♯39 抱擁
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夕暮れに赤く染まる空の下、一頻り笑い合った僕達は、顔を引き締め、会議を始めた。
現在、地下洞窟の三階層目は、大岩トカゲ二頭が占拠している状態に近い。
洞窟には、月に何度か狩猟班が赴いては、三階層目の小屋を拠点に、数日間、鉱石採掘や、トカゲ(アゲラ)種の狩猟を行っている。
そうして得られた皮や骨、鉱石なんかを、加工しては近隣の国や街に卸して、ドワーフ達は生計を立てているのだ。
つまり、このまま大岩トカゲが三階層目に居座り続けると、ヴォルパ族全体の稼ぎが、格段に下がる。
うーん、悩ましい。
不意打ち上等の姑息な手段で、ギリギリ生き永らえる事が出来た僕達では、まともに戦っても、勝機は無い。
閉じられた頑丈な門扉が有ればこそ、こうして洞窟の入り口前で、悠長に会議が出来るのだ。
と、6人で今後の方針を詰めている最中、僕の体が不意に軽くなった。
天に召されるとかの比喩でも、物理的に浮く訳でもなく、単純に、疲労が少し取れた様な、少し懐かしい感じ。
どこかで経験した事の有る様な感覚を伝えると、ダーフさんが、その鋭い目を光らせながら、僕のレベルがあがった事を教えてくれた。
「じゃあ、もしかしてあのトカゲ‥‥」
「あぁ、多分、共食いが終わったな」
「みなさんも、レベルが上がったんですか?」
僕の質問に、オッサン達は首を振った。
何でも、直接戦闘をしないと、経験値的な物は手に入らないらしい。
つまり、僕の戦っていた大トカゲが息絶え、皆が戦っていた岩トカゲが、勝ったのだろう。
因みに、戦闘者に魔法の強化を行ったり、魔法行使者の安全を守ったりすると、直接戦闘行為にカウントされるらしい。
その辺は良く分からないけれど、昔から色々検証されていたから間違いないんだとか。
ともあれ、これで脅威が半分以下になったのは事実だ。
オッサン達は、改めて真面目な顔をし、会議を再開した。
▼ヴォルパ族の集落 ルゴナ大森林出入り口付近
会議の結果、僕達は一度、集落に戻ってきた。
既に周囲は暗くなっていたけれど、早めに族長に報告して、大規模な討伐隊を組織してもらう方向に、議論は落ち着いた。
三日(実質、ほぼ二日)後には、商隊が集落まで来てしまうし、何より、三階層目に居着かれては、今後の狩猟や採掘にも、支障をきたす事請け合い。
最悪、商隊にはガーバさん制作(僕発案は伏せて貰って)の、不思議装備を売って貰えば、少しは足しになるだろう。
予定よりも早くに戻ったオッサン達と僕に、集落の皆はひどく驚いたけれど、洞窟で起こった事を聞いて、先ずは全員が無事に戻った事を、喜んでくれた。
状況確認後、朝一で討伐隊が出られるように動いてくれたバーンさん。
オッサン達の無事を確認して、安堵した後、すぐに飲み始めた村人達。
飛び起きて装備や道具の活躍を聞きに来たガーバさん。
「どうだった!?生きて戻って来たって事は、装備は役に立ったのか!?」
『いや、まぁ‥‥、オッサンに心配されても別に嬉しくは無いけどさ‥‥』
予想より、職人らしいガーバさんには、苦笑してしまった。
まぁ、彼の弟子であるベーレさんなんて、思い切り肩を叩かれてたし、照れ隠しと言えば、照れ隠しっぽい。
不器用な人なのかも知れない。
そんな微笑ましい師弟に、オッサン方やバーンさん達を交えて、装備や道具を使ってみた感想、トカゲの攻撃方法や、或る程度の観察結果を話していると、聞きなれた、軽めの足音がこちらに向かって駆けてきた。
マイディアー、レーネさんだ。
「じゅうぞう!大丈夫!?」
おぉう、いきなり激しいです。
鼻孔をくすぐる、優しい香りに包まれて、僕は鼻血を堪え、挨拶をした。
僕の一言に、彼女は顔を綻ばせ、一層きつく抱きついてきて
「いやー、本当、ジュウゾウのお陰で助かったぜ!大活躍だったんだぞ!?」
『あ、オイオッサンヤメロ。嫌な予感がするから余計な事を言うな』
ダーフさん含め、オッサンx5が僕の武勇伝(無茶行動)を語る。
「くぇっ」
話を聞いたレーネさんは、僕に抱きつく力を更に強め、結果、僕はカエルか鶏みたいな、みょうちきりんな声を上げる事になった。
『オッサンら、許すまじ』
因果応報かも知れないけれど、心配をかけたい訳じゃなかったので、彼女に話すつもりは無かったんだけどなぁ‥‥。
僕を放した後、泣きながら怒るという、エクストリームなお説教方法を駆使するレーネさん。
そんな僕らを残して、集会所に移動し出した他の人たち。
薄情者とは言わないけれど。
コノヒノコトハ ワスレナイゾ‥‥。
狭い心にそんな事を誓った。
■■■
結局、少し長めのお説教が終わり、報告はオッサン達に任せて、僕達は家に帰る事にした。
埃や血で汚れた僕の体を拭いて、手当をしてくれたレーネさん。
お礼を言って、床に就いた僕を抱き枕に、レーネさんが寝息を立て始める。
優しく、僕の頭を抱いて眠る彼女からは、緊張していた心を解き解す、とても良い香りがしました。
コノヒノコトハ ワスレナイゾ!!
改めて深く、心に誓ったのだった。




