44-本当にうざい
「まあ、ヘカーテがそう判断したのなら仕方がない。相手をしてやるか」
「なかなか潔い男ではないか!」
咲哉は決闘を受けることにしたようであるが、この頭の堅そうな堕天使をどうやって納得させて部下にするつもりであろうか。
「親分がわざわざ相手をする必要などありません。俺が蹴散らしてやりますよ」
「何をいっておる! ここら我の出番じゃろうが!」
咲哉がわざわざ出る幕ではないとオグマはいい、オグマのパワーアップで好戦意欲の高まっているセトは戦いたいといいだす。
「ダーリン、そちらの虎柄の方はどなたかしら?」
奇抜な格好に興味をひかれたのか、場の空気を読むことなく咲哉に尋ねるヘカーテ。
「ああ、こいつは新しい部下の刹鬼王・オグマだ」
「虎柄……虎は美味しい……?」
「虎は美味しいかって? ああー、お前ら、一度にしゃべらず、とりあえず落ち着け!」
誰もが好き勝手に話しかけてきて、頭がオーバーヒート気味な咲哉である。
「まず、堕天使と戦うのは……」
「君たち! 何をごちゃごちゃいっているんだ! サクヤ! さっさと僕と戦え!」
咲哉が話し終わるのを待つことなく堕天使が横やりを入れる。
話を途中でさえぎられて不快に思わない人はいないであろう。
頭が混乱していたせいもあってか、機嫌が一気に悪くなってしまう咲哉であった。
「堕天使! てめえはよう! 人の話をさえぎってんじゃねえ!」
咲哉の高速デコピンが堕天使の額にヒットした。
「がっ……!」
声にならない声を上げたかと思うと、堕天使は一瞬で吹き飛ばされ、向こう側の壁へと激突してしまう。
「ああー、お前らも一度にしゃべらず順番にしゃべれ! 俺は一人しかいないんだからな。お前ら全員を一度に相手はできん!」
「親分! すいませんでした!」
「うむ。すまぬ……」
「ダーリン、申し訳ありません……」
「虎……食べてみたい……」
約一名を除き、咲哉のデコピンに圧倒されてしまい、素直に謝ったのであった。
「よし。じゃあ、誰が堕天使と戦うか決めようか」
「あっ、あの……ダーリン」
「あん? なんだ?」
「あれはもう瀕死といえるのではないでしょうか……?」
咲哉のデコピンを食らって壁に打ち付けられた堕天使は微動だにしていなかった。
「あー、ただのデコピンだったのだが、やりすぎたか? まるで動く気配がないな」
わざわざ遠くの壁まで見に行くのが面倒だった咲哉は、世界構築スキルを使って堕天使を足元まで引き寄せる。
倒れた状態で空中を滑るように移動してくる堕天使は、何だかとっても気味が悪かった。
瀕死かどうかを確かめるために、堕天使のステータスを確認する咲哉。
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【ステータス】
名前:堕天使・アシエル
種族:天族
種別:堕天使
ランク:EX
属性:光・闇
称号:禁忌を破りし者
LV:89
HP:1891/18923
MP:42669/43289
STR:891
INT:6278
DEX:2943
AGI:1894
特性:耐光(大)・耐闇(大)・耐精神(大)
INT系スキル:物理魔法・空間魔法・精神魔法・蘇生魔法
DEX系スキル:オブジェクトクリエイト
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「ああ……これは完全に瀕死だな」
咲哉は堕天使の残りHPが10パーセント以下になっていることから瀕死であると判断していた。
「一発で瀕死にするとは、さすがは親分です」
「あれはデコピンという技であろう? 凄まじい威力であったな」
技というより、ただのデコピンである。
たかだかデコピンで瀕死になるとは、物凄くひ弱な堕天使と思えるかもしれないが、実際のからくりはこうである。
