♯25 露見
悲しげな笑顔が一瞬消え、恐らくは文目さんの事だろう、僕の中に居る【だれか】を感じ取ったネリさんの目は、恐ろしく冷たい印象を僕に齎した。
ほぼ無表情に近い薄い、極々薄い笑顔を張り付けて、ネリさんは横長の双眸を向けてきた。
「はて‥‥、なんの事」
「とぼけないで下さい‥‥!」
『あ、はい、すいません』
『アンタは‥‥本当に‥‥』
なんですか文目さん、僕はいま忙しいのです、焦って心の中で謝ってしまうくらいには。
因みにソルさんは大絶賛気絶中。
未だに泡吹いてぶっ倒れてます、誰のせいかな。
主に僕のせいかな!
優しい笑顔が消えたネリさんが、食い気味で被せてきたセリフは、僕の平静を粉々にするには効果抜群だった。
何のかんの言っても、綺麗なお姉さんには弱いのだ。僕は紳士だから。
嘘かも知れないけど。
「‥‥そうか、やっぱりあの時の‥‥」
何かに気がついたのか、ネリさんは顎に手を添えて、視線を下に落として考え込んでいる。
チャンスは、多分これが最初で最後。
拳も、掌打も、足払いや蹴り払いすらも、彼女の防御は、突破どころか、衝撃を与える事すら出来なかった以上、肉弾戦では意味が無さそうだ。
少し離れた位置で倒れたままのソルさんを一瞥して、結界も選択肢から外す。
『先刻の発言から、多分ソルさんの闇の魔法は奪われた』
黒い魔法って言ってたっけ?とか、余計な考えが浮かんだけれど、押しつぶして思考を続ける。
僕のせいで、或る意味恩人たる講師の技術が奪われた。
本来は魔王の魔法だかなんだか知らないけれど。
自責の念は取り敢えず置いとく。
ネリさんを倒せれば、奪い返せるかも知れないし。
『無理よ』
『式神が残ってます』
短く告げる文目さんに、僕は最後の手段を提案する。
円月を顕現させた時に思い出した記憶では、僕にはまだ式神がいた。
完全に思い出せたのは、後二体で、おぼろげに浮かんだシルエットは、他に三体。
なんだかもやもやするので、まだいたハズだ。多分。
殆ど勘だけども‥‥。
とにかく、現状を打破する為に、円月を含め、全戦力で挑むしかない。
文目さんから隙を作るように仰せつかった以上、それ以外に選択肢は無いのだ。
今の隙は、多分吹けば飛ぶような泡沫の様な物。
逃げ出そうとすればすぐに追ってこられるだろうし、文目さんが、まだ行動を起こさないのも、そういう事なんだろう。
だから僕は
■■■
全神経を集中させ、円月を【掴んだ】瞬間を思い出す。
『あの時は、周囲に有った、倒木や小岩なんかが抉れて、円月として僕の手に収まった‥‥』
多分、これがスキルの効果だったんだと思う。
式神が、物体として、或いは生命体として実態を得る為に、僕のスキルが自動的に補助してくれた気がする。
文目さんの[上位スキル補正]の効果も併せての、偶発的な成果を思い出す。
なら、僕のチートMPを惜しげもなく使って‥‥!!
心の中で、強く意識を向ける。
『[防具創造]!!』
瞬間、僕の周りに存在した、洞穴の岩壁が風雨に浸食されたが如く、音も無く僕に向かって集まりだす。
『[防具精製]!!次いで、[術式簡略]、[術符省略]、[簡易詠唱]発動!!』
僕の体を覆う、ボディアーマーが、淡い藤色の光で更に覆われていく。
アイ○ンマンと狐のお面を足して、ロボっぽくした感じの、フルアーマー。
ネリさんが此方に顔を向け、今度は驚きに目を見開いた。
「断赤刀刃、円月!! 灯橙、雀禍!! 朝黄、妃蜂!!」
左手に歪な形の刀剣を一振り。
左の肩には、揺らめく炎を纏った、普通より色の薄い雀。
頭の上には、掌より少し大きな、半透明のスズメバチ。
現状の僕の、最大戦力。
「女神の使徒様、驚いている間に、不意打ちさせて頂きます!」
これだけ全身を固めても、未だ襲い来る不安を、音と共に置き去りにしながら、再度僕は、全力全壊、最高速度で、ネリさんの後ろを取ろうと、跳び出した。
洞穴の出入り口には、いつの間にか日の光が差し込み始めていた。
いつも閲覧有難うございます!
書いてるだけでも勿論楽しいですが、ご意見、ご感想等頂けると、嬉しいです。文章を書く上でのアドバイスなんかも頂ければさらに嬉しかったりしますので、よければお願いします(;~ω~)




