3-無血制圧
場所は変わって大森林にある巨大な洞穴――
「我らはオグマ様に忠誠を誓います」
そこには人化を解き鬼の姿をしたオグマに平伏する鬼族の姿があった。
何故こんなことになっているかというと、鬼族全てが身に付けているインチュイション・オブ・オーガのスキルが理由である。
インチュイション・オブ・オーガは強者を認識するスキルであり、強さが全ての鬼族は圧倒的な強者に逆らうことをしない。
これは鬼族の習性みたいなものであった。
サクヤのネームオーダーで刹鬼王に昇格したオグマは、白髪に金色の体をしており、三十センチに届くかという二本の角が生えている。
その姿もさることながら普通の鬼族では太刀打ちできないほど圧倒的な強者となっていたのだ。
「お前らの気持ちは嬉しいんだが、忠誠を誓う相手は俺の親分にしてくれ」
「親分といいますと……?」
金髪に二本角を生やした白い肌をしている豪鬼がオグマに尋ねる。
鬼族は全て金色の髪をしているのだが、属性により肌の色が異なる。
この豪鬼は白い肌をしていることから光属性を持つ白鬼だということが分かる。
アスナルドにいた白鬼はオグマが根絶やしにしており絶滅していたのだが、奇しくもサクヤのネームオーダーで再び生み出されたのだった。
絶滅した鬼まで生み出してしまうとは恐るべきネームオーダーである。
「親分の名はサクヤ様といい……俺より数十倍は強いお方だ。ただし、事前にいっておくが親分は人間だ」
鬼族にどよめきが起きる。
「オグマ様より強い人間ですか……想像がつかないのですが?」
「お前たちも会えば親分の偉大さに自然と平伏してしまうだろう」
「そうですか……」
オグマが無血制圧した鬼族は、白鬼である白豪鬼が頭であり、妖鬼五体、大鬼四十体、中鬼八十体、小鬼二百体と総勢二百二十七体の部落であった。
二百体を超える鬼が全てオグマに忠誠を誓ったのであるから、オグマの力が並みではないことが伺えるであろう。
そのオグマが人間に忠誠を誓っているということが想像できないというのは、ある意味当然ともいえた。
「さすがにこの人数を一度に転移はできんな……。仕方がない歩いて城まで戻るか」
オグマが触れている、もしくはオグマの上半身に触れている者しか一緒に転移することはできない。
二百体を超える鬼族を何度も往復して転移させるのを面倒だと感じたオグマは、歩いて城まで帰ることにしたのだが――
「オグマ様! もっ、森が燃えています!」
洞穴の外は火が燃え盛り大火事となっていたのだ。
「火事だと? あの嬢ちゃん仕業だな……。仕方がない……」
オグマはアースウォールのスキルで土の壁を作り出し火が入ってこないように入口を塞ぐと、テレスコーピングのスキルを使用した。オグマの体がみるみるうちに巨大化していき、洞窟の高さに届くかという三十メートルほどの大きさになる。
テレスコーピングとは体を自在に伸縮させることのできるスキルであった。
「まずは妖鬼から俺の腕に触れろ。転移で洞窟から脱出をする」
急に巨大化したオグマに唖然としている鬼たちであったが、オグマの一声で我に返り、順番に次々と城へと転移させられていく。
巨大化して効率化したといっても、大火事のせいで何往復も転移をして鬼族全てを城まで連れていくことになってしまうオグマであった。
◆ ◆ ◆
「火遁・猛火球の術ぅ!」
その頃セクメトはファイアーボール、ファイアーブレス、エクスプローションなどのスキルを多用し、恐竜族を殲滅している真っ最中であった。
恐竜族は鬼族と同じ大森林に生息している。
そう、オグマが遭遇した大火事はセクメトのスキルが原因だったのだ。
最初こそ一体一体きちんと仕留めていたセクメトだったが、あまりの数の多さに面倒となりファイアーストームのスキルで大森林ごと焼き払うことにしたのだ。
オグマからすると大迷惑な話である。
空を飛び周り生き残りがいないか確認したセクメトは――
「全滅ぅ!」
オグマの苦労など知らず、満足気な表情を浮かべていたのであった。
◆ ◆ ◆
「ちょっと見ない間に、ずいぶん不気味な城になってしまいましたわね」
ヘカーテは死霊族を制圧するために自分の城へと戻ってきていた。
城の上には暗雲が立ち込め闇属性魔法で結界が張られているかのような雰囲気だ。
城の前で外観を眺めながらヘカーテは独り言を呟く。
「おそらく死霊族を取りまとめる輩がいるでしょうね。手っ取り早く玉座の間へ転移しましょうか」
