♯56 勇者、跳躍す。 神々の遺物
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物語の進度や密度は大丈夫でしょうか?丁度良いとうれしいのですが‥‥。
「まさか、ここで使う事になるとは思わなかったが‥‥」
ドワーフの壮年男性、ゾベル・フェイン・クローシュメルが、静かに口を開いた。
ヴォルパ村に新設された、クローシュメル男爵邸の一室で、同じドワーフで調査団に所属する数名が集まっての会議が行われていた。
男爵が会議用の大きな円卓に静かに置いたのは、少し汚れが目立つ、奇妙な形の首飾りだ。
「まさか、それがあの【魔獣の呼子】でありますか?」
ドワーフのみで編成されている調査団にあって、剣の腕と知略の鋭さから、人間種でありながら特例として副団長という重要な役割を務めているバレイン・ストーツが口を開く。
「なんと‥‥」「まさか、これが‥‥!?」
等、ザワつく会議室内を満足げに眺める男爵が、一つ頷く。
「その通り、これが吾輩の持つ、最強、最高の神々の遺物、【魔獣の呼子】である」
汚れて穴の開いた骨の塊に、薄汚れた革の紐が括りつけられている、御世辞にも「首飾りの様な物」にしか見えない散々な見た目では有るが、その名の通り魔獣を誘因する音色を発する、呼子笛としての能力を有しているアーティファクトだ。
世界中に残る伝承に姿を残す女神たちが遺したと言われている、アーティファクトと呼ばれる遺産群。
大帝国や歴史有る国においても保有数は多くても二つで有り、その希少性は途轍もなく高い。
商業都市国家の一貴族であるクローシュメル男爵が、何故そのような希少価値の高いアイテムを持っているのかは分からないが、自信満々にお披露目を行った以上、奪われる心配など、皆無なのだろう。
事実、感嘆の声は漏れているものの、誰一人として手を伸ばそうとする者は会議室内に存在しなかった。
「さて、それでは副団長補佐、ロズガ・アグザ、貴官にはこれを使って貰おう。レネリ・ロネリを伴って、ログロの洞窟で魔獣を呼び出し、あの忌々しい獣人を滅ぼすのだ」
たったの二名で、巨大な岩トカゲを倒した獣人の相手など務まる筈がない事は誰の目にも明らかだったが、過去に男爵が指揮を執った【反政府集落殲滅戦】を知る者は、噂のアーティファクトの存在に、寧ろ胸を躍らせる。
何しろ、使用者とその仲間には危険が及ばず、敵対する全てを叩き潰す暴力が手の内に有るのだ。
これがあれば、例え男爵の[説得]が(有り得ないと思うが)万が一、上手くいかなかったとしても、力を背景にヴォルパ村を支配下に置ける。
一匹の獣人の犠牲で、調査団は素晴らしい実績を残せると有って、会議室に集まった皆の顔は、愉悦を湛え、一様に歪んでいた。
■■■
【魔獣の呼子】受けてから、獣人が村を出るまでの数日は、本当に気が狂いそうだった。
いつまで待てば、暴れられるのか。
いつまで待てば、貪り食えるのか。
あぁ、あぁ!今こそ、我ら栄え有る調査団に、勝利の瞬間を!!
醜く賢しい獣を、俺たちが今排除するのだ。
俺たちこそ、同胞の村を救う、救世主なのだ。
何も知らずに洞窟に入って行った獣人を。
泣き叫び命乞いをする、醜い魔女を。
魔獣の牙と俺達の剣で浄化せしめるのだ。
「レネリ、俺は今から【魔獣の呼子】を発動させる。しっかりと補助してくれよ」
自然と浮かぶ、爽やかな気持ちに引き摺られ笑顔を晒す俺に、レネリも笑顔で頷いた。
「任せて、私達の未来の為に、ロズガの事は何が有っても守ってみせるわ!」
重大な任務を果たして、明るい未来を思い描く俺達は、世界で唯一、神に祝福されていると実感する瞬間だった。
任務開始だ‥‥!