咲哉は新たにインドラ、オグマを取り込んだことで、現在のSTRは24862というとんでもない値になり、既に超越者の域に達している。
それに比べて堕天使のSTRは891と28倍に近い差があったのだ。
筋力を使った攻撃やSTR系スキルを受けたときの防御力はSTR値の高さに左右される。
例えデコピンであったとしても、STRの差が28倍もある相手から無防備で攻撃を受けたのだから、大ダメージを食らうのは当たり前のことだったのだ。
しかも運の悪いことに破壊不能効果のある壁に頭からぶつかってしまったので、衝突時の衝撃に逃げ場はなく、実際は壁に頭をぶつけた時点で即死していたのだった。
堕天使は喧嘩を売った相手が悪すぎた。
しかし、幸いなのは腕輪の効果で即死ダメージがすぐに瀕死レベルにまで回復され、医療施設の効果で瀕死状態を保てていることである。
「まあ、とりあえず取り込んでおくか。モンスターイート!」
ちなみに天族である天使はモンスターではないが、同じ天族でも罪を犯して堕天使になってしまうとモンスターという扱いになってしまう。
「こいつの名前はアシエルといったか。確かアザゼルの別名だったよな……」
堕天使アシエルはアザゼルの別名である。
アザゼルは人間の娘に魅惑され妻に娶るという禁を犯し、堕天したという、割と有名な堕天使である。
アスナルドのアシエルも同じ罪を犯して堕天したのかは分からないが、言動や素振りから判断してその可能性は充分に高そうである。
「サクヤよ。召喚はしないのか?」
「ああ。このまま召喚しても俺のいうことなど聞かないだろうしな。ちょっと考えがあるから、お前らは先に城へ戻っていてくれ」
咲哉は皆を連れて城へと転移し、インドラの紹介などを含め全てをワイズに丸投げして、再び医療施設へと戻るのであった。
「あとはセクメトとラーンを待つだけか。時間も勿体無いし先に作業を済ませておくか。これで上手くいけば……」
咲哉は何かの作業を始めるようである。
上手くいけばといっていることから堕天使を手懐ける何かなのだろう。
「アイシュなら文句はないだろう。戦闘もできるタイプにするか……」
ぶつぶつ呟きながら構想をまとめた咲哉は世界構築スキルを発動させる。
「よし。完璧だ!」
咲哉の前にメイド服を着たスレンダースタイルの美女が現れた。
メイド服からは褐色の肌が覗いており、ブラウンの長い髪がセクシーさを助長させている。
瞳の色はエメラルドグリーンに輝き、見ているだけで吸い込まれてしまいそうなほど魅惑的だった。
その姿は1994年のミスワールドに選ばれたアイシュその人だった。
咲哉が作ったのは魔導人形である。
地球にいたころ世界一の美女と名高かったアイシュの容姿を模倣して作ったのであった。
ワイズは知識を優先させたが、この魔導人形はメイドの役割を持たせつつ、戦闘に特化させたものになっている。
「お前の名前をシュリーと名付ける」
シュリーと名付けられた魔導人形の肌は徐々に金色に変化していった。
「金色の肌か……」
金色の肌は何だか微妙に気味が悪いと、すぐに褐色の肌へと戻す咲哉であった。
「はじめまして、咲哉様。素敵な名前をお授け下さり、ありがとうございます」
シュリーは透き通るように美しい声をしていた。
気品ただよう所作でお礼を述べる姿もまさにパーフェクトである。
「うむ……。これから、よろしく頼む」
初メイドゲットだぜという気分なのか、ちょっと偉そうな咲哉であった。
「よし。堕天使を召喚するか。モンスターサモン! 堕天使・アシエル!」
咲哉の前に堕天使が召喚される。
「サクヤか? ん? 何が起こったんだ!?」
「あー、決闘を申し込んだお前は俺に瞬殺されたんだ」
「なっ……」
堕天使の脳裏に咲哉一瞬にして吹き飛ばされた記憶が思い出されてくる。
