♯41 後光
集会所で投下された、ラータさんの爆弾は、結局のところ不発に終わった。
余りにも危険性が高い事と、僕が正式なヴォルパの村人ではないから。だとか。
「狩りへの同行は、ゴーノのお墨付きが有ったし、あくまで予想危険度が低かったからだ。今回は違うんだよ‥‥」
集落の人間が、集落を守る為に命を賭けるのは当然でも、それ以外は話が違うのだとか‥‥。
とはいえ、僕としてもお世話になっている集落の誰かが命を落とす様な事態を、黙って見過ごす事はしたくない。
何か良い案は無いかと思考を巡らせていると、これまで余り口数の多く無かったガーロさんが、口を開いた。
「それなら、冒険者として戦って貰うってなぁ、どうですかい?」
バーンさんとゴーノさんの顔が、明らかに曇った。
ガーロさんは特に悪気なく口に出してしまった様で、重くなった集会所の空気に縮こまっている。
対象的なラータさんは、口元をゆがめ、族長と元冒険者に視線を向けている。
多分、決定ですね、これは。
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そこからの流れはあっという間だった。
朝食と報告の為にレーネさんの家に、バーンさん、ラータさんと連れだって向かい、反対するレーネさんを説得した。
最終的に、ラータさんとレーネさんが一対一で話し合いをして、許可が下りた。
集落を出てから、何故あのレーネさんが許してくれたのか聞いてみても、婆さんは答えてくれなかったけれど、何か密約でも交わしたのだろうか。
『まぁ、レーネさんが許してくれるのなら、僕としては異存無しだ』
実際、小さな村の大事件の様相を呈している訳だし。
で、その後出発の準備をしていた討伐隊の面々に解散してもらって、準備を整え、二人だけのパーティは集落を出発。
昨晩、命からがら逃げ出した洞窟に、僕(と新規入場系老婆)は到着したのだった。
現在、恐らく午前9時頃。
なんか出社した感が強いのは、日本人だからだろうか。
緊張故の錯覚かも知れないけど。
結局、僕としては最初から此処に戻ってくる可能性も考えていた。
レーネさんの住む場所の平穏は、守れるなら、守りたいし。
あ、レーネさん【達】にしておこう。
[試したい事]も、有るしね。
▼ルゴナ大森林アブロ山西側 ログロの洞窟 一階層目
「ふぅむ、成る程ねぇ‥‥」
何が成る程なのか、ラータさんは一人でうんうんと頷いている。
まぁ、普段は小型の爬虫類や、大型の虫の魔物が闊歩している洞窟らしいので、単純に魔物が一匹も見当たらない状況を見ての事だろう。
取り敢えず、周囲の安全を確保しつつ、キャンプ地まで移動する事にして、僕達は行動を開始した。
道中、ラータさんから、この世界についての話を聞きながら進む。
時間は有効に活用すべし!だ。
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警戒を続けながら進みつつ気になった事を聞いていると、興味深い話が出てきた。
ステータスの話や、個人レベルと、職業レベルについて等だ。
個人レベルは年齢や経験を基に上がっていき、個人の資質によって、上限が決まるらしい。
職業レベルは、個人レベルを基に、どれだけその職業について体で理解しているかで上がっていくらしい。
つまり、どれだけその職業でレベルを上げようとしても、本質的な理解が無ければ、或いは、実際に実地経験が無ければ、レベルは余り上がらない。という事。
そして、年齢を重ねて、人生経験を積んでいけば、職業レベルが上がりやすくなるらしい。
ラータさんのレベルが馬鹿高いのは、どうやらこれらに起因しているのだと推測出来る、良い情報を得る事が出来た。
続いて、ステータス。
ラータさんはステータスまでは調べられないけれど、大体どういう物なのかは分かっているらしい。
各ステータス数値は、基本的に、一定の年齢までは上昇していき、或る時を境に下がり始めるらしい。
攻撃力や防御力なんかが、良い例だ。
即ち、成熟するにつれて強くなり、年老いれば、衰えていく。と、いう事。
知力や魔力は、一定の年齢までは余り上がらない替わりに、体力等よりも、下がり始めるのが遅いとか。
なんというか、納得できる話だった。
『これなら、いけるかも知れないな‥‥』
興味深い話も聞けたし、ここらで一度、生前(?)の記憶を頼りに、色々してみよう。
これだけの情報が引き出せたダケでも、此処に戻ってきた甲斐がある。
内心ほくそ笑んで、僕は早速、式神を呼び
「止まりな」
だそうとして、立ち止まる。
魔物の影すら見当たらない地下洞窟に、不自然な光を放ちながら、人が一人立っている。
何やら不穏な空気が、辺りに漂いだした。
「何を偉そうに命令してるんだい、とっととそこを退きな!」
いきなり喧嘩腰で食ってかかるババアに、空気が凍りついた。