玉座の間へと転移したヘカーテの視界に映ったのは、玉座に座る黒いローブをまとった骸骨と、その脇に赤いローブを着て佇む三体の骸骨だった。
「何奴だ! ここはリッチロード様の御膳であるぞ!」
赤いローブの骸骨が声を荒げる。
「リッチロードとハイリッチかしら。うふふ。雑魚ですわね」
ヘカーテらしからぬ怒気を含む言葉。
自分の城を占拠されたのが、よほど気にならなかったらしい。
「雑魚だと! 人間の分際で戯れ言を!」
「その減らず口を引き裂いてやるわ!」
わめくハイリッチに――
「待て……お主は人間ではないな。魔族か?」
今まで沈黙を守っていたリッチロードが口を開く。
「あらあら、雑魚は雑魚でもハイリッチよりは利口な雑魚のようですわね」
「貴様っ! さっきから聞いていれば無礼にも程があるわ!」
激昂するハイリッチに妖しい笑みを浮かべるヘカーテ。
ヘカーテが雑魚といったのは識別の魔眼でステータスを確認していたからであった。
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【ステータス】
名前:ハイリッチ
種族:死霊族
種別:魔霊
ランク:B
属性:闇
LV:66
HP:14863/14863
MP:18749/18749
STR:493
INT:1041
DEX:398
AGI:349
特性:耐肉体(大)・耐闇(大)・耐ドレイン(大)・耐即死(大)・弱光(小)
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名前:リッチロード
種族:死霊族
種別:魔霊
ランク:A
属性:闇
LV:88
HP:19420/19420
MP:23317/23314
STR:831
INT:2891
DEX:681
AGI:617
特性:耐肉体(大)・耐闇(中)・耐ドレイン(中)・耐即死(大)・弱光(中)
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ヘカーテと比べると確かに雑魚でしかない。
「自分の城を貴方たちみたいな雑魚に占拠された気持ちって分かるかしら?」
「なっ、何を!」
「格の違いを教えて差し上げますわ」
いくら未練がなく捨てた城といっても、サクヤと出会った場所である玉座の間で我が物顔をしているリッチたちをヘカーテは許せなかったのだ。
格の違いを教えると怒りをあらわにしたヘカーテであったが、特に何かをしている様子は見られない。
しかし、数秒後いきなりリッチたちは苦しみだし、その場に崩れ落ちてしまったのだ。
「うふふ。まだまだ続きますわよ」
意味深な言葉を呟きながら、倒れているリッチロードを玉座から蹴り飛ばすヘカーテ。
サクヤには決して見せることのない凶悪ともいえる姿であった。
ヘカーテは玉座に座り足を組ながらリッチたちを見下ろす。
「あら、思ったよりも早かったわね」
「ひー! おっ、お許しを!」
「へっ、ヘカーテ様っ!」
「ち、ちゅ、忠誠を誓います!」
「どうか! お許しを!」
一斉に平伏するリッチロードと三体のハイリッチ。
いったい何が起こったかというと、ヘカーテは幻影の魔眼を使ったのであった。
幻影の魔眼は目を合わせた相手に望む幻を見せることができる。
精神か幻覚に耐性のない者には避けることが不可能という凶悪なスキルだ。
ヘカーテが見せた幻は足先から順番に体が砕かれていくというものだった。
身動き一つ取れない状況で足先、膝、腰、胸、手先、腕、首、顔、頭と順番に砕かれていき、その度に強烈な傷みが襲う。
激痛とともに全身が砕かれた後は何事もなかったように体が再生され、再び足先から順番に砕かれていく。
この幻は心が完全に折れるまで続くように設定されていたのだが、ヘカーテが予想した以上に早くリッチたちの心は折れ幻が解けてしまった。
リッチは本来物理ダメージで痛みを感じることはなく、生きているときにしか痛みを味わったことがない。
だからこそ、ヘカーテの見せた幻はリッチたちに深い恐怖を刻み込み、あっという間に忠誠を誓わせるに至ったのである。
「私に忠誠を誓われても困るわ。貴方たちが忠誠を誓う人は私のダーリンなのだから」
もはや恐怖で何をいわれているかも分からないリッチたちはヘカーテに平伏し続けるのであった。




