♯44 制裁
『白極断刃、弥都波能売』
右手に煌めく刀身が、清流を湛えた様に光る。
もう一振りの円月という名の式神は、赤のイメージが強い物を使う事が出来、新月は銀がイメージ出来る物を扱える。
本来は少し違うけれど、極々簡単に表現するならそうなる。
五行で言うと、火と水。
どちらも、昔住んでいた家の蔵付近で拾った物を型代にして、使役していた。
『拝み屋だった頃は、特に良く助けて貰っていたなぁ‥‥』
「おのれ‥‥!ふざけた力を!!」
「大真面目ですが」
折角感傷に浸っていた所、ふざけたとか言われて、つい条件反射的に応えてしまった。
反省反省。
ここまで聞こえてくるような歯ぎしりに眉を顰めながら、めし夫の号令で追撃を開始した岩トカゲの前腕攻撃を、空いている左手で受け止める。
実際に受け止めるのは、僕じゃ無くて刀鴉だけど。
この子も絶賛、大活躍中。
「あぁぁぁぁぁああああ!!!苛々する!!!」
癇癪を起した様に髪を振り乱し叫ぶめし夫は、酷く冷静さを欠いている。
まぁ「精神攻撃は基本」とも言うし、ここは基礎をしっかりと詰めていこう。
改めて攻撃を開始する二頭のトカゲを前に、居住まいを正し、迎撃を再開した。
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「お、おい、何が起こっているんだ‥‥?」
思わず震える声が漏れる。
ここまで歳を重ねながら、見た事も無い方法で戦う、青い毛並みを持つ獣人。
個人も、職業もレベルが高く、例え強大な大岩トカゲでも、一頭であれば、儂と此奴なら戦える。と思っていた‥‥。
命を落とした筈の一頭が、手負いのもう一頭と共に顔を見せ、その上、古い伝承に残る、終焉の女神様のお使い様がお姿を現された時には、戦う事を諦めていた‥‥。
伝承にはこうある。
「世界の終りに、女神イルミレアとその使い十三名が現れ、この世を救う。人々の魂を救済し、永遠の安らぎを与える為、世界を優しく包むだろう」
子供の時分に聞かされた御伽噺。
しかし、女神様のお使い様は、儂を含め、獣人ともども、ゴミクズと仰られた‥‥。
そして、大岩トカゲは、本来ならこの洞窟より外界に脅威を齎す為、人の住む世界に放たれようとしていたという‥‥。
隣で見た事も無い形の剣を振るい、儂の身の安全を確保するように動いている以上、ジュウゾウは、お使い様‥‥いや、女神の使徒よりも、余程信頼出来る。
伝承の一節は、幼心に感じていた、世の不安を掻き消してくれた。
しかし今、こうして両の目に映る光景は、御伽噺など、信じるに値しない物だと、そう認識させてくる。
今まで感じていた希望は砕かれたが、代わりに青き獣人が、大岩トカゲから視線を此方に移し、笑顔で告げてきた。
「ただのジジョウチョウシュですよ、別に問題は起きてませんから、御安心を」
例え悪魔の囁きであろうと、新たな希望を前にした老いぼれには、笑顔を伴う優しい声音は、全てを任せるに足る、福音そのものだった。
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さて、迎撃とは言ったものの、防御に関しての信頼性は、極論、核シェルター以上(勿論、核爆発を経験した事など無い為、比喩的な物だけど)だ。
僕の手の平の結界は、力を堰き止める働きをする様に展開している為、例え落盤事故が起きた所で、無傷での生還が可能なくらいには、頑丈である。
正確に攻撃を見切って、手を突き出すだけで反撃する時間を与えられる形になるので、迎撃とは言ってみたものの、ただの繰り返し作業になってしまっている‥‥。
安全に、万全を期すなら、刀鴉の結界を、僕達を囲う様に展開すれば良いのだけど、それは別で呼び出したもう一式が行ってくれている。
先ほど前腕を斬り飛ばしたトカゲゾンビの毒弾の軌道を逸らせたのが、その一式。
刀鴉、新月に続いて、鳥之石楠船、妃蜂。
鳥之石楠船は、日本神話に登場する神様だけど、実際は家の窓に突撃して命を落とした椋鳥に、そのまま式神に成って貰う際、神様の名前をお借りした。
愛称は鳥船で、中距離結界担当。
この子が、先述の一式だ。
妃蜂は、神社巡りをしている際に、足元に転がっていたオオスズメバチの生首から、式神に。
彼女は特に隠蔽性能が高いので、調べ物や探し物の時にお世話になっていた。
『これじゃ、ちょっと話にならないかなー‥‥』
トカゲの攻撃を妃蜂が哨戒、検知、
鳥船が此方に近付く攻撃を少し逸らして、
直撃コースの攻撃を、刀鴉が受け止め、
新月で反撃する。
完封試合になってしまいそうだ。
大きな身振りでトカゲを操りだしためし夫は、相変わらず此方を睨みつけているけれど、気が付いているのかいないのか、直接攻撃はしてこなかったりする。
「あのー、そろそろ諦めて頂けません?そろそろ貴方のペット達も、限界みたいですし」
既に前腕が一本ずつの巨大なトカゲは、毒弾を飛ばし、残った腕を振るい、体当たりをしかけるも、
軌道を逸らされ、じわじわと切り刻まれ、簡単に受け止められる事を繰り返している。
なんだか、見てるだけで辛い強行軍だ。
「くく‥‥、くくくく‥‥、はぁっはははははは!!」
不意に大口を開けて哄笑するめし夫は、両手をトカゲに向けた。
「その妙な攻撃方法、貴様、この世界の者ではないようだな‥‥」
「おぉ、そこに気が付かれるとは、流石、女神の使徒様ですね」
僕の一言に口を歪めながら宣言しためし夫は、トカゲを両腕で吸い込み、此方に向かって突進を始めた。
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「そうかそうか、ならばこの俺が直々に、裁きを下してやろう!!」
なるほどな、そういう事なら、理解出来る。
そして、それならば、俺が直接|戦っても良い《・ ・ ・ ・ ・ ・》事になる。
愚かな塵屑に、力の差を教えてやる!
