♯26 洞穴
全身全霊、紛う事無く全てを掛けた一撃を、標的の延髄目掛けて突き出す。
音を置き去り、光に迫ろうと
筋が千切れ、骨が砕けても
尚、速く、早く、逸く。
■■■
ネリさんは、此方の攻撃に、一切反応出来ていなかった。
僕の一撃が彼女の後ろ首に触れる、その時ですら、無防備にただ、そこに立っていただけ。
何の反応も見せなかった、無防備な首筋に、円月の鋭い切っ先が触れ、そして
僕は真後ろに吹き飛ばされた。
一息に肉薄した彼女の背中が、瞬く間に遠のいていく。
轟音が、洞穴に広がった。
『重蔵!大丈夫!?』
『まだまだ、問題有りません!』
有難うございます、文目さん。
僕は元気に、戦えます。
「今のは、少し危なかったですね」
パラパラと石くれを落としながら立ち上がった僕の目の前に、笑顔の女神が佇んでいる。
「出来れば今ので、御仕舞だと、助かったんですけどね‥‥」
掌を向ける女神。
ソルさんの魔法を奪ったスキルの予感を受けて、冷や汗の幻影を背に、飛び上がる。
文字通り、真上に跳躍し、天井を蹴って再び地面へ。
ネリさんの伸ばされた腕の真横に移動し、手首を引っ掴む。
左の膝裏を、彼女の左の膝裏に当て、思い切り振りかぶってブン投げた。
肉体的な能力で、恐らく上回っているであろうネリさんを投げる。
相手が攻撃を行う瞬間にこそ、不意打ちの余地が有る。
見た目10代後半の、見目麗しい女性に不意打ちをかます。
ネリさんは、洞穴の出入り口から外に、勢いよく飛んで行った。
▼ルゴナ大森林深部境界付近
魔法による防御が発動しない事と、私の意識の外側からの攻撃に、心がザワつきます。
結構な速度で飛ばされながら、[中距離転移]を発動させようとした私の傍らに、青い風が一つ。
伸ばされた手に身を預けながら、遠心力に負けずに一言だけ。
「向き合って戦うのはお嫌いですか?」
少し可愛子ぶってみたり‥‥。
「自分より強い相手に、正面から堂々とぶつかれる程、大人じゃ無いモノで‥‥」
残念です。
それにしても、油断しきって対応している訳では有りませんが、完全に死角を突いての一つ一つの攻撃が、本当にイヤらしい。
洞穴から更に遠ざけられながら、暫しの一考。
『先ほどの後ろからの一撃は、完全に反応出来ませんでしたね』
何度目かの攻撃を魔法による防御で受け止めながら、そろそろ私も反撃に移りましょう。
能力の補正値が限界を超えている以上、彼の体にこれ以上の負担を強いるわけにはいきません。
速やかに種明かしを終え、この世界の、普通の人として、普通の暮らしを送って貰えるように邪魔者は排除して、しまいましょう。
■■■
メキメキと音を立てて、鎧の腹部に、ネリさんの魔法が突き刺さる。
[防具精製]で、ボディアーマーに付与した魔法は[物理攻撃上位吸収]と、[上位魔法攻撃無効化]で、これによって、僕のMPが、漸く数字に正常に変換された。
MP 999802/湅化ã '
使用可能な魔法では無いけれど、必要な魔力量を満たした事で、付与が可能になったのかも知れない。
使用可能魔法のみだった場合、僕には手が出せない以上、これは喜ばしい誤算と言える。
ともあれ、結局突破されては意味もなく、魔法の槍が砕けて消え去った後の、血を噴き出す穴を押えながら、再び跳躍する。
超高速で魔法の構築をしてのけたネリさんに視線を向けると、先ほどと同じように両手を此方に向けて詠唱を行っていた。
――次の一撃で、反撃を試みよう。




