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召喚師(?)さんが召喚されました。  作者: 平野 笹介
第二部 生存 認識 旅立

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♯27 旅立

 思い切りブッ飛ばしたハズのネリさんが、視界から消える。


「――今のはフェイントです」


状況が状況でなければ、心を蕩けさせる様な、優しい声が耳朶を打つ。


右後ろからの引き入れ声を頼りに、まっすぐに肘を打ち出す。


完全に裏をかかれて、焦ったまま一撃を繰り出しながら、内心毒づく。


『クソッ、格上が騙し打ちとか‥‥――!?』


空を切った肘を引き戻しながら視線を彷徨わせる。


後ろにネリさんは居なかった。


「もう一回、フェイン

「鳥羽(とばね)、縋火(すがりび)!!」

トです」


正面を向き直して目が有ったネリさんの指先が、喉に突き刺さる直前に、僕の全身を橙色の淡い光が覆いだした。


肩の辺りを漂っていた雀禍が、胸の辺りで拳大の勾玉に姿を変えていた。


色素の薄い、美しい腕(槍)の穂先が、標的である僕の喉を滑るように貫いた


「あら?」

『どういう事?』

かの様に、すり抜ける。


雀禍の固有スキルの効果は、対象を守る為の、現象の改竄。



今の一瞬の遣り取りを第三者視点で見ると、ネリさんの細腕が僕の喉に突き刺さる瞬間、それぞれが単純に、位置をゆるりとずらしただけだっただろう。

発動さえ間に合えば、例え認識の外からの攻撃であろうと無効化出来る力を持っている。


地球では、空間の清浄化と、傷の治癒促進程度だった。

文目さんの魔法[スキル補正上限突破]の効果上昇に期待しての行き当たりばったりにしては、目を見張るような成果が残った。


替わりに、効果が一瞬で切れてしまった。


常時発動は出来ないみたいだけど、それでも劇的な性能と言える。



「ズルいです」


拗ねたような声をあげて、ネリさんが魔法を放った。


「[女神の水(ロプラ・ラプシャ)]」



真後ろからの透き通った大衝撃。


今度は縋火が間に合わずに、清浄な奔流に飲み込まれる。


自分がどこに居るのか、周りがどうなっているのかも分からず、体をバラバラにされそうな、文字通り怒涛の水圧に血を吐きながら、再びの縋火を発動。


次いで直ぐに

「[追錐(おいぎり)、明触(あけのさわり)]」


森林の地面を抉り、木々をなぎ倒して進む濁流から縋火で抜け出し、木を伝って小さな丘の上に逃れながら、確認すると、転移した洞穴から少し離れた位置を起点に、反対方向に流れていく水を確認する。


ソルさんがドザえもんになる心配は取り敢えず無さそうで安堵し、すぐに明触の効果によって、転移中のネリさんを確認する。


隠蔽(ステルス)性の、今では完全に姿の見えなくなったスズメバチが、ネリさんの位置を捕捉する。


こちらも効果補正のお陰で、対象の追跡性能が格段に向上しており



「見ぃつ~け‥‥‥あら?」


僕が居た丘の上の、木の枝に転移してきたネリさんを、正確にこの目で捉える。

「こっちです!」


ネリさんの頭上から一m程上、木の幹に爪を立て張り付いたままの姿勢から、しなる体をバネに、斜め上から回転しながらの斬撃を振り降ろす。


「[断爪刃(だんそうじん)、迦具土(かぐつち)]」


豪炎を纏う、全力の閃きが、ネリさんの首筋に吸い込まれていき、嫌な音と共に、ネリさんの頭部が宙を舞った。


『うそぉ!?』

文目さんの声が、心に響いた。




▼ルゴナ大森林入り口カプラ平原側



 地を這う濁った暴力が、その姿をひそめ始め、自分の居る位置を再認識する。



「ここは‥‥」



この世界に来た当初に眺めた、静かな森の入り口。そのすぐ近くだった。



「おっと‥‥」


景色に気を取られて後回しにしてしまったけれど、慌ててネリさんの遺体を検分する。


自分で切り飛ばしておいてなんだけど、全身を弛緩させ横たわる女性の首から、血が溢れている様に背筋を凍らせる‥‥。


濁々と、諾々と、シミ一つない首から、赤い命が零れ続けていた。




 ただ遺体を眺める事しか出来なくなった僕に、文目さんの気遣わしげな言葉がかかる。


『まさか、勝つとは思ってなかったわ‥‥。けど、これで一先ずは安心かしらね』


僕一人では、確実に勝てなかった。文目さんの魔法と、召喚に応えてくれた式神。そして、ソルさんのお陰での辛勝は、ひどく後味の悪い物になった。



『僕も、勝てるとは思ってませんでした』

「私も、負けるとは思ってませんでした」


心の声と、実際の声が重なる。


振りかえると、ネリさんが頭の無い状態でゆったりと存在していた。



『なんっ‥‥!?』


「王手(チェックメイト)、です」



魔法なのか、スキルなのか、僕の体は拘束され、指一本すら動かない。


声も出せず、視線も逸らせずに、ネリさんを見つめる。


頭を無くしたネリさんが、どうやってか言葉を発し、優しく、僕の頬に手を触れた。


「残念ですが、アナタの魔法、スキル、レベルは、【回収】させて頂きます」


『重蔵、悪いけど、アンタの力、ちょっと貰うわよ』


二人の声が重なり、どちらに反応して良いか分からずに固まっていると、二人が再び口を開く。


「もしかしたら、命は助かるかもしれません。その時は、またいつかお会いできることを願っています」


『短い間だったけど、悪くなかったわ。じゃ、元気でね』


ネリさん、ちょっと待って下さい。

文目さん、勝手に話を進めないで下さい。


思考にすら制限が掛かっているのか、心の中でも言葉を発する事が出来ずに、狼狽する。



僕から離れた、ネリさんの掌から放たれた眩い光に中てられたのか、全身から力が抜けていく。


霞がかった意識の中で、藁にもすがる思いで手を伸ばしてみても、何も掴めなかった。






 こうして僕は、白い猫の幻を見ながら、意識を手放した。




第二部終了です!冒険者生活編のフラグはへし折れました!

どうしてこうなったッ!!

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