆転だ!忌々しい魔女め」
調査団は既に不可視の結界で囲い、村の皆の前には此方に向かってこられない様、見えない壁を設置していた。
『あぁ、そこまでするとは思わなかったなぁ‥‥』
正直な感想。
同胞だ、仲間だと言いながら全員に武器を持たせ、僕の行動如何で攻撃させる、肉壁にする、自害させる。と、選択肢を用意していたらしい男爵に、吐き気を催す。
「吾輩の合図一つで、お前の大切な人達の首が飛ぶ。良く考えて行動するが良い!」
これじゃあ、結界は役に立たない。
『くそ‥‥』
式神を総動員すれば広域殲滅は簡単だ。調整が上手くいけば、死にはしないハズ。
しかし、万が一を考えるとそんな手段が取れる筈も無く、男爵の命を奪えば【魅了】が解除される確証も無い為、安易に叩く訳にもいかない。
『命令権を持つのが男爵だけとは限らない‥‥』
目の前の調査団の中には、状態異常:魅了でない者も数名いる上、副団長の人間種の女も見当たらないなら、賭けに出て下手を打つ事は許されない‥‥。
「おぉ、ヤベェな、何だこれ」
考えが纏まらずにただ時間を浪費していた僕の後ろから、間の抜けた声が聞こえた。
「おいおいおい、じゅう‥‥重蔵だよな?なんか見た目魔獣だけど‥‥どうなってんだ?コレ」
首だけで振りかえったら、そこには調査団の二人を連れたレイクが立っていた。
地獄に仏だと嬉しいけれど、少しばかり不安になったのは、この先もレイクに伝える事は無いだろう‥‥。
■■■
「はぁ、成る程ねぇ‥‥」
魅了が解けて数分が経ち、或る程度記憶や意識がハッキリしてきたのか
アーサー・レベット・フォン・グレッドナッド、東の大陸から超長距離の連続転移魔法で
ロ・ルゴナ大陸にやってきた勇者の質問に落ち着いて答えられるまでの回復を見せている二人。
調査団の副団長補佐官、ロズガ・アグザと、調査団に二人しかいない、回復職のレネリ・ロネリだ。
「なので、ゴウ・パサーツで屈指の職人として、本当なら今も幸せに暮らしていたハズなんです‥‥」
レネリは悲しげに眼を伏せながら、今回の黒幕たるドワーフの貴族、ゾベル・フェイン・クローシュメル男爵についての弁解を締めくくった。
どうやら副団長補佐官のロズガの父も、男爵を含む十数件の工房と同時期に人間種の技術者によって、店や権利を奪われたらしく、それが十年程前の話だった。
「で、今からちょうど五年前、商業都市オベロで起きた政府に敵対する勢力を囲いこんだ集落を、当時オベロで傭兵団にいた男爵が指揮する部隊で殲滅したのが、反政府集落殲滅戦です」
かの一件において、当時はオベロの傭兵団分隊長だったゾベルが所持していた、
【魔獣の呼子】の効果で目覚ましい戦果をあげ、オベロの領王に爵位を賜る事となった。
「男爵はあの一件から、段々と他種族、特に人間と獣人を憎む様になりました」
権利や店を奪った者達が、自分の時と同じく、人間と獣人の集団だったのだろう。
と、ロズガが続けた。
「しかしまぁ、どんな世界でも同じような事が起こるもんなんだなぁ‥‥」
「そうかも知れませんね‥‥。ところで、私達はどうなるんでしょうか‥‥」
ままならない世知辛さに愚痴を零すアーサーに問いかけるレネリの口調は、かなり悲壮感が漂っている。
戦闘終了時、魔女と呼ばれた獣人たる、重蔵に対する彼の言葉使い等を思えば、仕方がない話である。
命を奪われてもおかしく無い事をした以上、彼らの裁定に委ねるしかないのも事実だが。
「アーサー様、どうか、レネリだけでも助けて頂けませんか?自分はどうなっても構いません!どうか‥‥!!」
「‥‥ロズガ」
「いや、別に殺さねーし。今からお前らには村まで案内して貰うんだから」
重蔵にはここで待機する様に頼まれたけれど、少し不安だ。
『甘いんだよなぁ、色々‥‥。俺が助けてやらないとな!』
決心を胸に、ドワーフの男女を連れた東の勇者が行動を開始した。
■■■
「はいはい、重蔵君ですよー。今僕は、絶賛四面楚歌中なのさ。‥‥所で男爵‥‥」
縄で繋がれたドワーフの二人組を連れたレイクに応える為に発せられた声が常態に戻っている事に我がことながら驚きつつ、視線を男爵に戻す。
「どうだ!見た事か!二人とも無事に生きてるじゃろがい!」
「何語だよ、それ」
「騙されてはいけませんよ、皆さん!」
微妙に言葉使いが崩れた僕に、レイクと男爵が反応する。
今度は男爵よりも先に言葉を吐き出す。
「皆、正気に戻って下さい!どうか、傷つけさせないで下さい、お願いします!」
周囲がザワつき、武器を下ろし始めた。
静かに皆を見つめながら祈る‥‥。
何事も無く流れる日常が、本当に心地良かったこの村の皆には、これからも笑っていて欲しい。
「そろそろ諦めろ!見苦しいぞオッサン!」
相変わらず我が道を行くレイクが、男爵と僕の間に入り、降伏を勧告する。
「コイツはお前の生活を奪った人間じゃないし、個人的な恨みが有る訳でもないだろうが!」
『いでませいでませ、白尾紅口、白華』
うんうん頷きながら、左腕に力を込める。
「クソッ!神の御名に栄光あれ、[魔法下位広域化]!」
「いや、聞けよ!何したって無駄だっつーの、大人しくしろって!」
「浄渦の福音、神の御名の下に、我が声を聞け、[魅了]!」
武器を下ろしかけていた皆の手が止まり、再び自身の首に武器を当て出す。
「えぇ‥‥?まじかよ‥‥」
「今更止まるつもりは無い!ドワーフ以外は、全て滅ぼす!死ね村人共よ!死んで俺様の「レクスーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」
ふざけんな!最後まで言わせてなんてやらないぞ、男爵。
恐慌状態で、矛盾した言葉をがなりたてる男爵の言葉を遮って、レクスを呼び出す。
レイクの数メートル後ろ、僕の眼前の地面に、魔導輪が浮かび、光の繭が構築される。
数秒の光の発散を終え、光の繭が消えていくと、そこにはレクスが存在していた。
『重蔵、おまたせー』
少し前に別れたばかりなのに、なんだかすごく懐かしく感じて、今までの気分がウソみたいに落ち着いた。
ブチ切れたけど、すぐに治まっちゃいましたね。
勇者様様?です。




