♯55 獣人、驚愕す。 これは流石に予想外
重蔵が地下洞窟を離れる決断を下す、ほんの数十分前。
ルゴナ大森林の外れ、大陸東の海岸線で、大規模な魔法が発動していた。
半径数十mにも及ぶ巨大な魔導輪が空間に展開され、夥しい量の魔力が放出される。
幸いにして、小さな集落が幾つか存在するだけの限界地点という事で、国を巻き込む様な混乱は起きなかったものの、数ヵ月後、人伝に各国家に齎された情報が世界中を駆け巡る事になる。
曰く、災厄種の再臨。と。
「‥‥あー?随分辺鄙な所に飛んだなぁ‥‥。もちっと調整して‥‥と」
災厄種と間違われる事になる少年はもう一度転移魔法を発動させ、空間を飛び越える。
『今度こそ!目指すは冒険者ギルドの本部だぜ!』
目的地まで後3回の空間跳躍を残した少年は、元気いっぱいに出発した。
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「さて、と。コレで取り敢えず村に戻るかな」
ロブナさんが動く球根こと、コブブ種の頭頂部(?)の葉っぱを食べられると知り、村へのお土産分を除いた全てを差し出し、帰還の準備を終えた。
一応の挨拶を。と、一言だけ村に戻りますと伝えた所、ロブナさんは分かっているのか分かっていないのか、此方をじっと見つめている。
まぁ、今回の探索は不完全燃焼気味なので、村の様子を確認したらすぐにまたこの辺りまで戻るつもりだし、少し名残惜しいけれど一旦お別れするだけだ。
出来ればもう少し詳しく観察してみたかったけれど、装備とまでは行かないまでも、色々と使えそうな素材も手に入った事だし、優先順位は村でのアレコレなのだ。
洞窟から村に意識を切り替えて歩きだした所、予想通りと言うかロブナさんが付いてきた。
ステータスを確認したところ、その辺の魔物であれば束になっても敵わない程にレベルも上がって、全快状態のロブナさん。
元々強かった所に、僕と一緒になって魔物を倒しまくった物だから、出会ってからのこの一時間程で、ロブナさんはレベルが5、僕は2上がっている。
これは大トカゲ戦の時に理解した事ではあるけれど、ゲームみたいにPTを組んでという訳では無いので、変な違和感が有った。
で、ロブナさんは、既に一人でもこの階層周辺で有れば問題無く暮らしていけるハズだ。
振りかえって、話しかけてみる。
「えーと、ロブナさん、僕はこれから地上の村に帰らなければいけません。近いうちにまたここに来ますので、ここで一度お別れです」
言葉が通じているか分からないし、ロブナさんにも表情が有る訳じゃないから判断は出来ないけれど、伝わってくれた事を祈ろう。
『おわかれ?レクス、一人?』
‥‥‥は?え‥‥、ちょ‥‥。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
僕の頭の中で、ファストフードの有名チェーン店と某海綿生物とのコラボCMが流れたのは言うまでも無い。
なんとも不思議な体験ばかりで、僕の頭はどうにかなりそうだった。
或いは、既にどうにかなっているのかも知れない。
それはそれで、冗談じゃないけど。
▼ログロの洞窟 三階層目
結局、既に見慣れた、地下洞窟三階層目まで戻ってきた僕の少し後ろには、白い毛虫が付いて来ている。
勿論、ロブナさんだ。
なんでも彼(彼女?)は、生まれてこのかた同族と出会えず、通常個体の毛虫からは攻撃され、球根にすら追い立てられて、第五階層目で生活していたらしい。
元の生まれが五階層目なんだけど、生まれる瞬間卵が大爆発、卵を攻撃しようとしていた小型の地竜を巻き込んで、文字通り爆誕したらしい。
称号やスキルの一部は、その時に得たものだろう。
仲間を求めて階層を移動し、六階層目で色以外そっくりな魔物を見つけて近寄るも撃され、五階層目に戻る。
何度も繰り返して、空腹で体力も減ってきていた所に、僕が現れたらしい。
攻撃してこないから付いていく。とか、ロブナさんは今時の幼稚園児よりも危なっかしい。
いや、教育次第だろうから、ロブナさんが悪い訳じゃないけど。
最終的に僕が考え付いたのは、三階層目の僕らが使うキャンプ小屋を、一時的にロブナさんに使って貰う案だ。
一応、携行食料等の備蓄は有るし、この周辺に魔物の巣や、出現する様な穴は無いので、比較的安全だから。
こういう時素直に、ゴーノさん達ドワーフ直伝サバイバル術の訓練を受けていて良かったと思える。
と、ここで思い出した地下洞窟についての考察。
縦穴が有り、日光のあたる場所が有れば、地上の植物の栽培も出来る可能性が有るし、なんだったら既に何かが自生しているかも知れない。
水場はすでに知っているので、一度荷物を置いて縦穴を探す為、僕達は移動を開始した。
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移動中は、勿論例のごとく情報収集。
レクスにはとことんまで質問させてもらった。
呼び名に関しては、途中までは【ロブナさん】と呼んでいたんだけど、レクスが名前だからそう呼んで欲しいと言われ、なし崩し的に敬語も却下された。
なんかムズムズするらしい。
因みに質問内容は、年齢、性別、主食に睡眠のサイクルと、今までの戦闘経歴にこの世界について。
で、結局ハッキリと分かったのは主食と睡眠サイクルだけという結果に‥‥。
どうやら性別は良く分からない上、年齢については何となく数年生きているくらいしか分からないそうな。
『洞窟の中だと、よくわかんないもん‥‥』
「うん、なんかゴメン」
産まれた時に倒したらしい地竜以外とは、特に戦った事が無い事と、洞窟の、それも5,6階層以外には移動した事が無い為、他の土地等もサッパリ分からない事も判明した。
結局、植物食であるのと、睡眠は眠たくなったら寝る生活である事だけが分かったんだけど‥‥。
これじゃ、何も分かっていないのと大して変わらないデスヨネ。
まぁ、仕方ないか。
「おっと、レクス、あそこ、日の光で‥‥だ」
敬語が出そうになって、変な言葉になった。
僕は僕で、会話スキルが低い気がする‥‥。
会話スキルはその内磨く。あと、レクスが分からない事なら僕自身がいつか調べなおせば良い。と気持ちを切り替えて視線を送った先。
岩壁で隠れてはいるものの、恐らく角を曲がれば日の光が降り注ぐ場所が有るのだろう、地上に近い匂いがする。
『ごはんいっぱいだとうれしい』
「だねー」
なんだろう、なんとなく落ち着く会話のテンポだと思ったら、レクスの会話の間は、レーネさんと雰囲気が似てるのか。
すごい和む。
なんて、妙な感慨に身を浸しながら歩いて、魔物の気配を結界で探ってから角を曲がる。
『わぁ』
「おー」
ちょっとした原っぱというか、地上の森の一欠片を、そのまま地下に移した様な景色が広がった。
天井の大穴から差し込む日の光の軌跡が、幻想的な光景を演出している。
ここなら、レクスも平和に暮らせそうだ。
僕も安心して村に帰れる。




