1-黒龍王無双
セトはバイクで空を走っていた。
目指す目的地は龍族が棲息する山である。
セトの乗るバイクはKH400モドキといい、KH400にそっくりな形をしているが、地上だけじゃなく空まで走れるバイクだから、語尾にモドキと付けられている。
「む? 地図に反応があるのう」
サクヤからもらったマップホンはバイクにも取り付けることができ、ナビゲーションの働きをしている。
その地図に龍族の反応が一体でていたのだ。
「山からまだ離れておるが……はぐれ龍か? それとも、好奇心旺盛な龍かのう。まあ、どっちにしても切り捨てるだけじゃな」
セトはアイテムボックスから爆殺滅龍剣を取り出し上段に構える。
バイクに向かって飛行してきたのは小型の飛龍ワイバーンだった。
「なんじゃ、雑魚か……」
下位の龍であるワイバーンはセトから見れば雑魚でしかない。
セトはバイクに向かってきたワイバーンの突撃を交わし、すれ違い様に横凪ぎで切りつける。
ワイバーンは光の粒子となり消えていった。
「ガッハハハ! なかなか凝った演出ではないか!」
セトのいった演出とはワイバーンが光の粒子となって消えていったことであった。
瀕死のダメージを受けたモンスターは光のエフェクトとともに転送されるようサクヤが設定していたのだった。
「まさかワイバーンしかいないということはないじゃろうな……。弱い者いじめはつまらんからのう」
山が近づいてくる毎に襲いかかってくるワイバーンが増え、その都度剣で切り払っていくセト。
「むっ、何じゃこれは?」
地図を確認すると、左前方に十体、右に十体と編隊を組んでセトに迫ってきていたのだ。
「ほう……。ここの龍族は統制が取れておるようじゃのう。上位龍が統率している縄張りってことじゃな。むっ? あれはワイバーンに乗ったドラゴノイドか!?」
セトに迫ってきていたのはワイバーンに乗ったドラゴノイドだった。
ドラゴノイドとは人型をした小型のドラゴンのことであり、知能は高いが他の龍族と比べると戦闘力は劣っている。
戦闘力の低さからドラゴンの劣兵と呼ばれることもあるが、知能の高い上位龍が君臨する縄張りでは、知能が低い下位龍を操る指揮官として登用されていることも多い。
また、野生のワイバーンにドラゴノイドが騎乗していることなどは有り得なく、このことからセトは上位龍が統率している縄張りだと判断したのだ。
ドラゴノイドはセトから充分に距離を取りながら横を通り抜けたかと思うと、急旋回をして並ぶように飛行を始めた。
「ここから先は我等龍族のテリトリーである! 早々に立ち去られよ!」
「警告か。律儀なドラゴノイドじゃの」
一回り大きなワイバーンに乗ったドラゴノイドが警告を発する。
ドラゴノイドは知能が高く人語を話すことができるのだ。
セトが龍ではなく人の姿をしていたので人語で警告をしてきたのである。
「無駄な争いは避けるように主からいわれておる。返答はいかに!?」
「その主とかのところに我を連れていってくれないかのう」
「主のところにだと? どのような用件だ?」
「何、簡単な用件じゃ。貴様らの主をぶった切って、我が主に成り代わるという用件じゃ」
ドラゴノイドたちから一瞬にして殺気が発せられ、その内の一体が怒声を上げる。
「人間風情が大人しくしていれば付け上がりやがって! ぶっ殺してやる!」
「待て! 部下の非礼を許して欲しい。我々の主は争いを好まぬ。引いてはくれんか?」
一回り大きなワイバーンに乗ったドラゴノイドはこの部隊の隊長格のようだ。
争いは好まぬというがセトの答えは……。
「引いてくれんかといわれてものう。我も使命を受けてきているからのう……無理じゃ! 大人しく我に切られるがよい」
隊長格の紳士的な態度を受けて微妙に抑え気味なセトであるが、いっていることは悪役でしかない。
「仕方がない……」
そういうと隊長格のドラゴノイドが腕を振り上げサインらしきものを出す。
二十体のドラゴノイド部隊がセトを取り囲むように円上に広がっていく。
