43-やはり女性は甘い物が好き
「あー、ヘカーテ。これはどういうことだ?」
「ダーリン、これは……」
ヘカーテの説明を聞き、咲哉は呆れた表情を浮かべるのだった。
◆ ◆ ◆
時間は少し前にさかのぼる。
「スパルナちゃん、あの島に堕天使がいるらしいわよ」
「手っ取り早く……島ごと破壊する……」
「それは……ダーリンがよい顔をしないのではないかしら」
ヘカーテとスパルナは海岸から島を眺めていた。
島といっても一周100キロ程度の小さな島である。
この島はモンスタープリズンの結界が張っている境界線となっていた。
「島ごと破壊が駄目なら……島を全て焼き尽くす……」
「そうねえ……見たところ岩の島みたいですから、それでしたら大丈夫かしら」
かなり物騒な会話をしている二人であるが、岩の島であれば焼き尽くしたとしても破壊されることはない、ヘカーテとしてはそういう認識らしい。
島ごと破壊するにしても、焼き尽くすにしても、どちらにせよ物騒な話であることに変わりはない。
ヘカーテの承諾を得たスパルナは、セブンフォースランチャーを操作し砲口を島に向ける。
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト、ナイン、マックスパワー!」
音声アナウンスが流れ、マックスパワーで火属性弾を発射する準備が整ったようだ。
「ふふふ……発射……」
スパルナがトリガーを引くと砲口から、色々とはみ出してしまいそうなほど際どい赤色ビキニの女が姿を現し――
「火星にかわって拳骨よー!」
と叫びながら島に向かって突貫していった。
「ふふふ……火星にかわって拳骨……」
スパルナが呟いたと同時に、島が大爆炎に包まれる。
「凄まじい爆炎ですわね。熱気がここまで伝わってきますわ……」
海岸と島の距離は10キロくらい離れているが、ここまで熱気が伝わってくるほどの大爆炎であった。
島に生き物がいたとしたら一匹として生存は不可能だろう。
「なんか……飛んでくる……」
島から物凄い勢いで、ヘカーテたちのいる海岸に向かって飛んでくる何かをスパルナが発見した。
「あらあら、生きていたみたいですわね」
「しぶとい……」
近付いてくる毎に大きく見えてくるその姿は、白い布をまとい黄緑色の髪をした堕天使だった。
「危ないじゃないか! いきなり魔法を発射するなんて……」
ヘカーテたちの前に、三対六枚の翼を羽ばたかせた堕天使が舞い降りる。
「君たちみたいに美しい女性が、島を焼き払うような真似をしてはいけないよ」
「誘導弾……発射……」
スパルナは堕天使の話など聞く耳もたず、セブンフォースランチャーから三発の誘導弾を発射した。
「ちょ、ちょっと話を聞いてよ!」
誘導弾は噴射口から白い煙を撒き散らしながら、弧を描くように堕天使へと向かっていく。
「物理魔法結界!」
堕天使が両手を広げると、誘導弾は目に見えない壁に衝突したかのように突然爆発して消えてしまった。
「ちっ……」
思わず舌打ちをするスパルナ。
アイドル顔で舌打ちをするとは、事務所が問題にしそうな話である。
まあ、当たり前の如く、スパルナが所属する事務所なんて存在しないのだが。
「スパルナちゃん、何だか可哀想ですから、とりあえず話を聞いてみましょうか」
「聞くだけ無駄な気がする……」
「そうかもしれませんけど、念のためですわ」
「わかった……」
予想外の攻撃を連続して受けた堕天使は激しく息を切らしながら地上へと降りてくる。
「はあはあ……。そちらの麗しいお嬢さん、感謝する」
「話というのは何かしら?」
「話というより、まず、こちらが話を聞きたい」
堕天使がいうには、島の海岸でのんびり日光浴をしていたところ、ビキニ姿の美女が急に突っ込んできて辺り一面火の海になってしまったということだった。
物理魔法で結界を張ったが持ちこたえられず、空間魔法で転移してまで逃げるはめになったとのことである。
そして、状況を判断するために美女が飛んできた方角へと来てみたら、ヘカーテたちがいたというわけであった。
堕天使からすると、とんだ災難に見舞われたという話である。
「あらあら、それは災難でしたわね」
「災難って……君たちがやったことだろう?」
「瀕死にして……連れて帰るのが使命……」
「美しい女性にそんな物騒な言葉は似合わないよ。それより、こんな誰もいないような島で会ったのも何かの縁だ。僕とお茶でもしながら交流を深めないかい?」
イケメンなのにちょっと残念な堕天使である。
本来なら「瀕死にして連れ帰るのが使命とはどういうことだい?」と真っ先に聞くべきではないだろうか。
それがお茶をしながら交流を深めようとは、自身が危険な立場にいるということをもっと認識するべきであろう。
「あらあら、お茶ですか。この島のどこでお茶をするというのかしら?」
「お菓子があるなら……考えてもいい……」
ヘカーテがいうことは最もである。
いったい何処でお茶をするというのだろうか。
食べ物に釣られそうな勢いのスパルナはスルーする方向で……。
「あははは。確かにそうだよね。けど、僕はオブジェクトクリエイトのスキルでテーブルや椅子などを簡単に作り出すことができるんだ」
オブジェクトクリエイトとは物をイメージ通りに作り出すスキルのことである。
ただし、無から有を産み出すことはできず、木や岩など何らかの素材を用意する必要がある。
