42-絶対的な強者
「それでしたら、俺は既に条件を満たしています」
「どういうことだ?」
「絶対的な強者を前にして戦意など存在しません。俺の戦意は既に喪失しているといえます」
茶鬼はインチュイションオブオーガ(鬼の勘)というスキルで咲哉を絶対的な強者と認識していたのだった。
インチュイションオブオーガは、鬼族全てが身に付けている強者を認識する常時発動型のスキルである。
このスキルによって鬼族は、完全なる縦社会が構築されていた。
鬼族にとっては強さが全てであり、次代の鬼王は鬼族の中で一番強い者がなると決まっていたのだ。
ただし、自分より強者と認識しても戦いを挑むこともある。
しかし、それはちょっとでも勝算がある場合に限り、勝算0パーセントの圧倒的な強者を前にして戦いを挑む鬼族は、無謀な愚か者しか存在しない。
よって、茶鬼には絶対的な強者である咲哉に逆らうという選択肢は存在しないのだった。
咲哉の演出により交渉がスムーズに進んだという一面もあるが、茶鬼が咲哉と会った時点でモンスターイートで取り込めることは、ほぼ決まっていたともいえたのだった。
「なるほど……。では、それが本当か確かめてやろう。モンスターイート!」
茶鬼の額に手を触れ、モンスターイートを発動する咲哉。
瀕死でないにも関わらず、茶鬼は咲哉の体に吸い込まれてしまった。
「本当だったようだな」
モンスターイートでモンスターを取り込むための条件は、瀕死であるか、戦意を喪失しているかのどちらかである。
茶鬼は完全に戦意を喪失していたということだ。
「セトよ。ご苦労だったな」
「うむ……。瀕死にする必要もなかったようじゃな」
「まあな。じゃあ、茶鬼を召喚するぞ。モンスターサモン! 茶鬼!」
咲哉の前に茶鬼が召喚される。
「茶鬼よ。今からお前は俺の部下だ。改めて自己紹介をしておく。俺の名前はサクヤ・カンバヤシだ」
「これからは親分と呼ばせてもらいます。よろしくお願いします」
「親分? 親分ね……まあ、いいか」
「我は黒龍王・セトじゃ」
咲哉に便乗して名前を名乗るセト。
「黒龍王ですか……。兄さんも只者じゃないとは思っていたが、まさか黒龍王だったとはねえ」
「我は咲哉の力で龍王に昇格したのじゃ」
「親分の力で? それはどういうことですかい?」
茶鬼は他者の力で龍王に昇格したなんていう話は聞いたことがなかった。
本来は鬼にしても龍にしても経験を積み、自身の力で昇格するものである。
それが咲哉が昇格させたというのだから、茶鬼にとっては不思議で仕方がない。
「そうだな。お前も名前を付けて、王に昇格させてやろう」
「はい?」
ネームオーダーのことを何も知らない茶鬼には理解不能である。
「そうだな……。お前の名前は今日から、¨刹鬼王・オグマ¨だ!」
刹鬼王・オグマと名付けられたことで、茶鬼の姿は徐々に変化をしていく。
茶色だった体は金色へと変わり、15センチくらいだった角は30センチにも伸びていた。
髪は白髪のままだったが、艶やかになり光沢が増しているようだ。
「おっ、親分これは!?」
「お前を刹鬼王へと昇格させたんだ」
刹鬼とは人や物を滅ぼす悪鬼という意味であり、その王へと昇格させたのだから、ある意味とんでもないこともいえる。
オグマはケルト神話に出てくる戦神の名前であり、言語、霊感の神とも呼ばれている。
神話では金髪の美しい顔、体はキラキラ光っていたとも語られていた。
「体に力が溢れてくる感覚が……刹鬼王・オグマ。謹んで拝命させていただきます」
「うむ。これからは刹鬼王の名に恥じぬよう、俺のために働け。あー、あと、そんなかしこまった話し方じゃなくてもいいぞ。セトと話すように気軽に話してくれ」
「……親分のご命令とあらば、気軽に接するよう努力いたします」
よほど咲哉に恐怖を感じているのか、急に気軽な態度には変えられないようだ。
「あと、この指輪をつけて人化しておけ。俺の仲間は全員人化しているからな」
そういって指輪を渡し、オグマに人化をさせる咲哉。
人化したオグマの姿は褐色の肌にドレッドヘアという何ともワイルドな男へと変化した。
しかし、ワイルドではあるが、服は着ておらずマッパである。
「よし。この赤いバンダナを頭に巻け」
いわれるままにバンダナを巻くオグマだが、バンダナより先に服を渡すべきではないだろうか。
