♯54 男爵、画策す。 身中の虫
部下の人心掌握は俺様の得意とするところだ。
今まで俺様の下につく者達は皆、俺様に心酔しているのか、最終的には簡単に操る事が出来た。
俺様の偉大さが、恐らくはそうさせているのだろうが、だからと言って気を抜いていては足元を掬われるだろう。
今後、より力を持つ為に、万難を排し、着実に進んでいく。
この村は、その足掛かりだ。
数日後には忌々しい生意気な獣人が洞窟に向かうらしい。
今から根を張り、奴を洞窟で仕留める事を目標に、それが失敗しても村に居られない様に手を回す。
何、俺様のカリスマ性が有れば、この村でも上手くいくだろう。
全てが終われば、今度こそ爵位も上がるはず、今からそれが楽しみで仕方無い‥‥。
▼ヴォルパ村集会所
「成る程、それでは彼の獣人はそれほどまでに信頼に足る者だと‥‥」
「ジュウゾウだ、獣人なんて呼ぶんじゃねぇよ‥‥」
族長を含めて、ラータにガーバ、そしてゴーノを含めた四人が集会所に集められた。
道を歩いていたガーバが、調査団のベレル・ランベルに呼びとめられて、集会が決まったらしい。
最初は何でまたこのメンツで?という顔をしていた者達も、開口一番にベレルが
「バーン殿方は、あの獣人をどう思っておられるのですか?」
なんてふざけた物言いから、調査団のキナ臭い部分が見えた気がして、皆は人員にも納得した様だ。
即ち、重要人物の中に重蔵に対しての不満等が有るならば、それを足がかりに村全体を取り込もうと言う腹積り。
しかし、残念ながら住人から上がったのは、それぞれ、生活や環境面、危険の排除なんかでの、重蔵の活躍と、その働きへの感謝ばかり。
それまでは
『何故獣人なんかが暮らす事を許しているのか』
くらい考えていそうな状態だったが、話が始まると、嫌に素直に頷くベレルが、逆に不気味だった。
『まぁ、性格がねじくれてるのは男爵野郎だけだと助かるんだがな‥‥』
なんて、ゴーノが心の中で考えていると、ベレルが何かを呟いている。
「獣人は安全?‥‥しかし、虐げられている人たちが‥‥」
傍から見ると情緒不安定なベレルに、射抜く様な視線をぶつけながら
「ベレルとか言ったね?アンタが男爵の坊やから何を言われたのかは知らないけどね、以前からヴォルパにいた村民達は、ジュウゾウを仲間だと思っている。‥‥この意味が分かるね?」
不意にラータが口を開いた。
歴戦の兵であるゴーノや、族長として長く生きてきたバーンをして
「あの時の婆さんは間違いなくオーガもはだしで逃げ出すぜ」
と言わしめる程の雰囲気に、まだ経験の浅いドワーフの若者であるベレルが耐えられるはずもなく、集会所の雰囲気が暗く、冷たくなっていった。
バーンが慌てて間に入り口を開く。
「ま、まぁ、ベレル殿、そういう訳で、村の皆はジュウゾウに感謝しこそすれ、疎んじたりといった事は無いぞ、多少のやっかみなんかは有っても、な」
だから安心して生活して欲しい。と付けくわえたバーンと主要人物達の目を見て、ベレルは頷き返事はするものの、内心酷く混乱していた。
『クローシュメル男爵‥‥、私はどうすれば‥‥』
■■■
ベレルが集会所で背筋を凍らせる程の目に遭う直前、彼の同期で調査団副団長補佐を任されている、戦士のロズガは、調査団が到着する少し前に移住したポーテという商人の店での聞き取りを終えて、男爵邸に向かっていた。
『やはりここでも奴は白か‥‥』
商売敵という言葉も有るし、或る程度の敵対関係も期待していただけに、彼女の獣人を褒める言葉の一つ一つが、彼の精神をガリガリと蝕んだ。
魔法によって、岩石から硝子を精製したり、鉄製品の強度を変えたり、単純に、店舗の運営についての新しい制度の導入を提案したりと、国家内でも公にされていない部分を、獣人によるアドバイスで補う事が出来たとか、冗談にしても性質が悪い。
それでも、鉄の強度を変えられるという事は、上手く利用できれば調査団の戦力増強にも繋がると考えて、話し終わりに笑顔で礼を言えたのは、悪くなかったと言える。
『取り敢えず日も傾きだした事だし、一度男爵邸に戻って報告だな‥‥ん?』
商店を出て狭い路地に入った瞬間、ドワーフの男が二人、睨みあっているのがロズガの目に入った。
どちらも鍛冶師だろうか、作業着に身を包んで、何やら言い有っている。
「御両人、どうかしたのか?俺は調査団のロズガ・アグザと言う、落ち着いて話を聞かせて欲しい」
名乗りを上げて両手を上げたまま近づくロズガに、一人は鼻白んで舌打ちを残し歩き去り、もう一人がため息をつきながら向き直る。
「いや、なに、アイツと俺はもともと同じ師匠についていたんだけどな、どっちが優秀かを決める為に、この村で一旗揚げるって、簡単な競争のつもりだったんだよ‥‥」
路地から出て、歩きながら話を聞けば、ゴウ・パサーツから移住してきた二人の鍛冶師は、片方が村一番の鍛冶師に師事を請い、片方がそれを裏切り行為だと非難して、険悪な雰囲気になっていたとの事。
「俺だって、別に師匠を変えるなとは言わねぇさ、けどな、噂じゃ獣人の依頼を受けて、この村の鍛冶師が装備をこさえてるって話じゃねぇか」
『ほう‥‥』
噂は噂だが、興味深い内容に少し喜ぶ副団長補佐。
誇りがどうのと愚痴る目の前のドワーフに返事をしつつ、これを切っ掛けに男爵が状況を動かしてくれる可能性を感じて、顔には出さずにほくそ笑むのだった。
重蔵が洞窟で白い毛虫と出会うのは、今から数日後の昼間のお話。