▼ログロの洞窟 三階層目 レクスの地下庭園
まだ日も高い為、お別れ前に少しだけゆっくりしていく事にした僕は、レクスと日向ぼっこをしている。
『なんか、今日は休憩してばかりだなぁ』
とも思ったけれど、今まで村の拡張や整備、その他諸々で忙しかったし、たまにはいいだろうと、のんびりさせてもらう事に決めた。
決めたというのに、面倒事はやってくるようで、僕等の目の前には今、大きな魔導輪が展開されている。
「なんだこれ?魔法陣?」
という、僕の独り言に
『魔導輪っていうんだよ』
と、レクスが教えてくれた。
何が違うのかまでは分からない。
で、レクス曰く、攻撃じゃなくて転移の魔導輪だから術者が居ない以上、中断させる事は出来ないとか。
魔法について詳しいのは、スキルのお陰か、称号の効果か。
こんな事なら年齢とか性別よりも、先にスキルとか魔法について聞いておけば良かった。
我ながら残念すぎる。
ともあれ、警戒の為に式神を展開して魔導輪に向かっていつでも攻撃を始められる様に構えた。
失敗しても、それを取り返せれば良いのだ。
全身全霊で警戒しつつ月刀組を手甲形態に変化させて、干渉する腕防具を外した辺りで、魔導輪の光が収束し、人影が現れた。
「~ー?~ぉ、~~だ~~。~!?な~~~~~ら!?」
何でこう、シリアスな展開を予想すると、コミカルな展開になるんだろうか。
神様が居たら、絶対性格悪いデスネ。
何を言っているか分からないけれど、取り敢えず僕達を見て驚いているだろう少年に向けて、僕は構えを解き、両手を上げた。
■■■
「~ー、ドワーフ語カ、一応勉強しといタ良かったゼ」
取り敢えずレクスを僕の後ろに隠す形で一歩前にでて挨拶をした僕は、少し驚いた。
この空間に現れた時の少年の言葉がサッパリ分からなかった為、最悪戦闘開始も考えていたくらいだし。
「あぁ、言葉が通じるって、素晴らしいですよね‥‥」
「あン?苦労してたカ?大変だナ」
地味に分かりづらいけど、外国人が間違った日本語の文法で話している感覚に近い‥‥のかな。
『その内慣れるか‥‥』
『その人、敵じゃないの?』
敵じゃないよー、今のところは。
一応の自己紹介を進めて、僕とレクスに交戦の意思が無い事を伝えると、少年は快活に笑っていた。
「いやぁ助かったよ、MPも残り少なくなってきたし、困ってたんだわ」
この階層の水場に案内すると、心底ほっとした様子で、レイクが笑った。
レイク・スミス、この世界での名前はアーサー・レベット・フォン・グレッドナッドというらしい。
僕が名乗ったらかなり驚いて
「あれ?もしかしてアンタ日本人か!?」
と聞かれたので
「yes,I'm last samurai」
と答えたら思い切り噴き出された。
「いや、この世界で英語が聞けるとは思ってなかったよ」
と、生前の名前を名乗って笑っていた。
あとはフジヤマとゲイシャくらいしか喋れないよって言ったら、それは英語じゃないから問題ないと今度は盛大に笑われた。
まぁ、ドワーフ語にも慣れ、緊張も解れた様で何よりデス。
嘘じゃないヨ。
一頻り笑いあって打ち解けたので話を聞いてみると、どうやらレイクは東の大陸で産まれた勇者様だそうな。
此方は獣人だってのに、こいつは勇者様‥‥。
不公平な世の中だ。すごい爽やかな笑顔のイケメンだし。
まぁ、僕は今は美少女とまでは行かないまでも、水に映った自分の顔に惚れそうになった事も有るので、十分可愛い筈だし、イーブンだな。
はい、そこー、ナルキッソスとか言わない様にー。
レイクが、MPも有る程度回復したらしく、少し残念そうに口を開いた。
「あー、色々と話も聞きたいんだけどさ、ギルド本部に行かなきゃなんないんだ」
本部って事は、昇級だろうか、結構な実力者みたいだ。海を越えて転移魔法で飛んでくるなんて、並じゃないし。
レイクの持っていた地図を見ると、直線距離で恐らく4000キロ程を海に浮かぶ小島を目標にした高精度にほぼ無休での転移。
勇者っていうのもうなずける埒外さに、舌を巻いた。
「あれ?でも、ギルド本部って、スメイでしょ?ここって、地図だとこの辺だから、地味に遠回りしてるね」
「shit!まじかよ」
よし、コイツも案外残念だった。まだ負けてない!
詰らない対抗意識を燃やし、少しだけ溜飲を下げながら大まかな位置を指差して、再会を約束した。
僕達は、何だか友達みたいに見えたかも知れない。
「じゃあ、サンキューな。ヴォルパ村だっけ?用事がすんだら顔出すよ」
「ん、気を付けてね、方向音痴の勇者様(笑)」
「笑ってんじゃねー」
先ほどよりは少し小さな魔導輪の残滓が、ダイヤモンドダストみたいに煌めく様子は、不覚にも感動する綺麗さだった。
短い時間では有ったけれど、面白い話も聞けたし、改めて村に帰る準備を始めた。
差し込む陽光はオレンジに色づいて、日没に近付く空気は、レイクの笑顔くらいには、さわやかだった。