「うむ。髭はないが、ジャック船長って感じでいいな」
そうこの姿は地球の映画パイレーツ・オブ・カリブーに登場するジャック船長その人だったのだ。
ただし、咲哉の好みで髭はなくしていたのだが。
「うーむ。ジャック船長だしな……特攻服はどうするかな」
ジャック船長に特攻服が似合うだろうかと思案する咲哉である。
独り言を呟き続ける咲哉にセトは馴れたものであるが、オグマは多少困惑している。
いきなり人の姿に変えられて、ぶつぶつ独り言を呟いているのだから、誰でも困惑するのは当然であろう。
怪しさ全開な咲哉である。
「よし。特殊な特攻服にするか」
そういって咲哉が作り出した特攻服は虎柄だった。
日本で鬼といえば虎のパンツと相場が決まっている。
咲哉も例に漏れず、それを連想して虎柄という特殊な特攻服にしたのであった。
「おお! 親分! これはかなりグッとくる模様ですな!」
予想以上に食い付きを見せるオグマだった。
やはり鬼は虎柄が好きなのであろうか。
「そうだろう。せっかくだからバンダナも虎柄にするか」
特攻服を着用し終わったオグマのバンダナも虎柄に変更する。
特攻服の背中には風神と雷神がプリントされていた。
日本では風神と雷神は鬼の姿で描かれているので、咲哉は何となくそのプリントにしたのだった。
かなり異様な格好だが、オグマと咲哉は大満足のようである。
「親分! ありがとうございます!」
「虎柄の特攻服も悪くないな。いい感じに似合っているぞ」
「サクヤよ。我の黒い特攻服も格好いいが、それもなかなかいいのう」
セトも気に入ってしまったようである。
どこかネジが一本抜けたような男たちは、こういうデザインに心をくすぶられるのかもしれない。
ちなみに私は豹柄のほうが好きである。
特攻服の作成も済み、一段落した咲哉はオグマのステータスを確認する。
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【ステータス】
名前:刹鬼王・オグマ
種族:鬼族
種別:刹鬼王
ランク:EX
属性:土・光
称号:悪鬼羅刹
LV:94
HP:78871/78871
MP:29482/29482
STR:15109
INT:9019
DEX:7594
AGI:7990
特性:耐土(極大)・耐光(極大)・耐即死(大)・耐ドレイン(大)
STR系スキル:バーサーク・ロックアーマー・オーガクロウ・クロスハンマー・カウンタークラッシュ・悪鬼羅刹掌・刹鬼王無限突き
INT系スキル:光属性魔法・インチュイションオブオーガ・土属性魔法・悪鬼の波動
DEX系スキル:テレスコーピング・ロックガン・ロックニードル・アースホール・アースウォール
AGI系スキル:クリティカルエルボー・羅刹の縮地
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「刹鬼王に昇格してオグマは相当強くなったようだな。スキルなしの勝負だったらセトを上回るかもしれないぞ」
「ほう。そんなに強くなったのか……。我と腕試しでもどうじゃ? オグマよ」
「兄さん、勘弁してくれよ。俺は戦いってやつは、あんまり好きじゃないんだよ」
「まあ、セト。仲間同士がそう軽々しく戦うなんていうもんじゃねえ」
「ふむ。そうか……。まあ、無理強いするのもなんじゃしな」
セトの戦闘意欲に火がついたちょうどそのとき、ヘカーテとスパルナが戻ってきた。
「ただいま戻りましたわ。ダーリン」
「帰還……」
「ヘカーテ、スパルナ、ご苦労だったな。後ろにいるのが……」
ヘカーテたちの後ろには、黄緑色の髪をした堕天使が眉間に皺を寄せながら立っていた。
グラデーションロングの髪型が清潔勘を感じさせ、体に巻いた白い布がローマ時代の格好を彷彿とさせる。
背中には灰色をした三対六枚の翼がはえており、翼の色が堕天使だと物語っていた。
「貴様がサクヤか! この二人を賭けて僕と決闘をしろ!」
「はい?」
意表を突かれ思わず間抜けな声を上げてしまう咲哉。
この二人を賭けてとは、ヘカーテとスパルナのことだろう。
瀕死にして連れてくる予定だったはずが、いったいどのような成りゆきで、こんなことになってしまったのだろうか。




