♯43 泡沫
「ところで、‥‥えーと、ケツロウバさん?目的の二つ目は、此方としてはとても興味が有りまして‥‥」
「俺の名前はケルツォーバだ!!ふざけるなよ塵屑が!!!」
「あぁ、失礼しました。で、目的を聞かない限り、ここからアナタを帰す事は出来ないのですが、何とか、御教示頂けないでしょうか」
俺の拳は、余りの怒りに大きく震えている。
なんなのだ、この糞生意気で、不愉快な虫ケラは!!!
「‥‥おい、塵屑。余り調子に乗ると、殺すだけでは済まさんぞ‥‥?」
「それは、困りましたね‥‥」
先ほどから、悠長に会話を続ける
否、続けざるを得ない俺の苛立ちにも気付かず、眼下の塵屑は不遜な態度で、あろう事かこの俺に質問を繰り返している。
勿論、俺自身の手で有れば、秒殺間違いなしの下等な種だ。
しかし今回は、この世界の人種を減らす為に必要な、実験としての向きが強い。
目の前の不愉快な光景にも、今はまだ耐えねばならない‥‥。
そう、今はまだ‥‥。
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俺が放った二体のペットが、塵屑を食い散らかそうと巨大な顎を開き猛進するも、獣人が両手を掲げて、文字通り受け止めるという、有り得べからざる事態に、俺の機嫌は、どこまでも悪くなっていく。
念のためにもう一度ステータスを見るも、やはり目の前の現象は、どれほど考えても、説明する事が出来ない物だ。
種族:人種
名前:ジュウゾウ ミシロ (三代 重蔵) Lv, 31
職業:[放浪者 23](????)
HP 3110/3110(+610) MP ‿☡ζ踟/~鬠¢‗(+q⁾lψ)
攻撃力 520(+315)
防御力 280(+380)
素早さ 811(+768)
耐久力 169(+590)
知力 261(+311)
魔力 304(+1021)
称号:不明
魔法:なし
スキル:[術式簡略] [術符省略] [簡易詠唱] [重打](攻撃力+10%) [防護](防御力+10%) [獣王身](攻撃力+300%、防御力+150%、素早さ+500%)
確かに、人種としては破格とも言えるレベルとステータス。
おまけに、俺にも隠しおおせている、称号とMP‥‥。
まぁ、これらは回収さえしてしまえば、記憶と共に俺の物になるので、問題無い。
それにしても、二頭のペットの攻撃力は、502と、620で、合計は1122。
ヤツの防御力は合計で660。
[防護]と[獣王身]とやらが発動してのステータスならば異常事態だ。
スキルが発動効果を隠す等、もっと有り得ない。
仮に、称号の中にステータスを上昇させる物が有ったとするなら、上昇分はしっかりと記載される。
使用可能魔法が無しとなっているが、これが隠蔽工作の結果だとしても、[詠唱省略(魔法)]がスキルに存在しない以上、これも考えづらい。
そして、スキルについては隠蔽等出来ないのだ、この絶対条件が有る以上、どう考えても、起こり得ないハズ‥‥。
「おい!虫ケラ!何をした!!」
最大級の威圧を込めた俺の怒号に、調子の変わらない声音で応える下等種に、俺の苛立ちは頂点に達した。
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直線距離、凡そ30m程度の辺りに、宙に浮いたままで此方にトカゲをけしかけてきた男。
僕達を、文字通り見下して、話す必要も無しと言い放った、【二つ目の目的】は、予想が正しければ、ヴォルパの集落に危険が及ぶ可能性が高い。
勿論、何の確証も無い、勘ではあるけれど、だからこそ、確りと聞き出さないといけない。
「ジュウゾウ、悪い事は言わない。すぐに逃げよう‥‥」
僕の横顔に、小声で提案するラータさんは、非常に弱々しい印象を、僕に与えた。
相手は僕らを取るに足らない存在と断定して、今もこの戦いが、一方的に終わる物だと信じて疑わない状態だ。
