4-さぼっている訳じゃない
モンスターカーニバルのメンバーがモンスターを制圧している頃――
「おお! あれがボーケンの街か! 予想以上にでかいな!」
サクヤは空から中世の外観を彷彿とさせるボーケンの街を見下ろしていた。
ボーケンとはアキン共和国の首都であり、アスナルド一大きな冒険者ギルドが存在する街である。
何をしにサクヤがボーケンまで来たかというと冒険者の登録をするためだった。
何の突拍子もなく冒険者としての登録をしに来たわけだが、その理由はゲームやライトノベルで存在する冒険者に一度はなってみたいという単純な理由だった。
中二的なサクヤは例に漏れず冒険者に憧れていたのである。
モンスター制圧を他のメンバー任せっきりでサボっているように見えなくもないが、制圧したモンスターを受け入れ体制を調えてボーケンの街に来ているから本人はサボっているとは思っていない。
「わざわざ、こっそり来たからな。あんま、もたもたしないで城に帰らんとな」
そういってサクヤは人気のない街の外壁へと舞い降り、歩いて門へと向かうのだった。
行商人や冒険者らしき人など門の出入りはそれなりにあるようだ。
兵士らしき存在は確認できるが馬車以外の出入りを特にチェックをしている様子はない。
サクヤも問題なく門を素通りできるかと思われたとき――
「そこのお前! ちょっと待て!」
鉄製の軽鎧を身に付け、腰に剣を帯刀している門番らしき男がサクヤに話しかけてきたのだ。
「見かけないやつだな。街に何のようだ?」
特に悪いことをした覚えもないので落ち着いて答えるサクヤ。
「この街には初めて来たんだが、冒険者の登録をしようと思ってな」
手に持っている紙の束をサクヤの顔を見ながら一枚ずつ確認する兵士。
「なるほど……。冒険者の登録か。冒険者ギルドは、あの正面に見える頭一つ飛び出た建物だ」
門にいる兵士がチェックしていた紙の束は犯罪者リストであった。
犯罪者リストの人相書きと照らし合わせて該当しなければ問題なく街に入ることができるのだ。
アスナルドの街は王都以外はどこもこんな感じで簡単に入ることができてしまうのが当たり前であった。
「あと、お前さんの格好は目立ち過ぎるから、絡まれないように注意したほうがいいぞ。」
「ああ……。感謝する」
サクヤの格好は背中に金龍が刺繍されたロングタイプの白い特攻服である。
特攻服だけなら魔術師のコートに見えなくもないのだが、背中の金龍が目立ち過ぎていたのだ。
しかも、腰に刀を帯刀しているのだから、どう見ても魔術師には見えず悪目立ちしてしまっていたのだった。
絡まれないように注意しろといわれただけで特に問題なく街へ入ることができたサクヤは冒険者ギルドへと足を進める。
「あのでかい建物が冒険者ギルドか……って、知っているんだけどな」
サクヤはメンバー全員にマップホンを渡していたが、自分はアナライズスコープにマップ機能を追加していた。
アナライズスコープは対象を指定してステータスの確認や解析を行うことができる。
マップ機能を追加したことにより、地図上の建物を指定すればどのような用途に使われているかまで分かるようになっていた。
さらにマップホンと違いモンスターを表示させるだけではなく、全ての人間を含めた全ての種族を表示させ、敵意のある者は赤、敵意なしは黄色、友好的な者は緑と色分けして区別できるようにしたのだった。
今までも充分チートな機能を有していたが、さらにチートさが増したアナライズスコープである。
「ここが冒険者ギルドか。さすがにアスナルドで一番でかいだけはあるな」
ボーケンの冒険者ギルドは、ちょっとした城を思わせる巨大な建物だった。
中に入ると正面に受付カウンターがあり五人の職員が冒険者の相手をしていた。
カウンターの左端には新規登録受付と書いた紙が貼ってある。
右側のスペースは椅子とテーブルが並んでおり食事が取れるようになっているようだ。
左側の壁には依頼ボードがあり、その横にある扉を冒険者が出入りしているのを確認できた。
サクヤは迷うことなく新規登録カウンターへと足を運ぶ。
「冒険者として登録したいんだが」
「こんにちは。冒険者の登録ですね。登録料として銀貨五枚かかりますが、よろしいですか?」
受付のお姉さんは金髪のセミロングヘアーに気品を感じさせる美人だった。
「ああ、金がないんだが魔石で支払うことは可能か?」
「魔石を買い取りしてのお支払いも可能ですが、今後の依頼達成報酬から差し引いてのお支払いも可能です。いかがなさいますか?」
「魔石の買い取りで頼む」
「かしこまりました。では、魔石の買い取りカウンターへご案内いたします。こちらへどうぞ」
依頼ボードの隣にある扉から魔石の買い取りカウンターがある部屋へと案内される。