「我の速度に合わせながら取り囲むとは、よく訓練されているようじゃな。なかなか、素晴らしい動きよのう」
余裕しゃきしゃきのセトだったが、そのとき全てのワイバーンからセトに向かってブレスが吐き出された。
取り囲まれたセトに逃げ場はない。
四方八方からの火炎がセトを襲う。
「大人しく帰れば死なずに済んだものを……」
「ふむ……。焚き火なみの火力じゃな」
「ばっ、馬鹿な!」
火炎が晴れたその先には何事もなかったようにバイクを走らせているセトがいたのだった。
セトもいくら下位龍の火炎だったとしてもノーガードで受けるほど馬鹿ではない。
きちんと自分を囲うように多重障壁を展開していたのだ。
「これだけ統率が取れておると、一体一体叩き切るのも大変じゃの……」
そういうとセトはダークブレスを放ち左右と上方のワイバーンを凪ぎ払った。
黒い闇に飲まれて消えていくドラゴノイドとワイバーン。
「ばっ、馬鹿な! 人間がダークブレスを吐くとは!」
セトはバイクをスライドターンさせ方向転換をし、坂道を下るように下方にへと走らせる。
そして、続けざまにドラゴノイドとワイバーン三体を剣で切り払い、口からダークブラストを吐き出し、闇の突風でさらに二体を消し去る。
残るは隊長格のドラゴノイドのみとなった。
「どうする? 無駄な争いは避けたほうがいいのではないか? 帰って主に¨黒龍王セトがお前の首を取りにいくから待ってろ¨と伝えるのじゃ」
「黒龍王だと!? 人化しているのか! どうりで我らじゃ歯が立たぬわけだ……。くっ……」
踵を返し猛スピードで撤退するドラゴノイド。
「地図であやつを追っていけば、ボスまでまっしぐらじゃな」
ある程度距離が離れたところで動き出したセトは、ドラゴノイドに気付かれない距離を保ちながら地図のマーカーを追跡していく。
セトにしては頭を使った作戦である。
山に入り斜面を登るように空中をバイクで走らせていくセト。
ここは完全に龍族の縄張りである。
あれ以降襲ってくる龍もいなく不気味なくらい静かであったが、山の中腹くらいに差し掛かったとき、セトを待ち受けるように五体の龍が立ちはだかった。
「今度は中位龍が五体か。敵も本気になってきたようじゃの」
ウォータードラゴン、ファイアードラゴン、ライトニングドラゴン、アースドラゴン、ウインドドラゴンの五体が翼を羽ばたかせ殺気を発しながらセトに睨みを効かせる。
五体の龍は全て、鱗でおおわれた逞しい胴体に長くしなやかな尾、大きな翼、太く長い首、鰐を凛々しくしたような顔に鋭い牙と角を生やしていた。
一般的に西洋風のドラゴンといわれる外観であるが、ウォータードラゴンは水色、ファイアードラゴンは赤、ライトニングドラゴンは黄色、アースドラゴンは茶色、ウインドドラゴンは緑と鱗の色に違いが見られる。
「ヤツを見失っても困るしな。悪いが遊んでいる暇はないのじゃ」
上位龍であるセトは中位龍などに臆することなく、先手必勝とばかりに、口から黒龍王最強のブレス¨ダークインフェルノ¨を放った。
ビーム状に圧縮された黒炎が五体のドラゴンを次々と凪ぎ払うに直撃していく。
ダークインフェルノを食らったドラゴンは全て光の粒子となって消えていった。
中位龍まで一撃で殲滅とは……まさに黒龍王無双である。
セトを見ていると龍族がまるで弱いように感じてしまうが、実際はそんなことない。
人間であればワイバーン一体であったとしても、LV40の中堅どころが六人で闘いを挑みどうにか討伐できるというところである。
サクヤのネームオーダーで黒龍王として昇格したセトが強すぎるのだ。
「そろそろ終着点じゃな」
地図のマーカーを見ると、隊長格のドラゴノイドが動きを止めていた。
「この下が住処になっておるようじゃの」
山の頂上まで登りきったセトはバイクを停止させ、口を大きく開いている火口に目をやる。
真下に深く伸びている火口をバイクで降りるのは、かなり難易度が高そうである。
そう考えたセトはアイテムボックスにバイクをしまい、そのまま火口へと一直線にダイブしたのであった。




