♯51 不和の影と、大きな毛虫:前篇
毎度ご閲覧等、有難う御座います!
後篇は、遅くとも14日にはアップ予定なので、暫くお待ちください!
調査団がヴォルパ村での活動を始めて、そろそろ一か月が過ぎようとしていた。
調査団は、基本的に村に新しく建てられた団員の詰め所と、それに隣接する形で存在する男爵邸での執務がメインで、村の内部で起きた物事を商業都市オベロと、別大陸のドワーフの国ゴウ・パサーツ王国に報告している。
彼らが村に入って数日経った或る日、村に新しく加わった住人に調査団の団員が聞き取りを行っているところを、重蔵も見かけていた。
住人が増えれば増える程に、問題が起きた時の対応は難しくなっていく為、族長から村長に変ったバーンや、ラータなど、集落の管理を行っていた人物達は、かなり慌ただしい日々を送っている。
主要人物達は忙しいものの、特に大きな問題も起こらずに成長していく村の姿は、そこで暮らす人々にとって、誇らしい物であると言えた。
勿論、暗躍する者達の存在が、隠されたままで有ればの話だが‥‥。
▼ヴォルパ村 クローシュメル男爵邸執務室
「全く以って忌々しい事だ‥‥」
クローシュメル男爵は、そう呟いて嘆息した。
この村に来てから今日まで、特に大きな問題は起きておらず、我々調査団の面々も、聞き取り調査に重きを置いていられる状況に、些か興を削がれている部分が有る事は、否めない。
自治権を主張する村に言える、排他的な雰囲気も無ければ、移民の流入による大きな混乱や諍いも認められない為、男爵にお渡しする報告書の中身は、良くて新規移民の、以前から村に居る者達への、小さな不満程度だった。
それも『レーネさんと獣人がラブラブすぎて辛い』とか、『ラータ婆さん怖すぎ笑えない』等、下らない内容ばかりだ。
まぁ、ラータさんは、確かに恐ろしいが‥‥。
「貴官らに命じた件だが、一向に進む気配も無い‥‥。何か良い案は見つからんかね?ベレル君」
男爵の無茶振りに近い発言も理解できなくは無いが、私個人としては恙無く進んでいる同胞の村の発展は、喜ばしい事だと思う‥‥。
「申し訳ありません、男爵。しかしながら、農作業の効率化、幼い子供達を預かる施設や自警団の設置など、あの獣人は村の発展に関してかなり貢献している様でありまして‥‥」
分かっていると頷きながら、此方を見据える男爵の目が、底冷えする程怪しく光った。
「しかし、だ。確かに貴官の言う通り、村の発展に寄与する働きには、一定の評価を与えてやらねばならんがね、ベレル君。その発展を支える発明の類について、我らドワーフが、獣人風情に後れを取る等、許される事ではない筈だ」
「それは‥‥、そうかも知れませんね‥‥」
絶対に正しい考えだとは思わないが、確かにドワーフは発明や生産の能力で偉大さが決まる。
「であれば、だ。その辺から、敵の牙城を突き崩す方法も、見えてくるのでは無いかね‥‥?」
男爵の笑顔は、何処か作り物の様な不気味さを湛えていて、私は反論を考える事すら出来ず、慌てて返答し、退出する事しか出来なかった。
■■■
「成る程なぁ、男爵がそんな事を‥‥」
執務室での遣り取りの後、私は信頼に足る人物で有る、ロズガ・アグザの下を訪れていた。
「あぁ‥‥、ロズガの親父殿は、ゴウ・パサーツで武器工房を開いていたよな?他の種族への考えって、やっぱりそうだったのか?」
男爵の恐ろしい程に冷たい視線を思い出し、背筋を走る悪寒を抑えながら、ロズガの返答を待つ。
「あー‥‥、いや、親父はそれ程深くは考えてないみたいだぜ」
人間にお株を奪われた今でもな。と付けくわえた彼もまた、剣呑な目つきになっている。
「俺ぁよ、ベレル。親父がどんな考えでも、それは親父の気持ちだと思ってるんだ」
一瞬で普段通りの顔つきに戻った彼が続ける。
「ただな、俺自身は、打ちのめされた親父の後ろ姿を見て、糞っ垂れの人間に、心底苛ついたのも、確かだ」
「やはり、そうなのか‥‥」
「あぁ、だから、似たような状況が有れば、俺ぁ剣を取って、戦うつもりだ、虐げられている仲間が居るなら、当然の責務だしな」
私も、同胞がそういった憂き目にあっているなら、救う為に戦う事に、なんら躊躇いはない‥‥。
そうか‥‥!村の発展に対する、あの獣人の働きに隠れて見えなかった部分が有るはずだ。
男爵はきっと、そこまでお考えだったのだろう‥‥。
「済まない、ロズガ。私はもう少し皆と話して、それから動こうと思う」
「あぁ、なに、構わねぇさ。必要になったら言ってくれ、そろそろ暴れ無さ過ぎて体がなまってきた所だからな」
そうだ。私は同胞が悲哀に暮れている可能性に目がいかず、良い所だけを見ていた‥‥。
栄光ある調査団の一員として、ドワーフの為に働かないといけないのだ!
▼ルゴナ大森林アブロ山西側 ログロの洞窟 五階層目
『出ませ出ませ、【新月】、【円月】』
左手に、柄から半円の刃を延ばす不思議な形の刀が
右手に、刺々しく禍々しい、冷たい銀色を宿した刃を持つ刀が
それぞれ出現した。
最近は殆どトカゲしか見ておらず、ガーバさんと今後の装備作成に際して、新しい素材が欲しいという話しをした後、村の皆に相談した時、ゴーノさんが冒険者だった頃、迷宮の地下に進めば進む程、生息する魔物の種類が増えるという話を聞いた事が有ると教えてもらえたので、装備品や、建築用の材料に転用出来そうな素材を求めて、僕は一人、洞窟を進んでいた。
式神達の能力の確認と、僕本来の戦い方が出来るかを検証して今後の戦闘に活かす目的も有る為、先ずは刀月コンビに出て来て貰った訳だったりする。
因みにここまでの道では、魔物と戦っていない。
倒しても倒しても、特に良い素材は落とさないので、トカゲ狩りも今では村の皆との金策でしか行っていないからだ。
『なんか、ゲーム感覚というか、良い傾向では無いきがするけど‥‥、っと』
目の前の岩陰から、白い体色の縦長の毛の塊が這い出てきた。
火取蛾の幼虫というか、まぁ、見た目通りの、所謂毛虫だ。
『幼虫が居るって事は、何処かに成虫が居てもおかしく無いけど‥‥』
此方を気にしては居るけれど、敵対行動は取っていないので、素通りした。
僕の戦い方だと、通路(と、僕自身)が大変な事になる。
取り敢えず、今までとは違う魔物も確認出来たし、もう少し進んで様子見を続けることにした。
いや、白いキングサイズの毛虫だもの、苦手じゃ無いのは、あくまで通常サイズだから、今回は仕方ない。
『重蔵先生の、次回戦闘に御期待下さい』
なんて、詰らない冗談だ。