また、大きな物を作るのにはINTの高さが左右し、INTが低ければ小さな物しか作り出すことはできない。
色々と細かい制限はあるが、それを含めたとしても非常に汎用性が高く使い勝手のいいスキルである。
堕天使は得意気な顔をしながらオブジェクトクリエイトのスキルを発動させた。
海岸の岩場が盛り上がり、テーブルと椅子の形をなしていく。
円形テーブルに三脚の椅子と、海岸に即席カフェテラスができあがったのだった。
「面白いスキルですわね。お茶もスキルで作るのかしら?」
「ティーセットは空間魔法で異空間に入れてあるのさ」
堕天使はまたまた得意気な顔をしながら空間魔法で小さな裂け目を作り、異空間からティーポットと三客のティーカップを取り出した。
「お菓子がないなら……お茶はしない……」
「安心してくれ。お菓子もきちんとここにあるさ」
そういうと堕天使は異空間から色とりどりのケーキが乗った三段ケーキスタンドを取り出してスパルナに見せる。
「瀕死にするのは後回し……まずはお菓子を食べる……」
「そうですわね。せっかくですからご馳走になりましょうか」
何だかんだで甘い物に弱いのが女性である。
すっかり乗せられてしまい、お茶とケーキをご馳走になるのだった。
「このティーポットもケーキスタンドも特別な魔道具でね。いくらでもお代わりは自由だよ。好きなだけ召し上がってくれ」
ティーポットはいくら注いでも紅茶はなくならず、三段ケーキスタンドは備え付けのボタンを押すことでケーキが無限に出現するというレジェンドアイテムである。
「この魔道具……欲しい……」
「すまないね。美しい君のお願いでも、さすがにこれをプレゼントすることはできないんだ。この魔道具は天使長からいただいた特別な品物だからね」
どちらのレジェンドアイテムも、堕天使が堕天する前に、ある功績を称えられ天使長から贈られた特別な魔道具であった。
天使が堕天するのには理由があることを知っていたヘカーテは、詳しい背景が気になりつつも深くは触れないようにするのであった。
「ところで君たちは僕を瀕死にして連れ帰るのが使命といっていたけれど、誰かに命令されたのかい?」
「命令というわけではありませんわ。ダーリンのために喜んでさせてもらうことですわ」
「サクヤに……頼まれた……」
「ダーリン? サクヤ? うーん……その彼が君たちを僕のところへ寄越したってわけだね」
「そうですわ」
「その通り……」
「そうか……そうなのか……。そいつは何てひどい男なんだ! こんな美しい女性二人に! やりたくもないことを無理やりやらせるなんて!」
「ダーリンがひどい男ですって……?」
「だってそうだろう!? 君たちみたいに見た目だけではなく、心も清く美しい女性が僕を瀕死にしにきたなんて、到底信じられるわけがないだろう!」
いきなり訳のわからない持論を展開しだす堕天使。
何をどう判断して心が清く美しい女性となったのだろうか。
心の清く美しい女性はいきなり大砲(セブンフォースランチャー)をぶっ放したりはしない。
「君たちは、きっと操られているんだ! 僕がその悪い呪縛から解き放ってあげよう!」
「えっと……私たちは操られてなんていませんわよ」
「この堕天使……うざい……」
スパルナのいうようにウザいこと極まりない堕天使ではあるが、堕天使なりの根拠があってそう考えていたのである。
堕天使は精神魔法の使い手であった。
だからこそ、『美女二人がこんな物騒なことをしにくるなんて、精神魔法で洗脳されているのではないか』と考えていたのだった。
では、堕天使はヘカーテたちに精神魔法を使っていないかというと、女性には精神魔法を使わないというポリシーから使用はしていない。
女性とは魔法で操るものではなく、自らの魅力で口説くものだという強い信念を持っていたのだ。
といっても、耐精神(大)の特性を持つヘカーテとスパルナには精神魔法が効く可能性は限りなく低いのであるが。
「君たち。その彼に会わせてもらうことはできないだろうか?」
「会ってどうするのかしら?」
「もちろん! 君たち二人を自由にするために決闘を申し込む!」
「決闘ですか……。どうしましょう? スパルナちゃん」
「この堕天使……うざい……」
ヘカーテがスパルナに意思を確認したのには理由があった。
ヘカーテとしては堕天使を咲哉に会わせてもいいと考えていたのだ。
このまま瀕死にして連れて帰ったとしても自らの意思で咲哉の部下になるとは考えにくい。
それだったら、咲哉に全て任せたほうが確実だと思ったのだった。
しかし問題はスパルナである。
何気に好戦的なスパルナが素直にこの提案を受け入れてくれるとは思えなかったのだ。
しかも、さっきから、うざいとしかいっていないスパルナであるから、何を考えているかまるで分からない。
「スパルナちゃん、堕天使をダーリンのところへ連れて帰ってみるのはどうかしら?」
「肯定……うざいからサクヤに任せる……」
スパルナは既に考えるのすら面倒臭くなっているようであった。
甘い物を食べて好戦的な気分が落ち着いたという一面もあるかもしれない。
「わかりましたわ。ダーリンのところへお連れしましょう」
「必ず君たちを自由にしてやるからな! 必ずだ!」
「うざい……」
というような流れで、うざい堕天使から決闘を申し込まれるに到る咲哉であった。




