♯42 新月
▼ルゴナ大森林アブロ山西側 ログロの洞窟 二階層目
三者三様に押し黙る、居たたまれない空間‥‥。
目の前の光ってる男はわなわなと震えている。
『煽り耐性が低そうなリアクションだ‥‥』
隣の婆は、杖を地面に突き、両手で体を支えている。
有名な金髪青服の美女も斯くやと言った、泰然とした姿勢だ。
で、僕はラータさんを見て固まっていた。
『いや、いくらなんでもいきなり喧嘩腰って‥‥』
おっそろしい婆だ。
まぁ、いつまでも、三人共が黙ったままでは、話が進まない。
取り敢えず、事態が好転する事を祈って、声をかけてみた。
気は進まなかったけど。
「あー、ラータさん、いくら怪しくても、いきなり喧嘩腰は余りよろしくないかと‥‥。で、そちらの‥‥ゴメンなさい、お名前は存じませんが、私どもに何かご用がお有りですか?」
なるべく柔らかい印象を持ってもらえるように。
なるべく耳触り良い言葉を選んで、話しかけた。
改めて、式神を呼び出しながら。
■■■
目の前のドワーフは、200歳を超える妖怪婆だった。
ステータスこそ、歳のせいで低い物も有るが、知力と魔力は、人種の限界に肉薄している。
職業は司祭か‥‥。
女神の使徒たるこの俺に、随分と不遜な態度だが、まぁ人種程度が俺を知らんのも道理。
ここは優しく教えてやろう。
因みに、隣の獣人は‥‥、ふむ、レベルも高く、異常なステータスを持っているな‥‥。
俺の有り難い言葉を聞く事を許す代わりに、力は全てを回収しておこう。
俺は女神様に仕える、至高の一人。
前任者がこの辺りで消息を絶ったので、この俺が出向いてやった。という訳だ。
つまり、この周辺は今、俺の支配下にあるし、全ての生き物はこの俺に全てを捧げるのが義務なのだ。
よし、それでは早速聞かせてやるか。
大きく息を吸い込んで心を落ち着かせ、名乗りを上げる。
恐れ慄け、下等な人種。
「俺の名前はロンネリオ・ガブス・ジリル・ケルツォーバ。この世界を治める女神様の、絶対なる使徒である!」
‥‥‥決まった‥‥‥!!
■■■
『アイタタタタタ』
名乗りを上げた光る男を前に、心中で頭を抱える。
女神の使徒て‥‥。
なんか頭痛くなってきた‥‥。
隣でラータさんが冷や汗を流して、驚愕に目を見開いている。
うん、分からなくは無いけどね。
生前、拝み屋をやっていた時にお世話になっていた式神は、既に四方に展開している。
脅威という脅威は無いだろうけれど、これは余り友好的ではなさそうだし、目的を聞いたら御退場願おう。
「それで、女神様の使徒様、御用件はなんでしょうか‥‥」
こめかみを押さえながらお伺いを立てると同時に、継続する地響きが始まった。
音と振動が、徐々に大きさを増していく中、ヤケにはっきりと、使徒さんの声が耳に届いた。
「あぁ、先ずはこの地下大トカゲと、大トカゲゾンビの試験に協力させてやろう、一つ目の目的がコレだ」
あちゃあ‥‥、そう来たか‥‥。
目の前の岩トカゲと元(なんか食い散らかされた痛々しい見た目の)大トカゲが、姿を現し、ため息が出てくる。
ラータさんは目を白黒させて大口開けたまま固まってるし‥‥。
『ショック死だけは勘弁願いたい』
「そして二つ目の目的なんだが‥‥、まぁ、恐らくお前達の記憶を回収すれば、問題無いだろうから言う必要も無いか‥‥」
ピクリと耳が反応した。
「全く‥‥、先ずはこの辺りの洞窟や迷宮から、コイツらを地上に出す手はずだったというのに、不敬にも俺のペットを痛めつけるなど、度し難い愚かさだ‥‥」
ほほう。
「さて、それでは早速、滅びるがいい、塵屑共よ」
女神の使徒を名乗る不審者の左右から、トカゲが二匹突っ込んできた。
『まったくもって、不愉快だ』
昨日の戦闘はドワーフのオッサン達も居たし、ガーバさん作の装備群の試験運用もあったしで試しても居なかったけれど、今回は一部制限が有るとはいえ、生前の力が振るえる。
暴力を行使してくるので有れば、僕は正当防衛をさせて貰おう。
「ラータさん、動かずそこに居て下さい。必ず守ってみせますので」
優しく微笑む僕の声に此方をみたラータさんは、あわあわしていた。
年齢が年齢なら、可愛らしかったのかも知れない。
次回、戦闘開始です。
描写が分かりやすく表現できると良いのですが‥‥。