部屋の中はかなり広いスペースとなっており、魔石とモンスター素材の買い取りを行っている場所だった。
モンスターの素材を買い取りしているだけあってお世辞でもいい香りがする部屋とは言いがたい。
「こちらが魔石とモンスター素材の買い取りカウンターになります」
「どれ、何を持ってきたんだ? 見せてみろ」
茶髪でボサボサ頭をした中年の男がサクヤに話しかけてきた。
受付嬢とは正反対で品の欠片も感じられない男だが、列記とした冒険者ギルドの職員である。
魔石やモンスターの素材は品定めが必要であり、綺麗所の受付嬢が兼任できる仕事ではないのだ。
「ああ、この魔石を買い取って欲しいのだが」
懐から直径八センチほどの透明な魔石を取り出し、職員に見せるサクヤ。
「こっ、これは……!? これほど質のいい魔石は滅多にお目にかかれないぞ! 大きさといい、透明度といい……こっ、こいつを何処で手に入れたんだ?」
「あー、師匠からの貰い物だ」
「ずいぶん太っ腹な師匠だな……。よし、白金貨一枚、金貨九枚、大銀貨三枚、銀貨五枚で買い取ろう!」
「そっ、そんなに! あっ……。失礼いたしました……」
高額な買い取り価格に思わず声を上げてしまう受付嬢であったが、金の価値が分からないサクヤは澄ました顔で了承をする。
ちなみに日本円に直すと、白金貨一枚は一千万円、大金貨一枚は百万円、金貨一枚は十万円、大銀貨一枚は一万円、銀貨一枚千円、大銅貨一枚百円、銅貨一枚十円、銭貨一枚一円となる。
サクヤは一千万円以上の価格で魔石を買い取ってもらったことになるのだ。
受付嬢がびっくりして声を上げてしまうのも仕方のないことであった。
既に察しているとは思うが、サクヤは世界構築スキルを使って魔石を作り出し持ってきたのである。
さすがに銀貨や金貨などのお金を作ることに抵抗を感じたサクヤは、ワイズのアドバイスを受けて魔石を作り買い取りをしてもらうことにしたのだ。
「見ない顔だが、そのコートといい、あんたは只者じゃなさそうだな。俺の名前はデビスだ。今後ともよろしくな」
「ああ、俺の名前はサクヤだ。よろしく」
「では、魔石の買い取りも終わりましたので、登録手続きを行います。またカウンターへお越しいただけますか」
買い取りカウンターの職員デビスと挨拶を交わし、再び新規登録手続きカウンターへと戻るサクヤ。
登録料の銀貨五枚を渡し手続きを進めていく。
「こちらの用紙に必要事項の記入をお願いいたします」
「あー、自分のペンで書いてもいいか?」
「……ええ、ご自分のペンで書かれても問題ありません」
一瞬きょとんとした受付嬢であったが、特に問題なくサクヤが懐から出したペンで書くことを了承した。
サクヤが何故わざわざ自分が用意したペンで書こうとしたかというと、アスナルドの文字が書けないからだった。
転生した時点で人間族の言葉を話すことはできたが、文字の読み書きは自分で学習しないと無理だったのだ。
そこでサクヤの立てた対策はアナライズスコープに文字の解読機能を追加し、頭に思ったことを人間族の文字で自動書記するペンを作ることだった。
いまサクヤが懐から出したと思わせ、アイテムボックスから取り出したのがそのペンである。
ちなみに買い取りしてもらった魔石もアイテムボックスから取り出している。
冒険者の新規登録用紙に書かれていた必要事項は、名前、年齢、種族の三点だけだった。
「記入が終わりましたら、こちらの魔道具に手を当ててください」
受付嬢が取り出したのは、五センチほどの厚さがある平べったいプレートだった。
プレートには手の平を型どった窪みがあり、その横にカードらしき物が置いてある。
「これでいいか?」
「はい。そのままの姿勢でお待ちください」
受付嬢が魔道具のスイッチらしき物を押すとプレートが淡い光を発した。
「……少々お待ちいただけますか」
プレートからカードを確認した受付嬢は不思議そうな顔をすると、カウンターの奥にある扉へ入っていく。
嫌な予感がしたサクヤであるが、とりあえず様子を見ることにする。
「お待たせいたしました。魔道具が故障していたようですので、新しいのをお持ちいたしました。もう一度手を当てていただいてよろしいでしょうか」
サクヤが再び魔道具に手を当てて同じことを繰り返すと、カードを確認した受付嬢がまたしても不思議そうな表情を浮かべる。
「ジョブは神の使徒とモンスターイーターで間違いありませんか?」
「ん……!? あー、その通りだ」
ジョブがバレるのは不味かったのではないかと思うサクヤであるが、既に後の祭りである。
「そうですか……。少々お待ちいただけますか」
カードを持って奥の扉へと再び入っていく受付嬢。
何だかとっても嫌な予感しかしないサクヤであったが、とりあえず待つしかない。
面倒事に巻き込まれそうなときは、転移でトンズラしようと考えていたのだった。




