47-心の平穏
「とりあえず、離れてくれないか?」
「いやだー! 好きな人とはいつでもくっついていたいのが乙女心よ」
バンシーは肌こそ青白いが美しい顔にスタイルも決して悪くはない。
抱き締められている咲哉も悪い気はしていないのだが相手はモンスターである。
冷静に考えると、やはり微妙な気分になってしまうのだ。
「もう恐怖は感じていないんだよな?」
「心がこんなに平穏なのは生まれて初めてよ。あなたのくれた腕輪のお陰なのよね?」
「ああ、そうだ」
「やっぱり、大好き!」
さらにギュッときつく抱き締めるバンシーであった。
「平穏になった心が、今はあなたへの愛で燃え盛っているわ」
「あー、分かったから、ちょっと離れてくれないか? 俺は聞き分けのない女は嫌いなのだが」
サッと咲哉から離れるバンシー。
ある意味聞き分けはいいのかもしれない。
「私は可愛い女だから、あなたに嫌われるようなことはしないわ」
自分で可愛い女というのもどうかと思うが、かなり自分本意なバンシーである。
本来なら、『あなたに嫌われるようなことはしないわ』ではなく、『あなたの嫌がることはしないわ』というべきではないだろうか。
「俺に嫌われるようなことはしないか……。俺はいうことを聞かない女は嫌いだ。俺の命令に従順に従うのなら、お前のことを好きになることもあるかもしれんな」
「独裁者タイプなのね……素敵だわ!」
こんな男は普通なら嫌われてしまいそうなものであるが、バンシーはさらに気に入ったようである。
「まずはお前に新しい名前を付けるぞ」
「きゃー! 人は結婚すると名前が変わるって聞いたことがあるわ! 嬉しいー!」
「いや……そういう名前じゃなくてだな。名前を付けてお前をパワーアップさせる感じだ」
「うーん? よく分からないけど、あなたに名前を付けてもらえるのは嬉しいわ」
何だかとっても濃いキャラをしているバンシーである。
咲哉の心労は益々増えると思われる。
「よし。そうだな……お前の名前は、¨愛染王・ネヴァン¨だ!」
愛染王・ネヴァンと名付けられたバンシーだったが、特に変化は見られなかった。
「愛染王・ネヴァン! 素敵な名前だわ! ありがとうー!」
目立った変化はなしかと思った咲哉はネヴァンのステータスを確認する。
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【ステータス】
名前:愛染王・ネヴァン
種族:妖精族
種別:愛染王
ランク:SSS
属性:闇・冥府
称号:死の伝達者
LV:49
HP:8018/8018
MP:15108/15108
STR:1098
INT:1757
DEX:1018
AGI:2659
特性:耐肉体(大)・耐闇(大)・耐即死(大)・耐毒(極大)・耐混乱(極大)・耐恐怖(極大)
STR系スキル:ポイズンピアース
INT系スキル:死の叫び・フィアーズストレングス・リジューヴェネイション・コンフュージョンズバトルクライ・フィアーズバトルクライ・愛染王日輪
DEX系スキル:クロウマニフェステーション・ポイズンミスト
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以前と比べると激的に強くなっているようだが、やはり他のメンバーと比べると見劣りしてしまう。
しかし、耐性とスキルがかなり増え、確実にパワーアップはしているようだ。
「耐混乱に耐毒か。耐恐怖は腕輪の効果でついたわけじゃないよな? ネヴァン、ちょっと腕輪を貸してくれ」
「きゃー! 名前で呼ばれたわ! 腕輪ね、腕輪! はい!」
「あー、思えば俺は名乗っていなかったな。俺の名前は、サクヤ・カンバヤシだ。ところで気分はどうだ?」
耐恐怖(超極大)の効果を持つ腕輪を受け取った咲哉は、ネヴァンの気分を確認する。
「サクヤ・カンバヤシ……サクヤ様ね! サクヤ様の名前を知ることができて、天にも舞い上がる気分よ!」
「そっ、そうか」
恐怖の効果は出ておらず、頭の中は咲哉でいっぱいのようである。
「腕輪は返しておくぞ」
このとき咲哉は腕輪から耐恐怖(超極大)の効果を消して新たな機能の追加したのだが、それが何かはまだ秘密にしておこう。
ここで愛染王・ネヴァンという名前の解説をしておこう。
咲哉は仏教で愛の仏といわれている愛染明王から、愛染王と名付けた。
