41-任侠映画のワンシーン
「旨い酒じゃのう。お前は鬼のくせに、悪いやつではなさそうじゃな」
「兄さん、酒好きに悪いやつはいねえよ」
酒好き悪いやつがいないとは、いったいどんな理屈だろうか。
もしそれが本当なら、酔って絡み揉め事を起こすやつなど、存在したりはしないだろう。
「ところで、その徳利はどれだけの量が入っているんじゃ? 既に空になっていてもおかしくない気がするんじゃが……」
「この徳利はな。何を隠そう、レジェンドアイテムなんだよ。一度入れた酒は無限に湧き続けるっていう優れものだ」
「なんじゃと! そいつは凄い徳利じゃのう!」
何とも酒好きに嬉しいレジェンドアイテムが存在したものである。
レジェンドアイテムというからには、そう簡単に入手できるものではないだろう。
この茶鬼はいったい何者なのだろうか。
「前はもう一つ持っていたんだがね、壊されちまってさ……。まあ、そいつの一族郎党全てを根絶やしにしてやったがね」
「それは不運じゃったのう……」
不運というなら、一族郎党全てを根絶やしにされたほうではないだろうか。
茶鬼がモンスタープリズンに閉じ込められた理由はこのことにある。
茶鬼の大切にしていた徳利を壊してしまった白鬼は、一族郎党全てを根絶やしにされたのだった。
一見穏和に見えたが、実はとんでもなく凶悪な鬼であった。
「レジェンドアイテムといえば、最近は神酒で酒盛りをしたのじゃが、あれは絶品じゃったぞ」
「はあ!? 神酒?」
「そうじゃ。神酒ソーマにハオマと、伝説の名に相応しい味じゃったわい。残念ながらネクタルは飲ませてもらえんかったがのう……」
「おいおいおい! 嘘はいけねえぜ兄さん! 神酒で酒盛りって……そんな神酒がこの島のどこにあるっていうんだよ!」
「なんじゃ? 神酒ならここにあるぞ」
そういってアイテムボックスから神酒ハオマを取り出すセト。
咲哉が念のためにとソーマ、ハオマ、アンブロシアとレジェンドアイテム各種を持たせていたのだった。
「なっ、この神々しい輝きは……本当に神酒なのかい!?」
「こっちがソーマじゃ」
ハオマに続きソーマまで出すセト。
「何処までも透明で吸い込まれてしまいそうだ……こんな透明な酒は見たことがない」
「しかしのう……残念ながら飲ませてやるわけにはいかんのじゃ」
「まっ、まあ……伝説級の貴重な酒だ。さすがに俺も飲ませて欲しいとはいえねえよ」
「うむ。よほどのことがない限り飲むなといわれておってな。約束を破ると二度と飲ませてもらえんのじゃ」
セトは咲哉からピンチのとき以外は神酒を飲んではいけないと約束させられていた。
約束を破れば二度と神酒を飲ませてもらえず、神酒で酒盛りする機会は永遠に失われるのだ。
「飲ませてもらえないって、それは兄さんの酒じゃないのかい?」
「我の酒ではあるが、友からもらったものでもある」
「神酒をくれるなんて、ずいぶんと大盤振る舞いな友達だねえ」
大盤振る舞いといえば確かにそうなのだが、実際は世界構築スキルでMPが続く限り何個も作り出せる。
レジェンドアイテムを増産できるなど、チート以外の何者でもない。
正しく表現するなら『ずいぶんチートな友達だねえ』である。
「サクヤは自慢の友じゃからのう。サクヤの許しが得られれば、神酒なぞ好きなだけ飲むことができるのじゃ」
「神酒が好きなだけ……? 兄さん、折り入ってお願いがあるんだが……」
「なんじゃ?」
「そのサクヤさんとやらに、会わせてやくれないかい?」
「うむ。当初と予定は違うが、最初からそのつもりではあったしの。まあ、大丈夫じゃろう」
「本当かい!?」
「けど、サクヤと会ったとしても、お主の予定通りに行くとは限らんぞ」
茶鬼の目論見を理解しつつ、サクヤに会わせることにしたセト。
瀕死の状態で連れて行かないことに多少の不安は残るが、悪い鬼でもなさそうだし大きな問題にはならないと考えたのだった。
「ではサクヤのところに転移するぞ」
◆ ◆ ◆
「サクヤよ。帰ったぞ」
医療施設に転移し、咲哉の姿を確認したセトは声をかける。
「セトか。二番乗りだな」
「二番乗りじゃと? 一番は誰じゃ?」