「女神の声!!!」
ペットを光の粒に分解し、その全てを【回収】する。
本来ならスキルとして発動できる、能力や記憶、経験などを簒奪する力。
ステータス等は、言ってしまえば飾りの様なもので、吸収した所で、俺の様な至高存在には、あまり意味の無い物だ。
しかし、新しく魔物等を生み出す際に再利用が出来る上、全てを吸収出来るから、実質、完全なリサイクルも可能。
勿論、今回は経験値なんかを得るための回収だから、リサイクルについては、目の前の塵屑を処理してから、改めて始める事にした。
「ふはははっはは!!先ずは貴様からだ!!女神の風!!!」
俺の威光を前に固まる獣人は捨て置き、矮小な人種に全力の数割で、魔法攻撃を放つ。
直撃地点は、轟音と共に巻き上げられた土埃で、視界を0にした。
次は、貴様だ、下等種。
じわじわと痛めつけてから、全てを奪ってやる。
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風の魔法を放ち、ラータさんを狙っためし夫が、此方に視線を向ける。
敵意と殺意が綯交ぜになった、至極不快な粘着く視線だ。
巨大なトカゲを、苦も無く分解した魔法は、死体にも効果が有るのか、大トカゲゾンビをも巻き込んで発動した。
遠足のバナナよろしく、アンデッドの魔物は死体に含まれないのか、死んだ者にも効果が有る魔法なのか‥‥。
前者なら、気を失っただけのラータさんは、安全。
後者なら、めし夫の気まぐれで、ラータさんが分解される恐れが有る。
『まぁ、今は僕にしか意識は向いていないみたいだし、取り敢えずは問題無いだろうけれど‥‥』
窮地に陥った場合、めし夫がラータさんを分解し始めるかもしれない。
『なら‥‥』
魔法の発動後、その右手に、金色に輝く柄と装飾部分、水色に輝く剣身を持つ両刃のロングソードを握り、猛然と突進してくるめし夫を、鳥船の結界の中に招き入れる。
「死ねぇ!!!」
殆ど勘で体を傾け、攻撃を回避した。
『あ、これダメなヤツだ』
辛うじて成功した回避行動は、完全に偶然の産物だった為、思考を切り替える。
どうやら、めし夫の溢れ出る自信は、実力に裏打ちされたものだったらしい。
『妃蜂、端錐、明暮』
対抗意識ではないけれど、僕も少し、やり方を変える。
瞬時に隠されていた姿を現す、今まで妃蜂のスキル効果で存在を隠蔽されていた、三式の式神達。
そして、先の、運よく回避できた攻撃と同速度の次発を、今度は確りと認識して、余裕を持って回避する僕。
明暮の効果は、単純に知覚、認識能力の向上。
自身の一定範囲内に侵入した相手の行動を、正確に把握する事が出来る様になる。
「糞っ!なんだこの変な奴らは!!」
変な奴らとは、失敬な。
片手剣を振りかぶっためし夫に、カウンターを放つ。
どこに、どれくらいの速度で、どこから放たれるかが理解できれば、攻撃を躱わして、叩く事が出来る。
冗談のような大振りの体制になった瞬間、めし夫の右脇腹に、左膝を打ち込もうとして、弾かれた。
「鈍い!!全く、何故この俺がこんな塵に無礼な口をきかれないとならんのだ!いい加減にくたばれ!!」
あぁ、流石に速いなぁ‥‥。
膝を戻し、新月の一閃で、相手の肩口を狙い、これも簡単に弾かれるが、続けざまに胴薙ぎ、手首を返して額を狙った峰打ち、そのまま、相手の剣が上がったところへの、小手。
先ずは一発目。
三連打で、漸く一発、相手の左手に切っ先をかすらせる事が出来た。
「忌々しい!くたばれ!!!」
手傷を負った事に不快感を露わにしためし夫が、手の平を僕に向けて、先ほどラータさんに向けた魔法を放つ。
目の前で急激に暴風が荒れ狂うも、刀鴉の結界で事なきを得る。
「まぁまぁ、一度落ち着きましょう、血圧上がりますよ?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!!!!」
『え、怖っ‥‥』
鬼の形相って、こういうのを言うのかも。