「そうか……僕はたった二人の女性を守ることすらできなかったのか」
相変わらずヘカーテとスパルナが咲哉に操られていると勘違いしている堕天使である。
「お前は勘違いをしているようだが、あいつらは操られてなんかいないぞ。あの二人は精神魔法の耐性を持っているからな」
「耐性だと?」
「そうだ。お前は精神魔法が使えるんだろ? あとから会わせてもやるから試しに魔法をかけてみるといい」
「そうか……。じゃあ、僕は勘違いして一人で踊っていたというわけか」
咲哉に一瞬で負けたことがショックだったのか、やけに素直に認める堕天使である。
堕天使は精神魔法に耐性のある種族やアイテムの存在を知っていた。
このことも咲哉のいうことを素直に認める要因となっていた。
「……はっ!? 君の隣にいる女性は?」
「ああ。こいつはシュリーだ」
堕天使はやっとシュリーの存在に気が付いたようだ。
今まで茫然としていて周りに気を配る余裕などなかったらしい。
「なんて美しいんだ……」
「そうだろう。俺のいた世界で一番の美女をモデルにして作ったからな」
「その瞳に吸い込まれてしまいそうだ……。ん!? いま何ていったんだい? 作ったと聞こえたような気が?」
美しさに見とれていた堕天使は咲哉の言葉で我に返る。
「ああ。シュリーは俺が作った魔導人形だ」
「魔導人形? そんな訳ないじゃないか。人とまるで変わらない魔導人形なんて見たことがない」
アスナルドでは魔導人形自体の数も少なく、人と見間違うほど精巧な魔導人形を作り出せる職人など存在しなかった。
ワイズもそうだが、シュリーも何処からどう見ても人にしか見えない。
魔導人形といわれても素直に信じることができないのは当たり前である。
もし咲哉の作る魔導人形が販売でもされようなものなら、いくらお金を出しても欲しいという輩が続出するであろう。
「そういわれてもだな……。よし、じゃあ証拠を見せようか」
咲哉はそういうと鞘に入った一本の剣と鉄の柱を作り出す。
柱は直径三十センチの円柱で高さが二メートルある。
「これはアダマンタイトの剣だ。鉄の柱くらいは簡単に切断できる。この剣を貸すから、柱を切ってみろ」
「あっ、ああ、分かった」
ダマンタイトの剣を急に渡され戸惑いつつも、堕天使は剣を鞘から引き抜き柱へと切りつけた。
剣で斜めに切られた柱は、見事に切断され、滑るように地面へと落ちる。
「凄い切れ味だな……」
「次はシュリーの腕を切ってみろ」
「なっ、何をいっているんだ君は!」
「シュリー、腕捲りをして、手を前に出せ」
「だから、何をいっていると……!」
「がたがたいわず、さっさと切れ!」
強権発動である。
モンスターサモンで召喚されている堕天使は咲哉に逆らうことはできないのだ。
「わっ、わかった。どうなっても知らないからな!」
半ばやけくそ気味な堕天使はシュリーの腕に目掛けて剣を降り下ろした。
「どうだ?」
鉄の柱を簡単に切断した剣が、シュリーの腕に弾かれてしまったのだ。
「ばっ、馬鹿な!?」
咲哉の作った魔導人形であるシュリーは、当たり前の如く破壊不能の効果が付与されている。
どんなに切れ味のいいアダマンタイト製の剣であったとしても、シュリーを切断することなど不可能なのだ。
「俺の作った魔導人形を破壊することは不可能だ。それが例えどんな名剣だったとしてもな。シュリーが人間だったとしたら、こうはいかないだろ? これで信じたか?」
「いや、まだだ! まだ信じることはできないぞ! こんな美しい女性が魔導人形であるはずがないだろう。そうだ! 僕が剣で切る瞬間に君が物理魔法結界で防いだんじゃないか!?」
「お前なあ……」
スパルナがうざいうざいといっていたが、本当にうざい堕天使である。
このうざい堕天使に咲哉はどうやってシュリーが魔導人形であることを証明するのであろうか。