バンシーが愛で燃え盛っているなんていっていたので愛染明王のことが頭によぎったのである。
ネヴァンという名はケルト神話に登場する、戦いに勝利をもたらす女神のことであり、名前には『毒のある女』という意味を持つ。
戦場をヤタガラスの姿で飛び回り恐ろしい鬨の声を上げて敵兵を混乱状態にし、同士討ちをさせるといわれている。
咲哉はスキルの効果を調べていないので気付いていないようだが、ネヴァンの名に相応しい効果を持つスキルが複数増えていた。
スキルの詳細は咲哉がスキルに興味を覚えたときに判明するであろう。
「ラーン、ネヴァンをワイズに会わせて城を案内するように伝えてもらっていいか?」
「分かったぜ! 師匠!」
「ネヴァンはラーンに思うところがあるかもしれないが、これからは仲間になるんだ。仲良くしろよ?」
「さっきは散々追いかけ回されたけど、ラーンはサクヤ様の弟子ですし、私は根に持たない女だから大丈夫よ」
根に持たない女というのが嘘か本当かは分からないが、大好きな咲哉の弟子という認識ならきっと大丈夫であろう。
二人を城に転送し、咲哉は一人医療施設でセクメトの帰りを待つのであった。
◆ ◆ ◆
「もう勘弁して欲しいにゃー」
「んー? まだ遊び足りないー」
川の畔に真っ白いロングヘアーの女が大の字になって倒れていた。
頭に猫耳、お尻から二本の尻尾が覗いていることから獣人に見えるが、彼女はネコマタというモンスターである。
残念ながら、胸と大事なところは白いモフモフの毛でおおわれておりセクシー差は半減……ではなく、毛のところどころが焦げており、セクメトの火炎にやられて憐れな姿だった。
ネコマタは長い年月を生きた猫の尻尾が二本に増え妖力を持ち、妖獣になったものといわれている。
既に瀕死のように見えるネコマタであったが、セクメトは連れ帰る素振りなど一切ないようである。
それどころかアイテムボックスからHP全回復ポーションを取り出し、ネコマタに振りかけたのだ。
「もう、許して欲しいにゃ……。心穏やかに平穏に過ごせる日々を帰すにゃー!」
何だか物凄く憐れなネコマタであるが、それもそのはず、セクメトはこんなことを既に10回以上も繰り返していたのだった。
瀕死にしては回復させ、瀕死にしては回復させと10回以上……ネコマタは既に涙目である。
可愛らしい顔をしているネコマタであるから、何だかとても可哀想に見える。
苛めているのが幼女というのが、また何とも微妙な絵ずらに見えるのであった。
「んー? お兄ちゃんも待たせてるし、次で最後にするー!」
「やっと、この拷問から解放されるにゃ……平穏な日々が再び……」
「んー? けど本気でやらないと、またやり直しー」
「にゃー! 本気と書いてマジで相手をするにゃー!」
本気と書いてマジとは……何だかとても頭が悪そうに見えるネコマタであった。
「先手必勝にゃ! 幻影ネコマタラーッシュ!」
みるみるうちにネコマタの数が増えていく。
その数はおよそ100体くらいだろうか。
100体にも増えたネコマタが一斉にセクメトに襲いかかった。
「忍法! 金縛りの術ぅ!」
襲いかかってきたネコマタが次々と消えていき、残り一体が地面へと崩れ落ちてしまう。
セクメトは金縛りの術という名で龍王の威圧を発動したのだった。
セクメトと比べるとネコマタのほうが格段にAGIは高い。
しかし、ネコマタは気絶に耐性はなく、INTもセクメトに大きく劣っているので、龍王の威圧を食らってしまえば為す統べなく気絶してしまうのだ。
龍王の威圧がある限りセクメトに負けはないといえるのだった。
こうなるともはや弱い者苛めでしかない……。
「おーい! おきてー!」
大刀・龍鱗でネコマタをちょんちょんと小突くセクメト。
小突かれる度に大刀・龍鱗の効果でネコマタのMPが吸収されていくのだがセクメトに悪気はない。
「んー? おきないねー。どうしようかなー? んー? めんどうだからとどめー」
起きるのを待つのが面倒になったセクメトは止めを刺すことにしたようである。
「火遁! 猛火球ぅ! 滅却ぅ! 滅失ぅ!」
「にゃー!」
途中で気絶から目を覚ましたのか、ネコマタの悲鳴が辺りにこだましていたのだった。
最後まで憐れなネコマタである。南無。
真っ黒に焦げてしまったネコマタの首根っこをつかみ、セクメトは咲哉の待つ医療施設へと転移するのであった。