つまり、ただ逃げ出したところで、残念ながら生き延びる事は、難しい。
反撃せず、老人を守りながら逃走するなんて器用な真似は、僕には出来ないのだ。
では、どうするか‥‥。
追い詰められたネズミの一撃を、お見舞いしてやれば良い。
僕が相手の土俵に上がらなくても、相手を僕の土俵に引き摺り降ろせば良いのだ。
口八丁の舌先三寸で動揺を誘い、下等な種族の 場 に、御招待差し上げようじゃありませんか。
『落紫、刀鴉、四象三編、十二単、隠』
ではでは、これより口撃を開始する。
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僕達の目の前に迫る大顎を、頭の中で結界発動の鍵を唱えて、諸手を上げて受け止める。
僕の手の平には、目に見えない、四つの四角い、膜の様な結界が展開されている。
本来なら、所謂悪霊的な者の侵入を阻む為に使う為のものだけど、5mを超える巨体の突撃を、実に呆気なく、受け止めてみせる。
突進を無理やり止められた二頭のトカゲは、ダメージを負った様子を見せながらも、歯をガチガチと噛み合わせている。
下顎を受け止めている(様に見せている)僕は、呑気にトカゲの口腔内を観察していた。
意識を取り戻してからこっち、一か月以上の時間が有った。
記憶が定かでないのは、この世界に来る直前の事で、それまでの人生については、確りと覚えている。
道場で師範当位師範代をしていた事。
探し屋で支局長をしていた事。
拝み屋で陰陽師の真似事をしていた事。
記憶が有るなら、そのまま使えるかの確認をする。
ただそれだけだった。
集落の人々に気付かれない様に、僕は毎日、時間を見つけては、武道の型を反芻し、式神の呼び出しを試した。
生前(?)と変わらず、七種、十四体。
式神としての【彼ら】は、全員呼び出せたし、以前は出来なかった意思の疎通も、何故か出来るようになっていた。
つまり、僕に負ける要素は無いと言っても問題無い。
「いえ、別に。‥‥ただ単純に、腕力で、突進を受け止めただけですよー」
僕の口撃は、思いのほか効果が高かった様子で、女神の使徒の男(略して【めし夫】)は、心底腹立たしげに、口角泡を飛ばしながら、喚き散らした。
計画通り。と言って差し上げますわ!(裏声)
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「有り得る訳が無い!そんな事は!!」
倒置法で突っ込んでくるめし夫。
『はぁい、有り得ないですともー』
軽く見積もっても、1~2tの巨体を軽々受け止めるなんて、物理的には有り得ない。
それも、二頭が突っ込んできている状況では、尚の事だった。
実際に、トカゲを受け止めているのは、僕の手の平とトカゲの鼻っ面の間に存在している、ミクロン単位の見えない膜。
脳筋のパワープレイでは、止められる道理はない。
『よく気が付いたな、めし夫!』
「良いから吐け!何をしているんだ貴様はぁ!!!」
「どうしても教えて欲しければ、先述の通り、此方は貴方の目的が知りたいので、情報交換なんていかがですか?」
「‥‥っ!!な・め・る・なぁぁっぁぁぁっぁあああ!!!」
おっと、やりすぎてしまったかも‥‥。
言うが早いか、大トカゲの死体が、僕の手の平を離れ、距離を取り、全身を発光させる。
めし夫も同じ色の光を放っているので、恐らく力を分けているのだろう。
「もう許さん!叩き潰せ!アゲル・ボント!!」
「グルルルルルォォァアアアア!!!!」
大トカゲゾンビが、涎を撒き散らかしながら、今度はその異様に長い前脚を振り上げて、此方に降り降ろした。
『銀嶺刃、新月』
右腕の結界を払い消し、替わりに歪な刃を手にする。
冷え冷えとした印象の、青白い一振りの刀。
僕の、刀が基となった式神の、二振り目が、大トカゲゾンビの腕を斬り飛ばした。
「アンタ‥‥、一体何が‥‥」
「おのれ‥‥、一体何を‥‥」
二人の声が重なる。
『仲良いな君ら』