「俺がここにいる時点で、俺が一番じゃねえか」
そんなどうしようもなく当たり前な受け答えをする二人であった。
「そいつが茶鬼だな」
咲哉は手早く茶鬼のステータスを確認する。
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【ステータス】
名前:茶鬼
種族:鬼族
種別:異色鬼
ランク:EX
属性:土・光
称号:悪鬼羅刹
LV:94
HP:43817/43817
MP:16379/16379
STR:7952
INT:4747
DEX:4219
AGI:4439
特性:耐土(大)・耐光(大)・弱風(小)
STR系スキル:バーサーク・ロックアーマー・オーガクロウ・クロスハンマー・カウンタークラッシュ
INT系スキル:光属性魔法・インチュイションオブオーガ
DEX系スキル:テレスコーピング・ロックガン・ロックニードル・アースホール・アースウォール
AGI系スキル:クリティカルエルボー
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茶鬼は今まで見たどんなモンスターよりもステータス値が高かった。
ネームオーダーで黒龍王となったセトと比べても茶鬼のほうが勝っている。
とはいっても、戦いはステータス値の優劣で全てが決まるわけではない。
実際にセトと茶鬼が戦った場合は、龍王の威圧に耐性のない茶鬼はあっという間にやられてしまうことになるだろう。
戦いではステータス値、属性、特性、スキルなど他にも数多くの要素が絡むのだ。
しかし、セトにあっという間に負けるといっても、この茶鬼は決して弱いわけではなく、鬼族の中では群を抜いて強い部類に入る。
その理由は種別が異色鬼であるからだ。
鬼族の髪色は本来全てが金色なのだが、茶鬼の髪は白色をしている。
これは鬼族の中で、異色鬼と呼ばれ、普通の鬼と比べて段違いのステータス値を持つ特別な鬼であった。
鬼は肌の色によって属性が決まっており、青鬼は水、赤鬼は火、緑鬼は風、黄鬼は雷、茶鬼は土、黒鬼は闇、白鬼は光の属性となる。
異色鬼の髪色の違いによってさらに追加の属性を持ち、青髪は水、赤髪は火、緑髪は風、黄髪は雷、茶髪は土、黒髪は闇、白髪は光の属性となり、属性魔法まで身に付けているのだ。
鬼族は属性魔法を苦手としている種族であるが、異色鬼は髪色に対応した属性魔法を必ず使うことができる。
このことも特別な鬼と呼ばれる所以であった。
「セト、どうみても瀕死に見えないが、これはどういうことだ?」
目の前にいる茶鬼のHPがまるで減っていないことに気付いた咲哉は、セトに突っ込みを入れる。
「まあ、話すと長くなる事情があってな……」
大して長くもならない事情なのだが、面倒臭いことはさくっと省くセトであった。
「サクヤさん、突然の訪問で申し訳ない。そこの兄さんに無理を承知でお願いしまして……」
急に改まった言葉になる茶鬼。
普段は駄目鬼でも、神酒が飲めるかどうかとなると、それなりの態度になるらしい。
「兄さんって、セトのことか? まあ、いい。で、どういった用件だ?」
「兄さんから神酒の話を聞きまして……」
「サクヤよ。この茶鬼は我と同じく酒好きでな」
「なるほど……」
これだけのやり取りでセトと茶鬼の間に何があったかピンときた咲哉は一計を案じる。
「そうだな……これが神酒ソーマ、神酒ハオマ、神酒ネクタルだ。さらに神酒ではないがアムリタ、アンブロシア、黄金の林檎もあるぞ」
テーブルを作り出し、レジェンドアイテムを次々と並べていく咲哉。
「なっ……全てレジェンドアイテムじゃないですか。しかも、神酒が三本も……」
「ああ、済まない。三本じゃ足りなかったか……」
咲哉はテーブルに何本も神酒を並べ出す。
「いっ!?」
この異様な光景に茶鬼は声にならない声を上げた。
神酒がテーブルにところ狭しと並ぶ光景は酒好きはたまらないだろう。
「飲みたいんだろ? さすがに、無料でというわけにはいかんがな。まあ、座れ」
テーブルを挟んで、二つのソファーを作り出し、自分の対面に茶鬼を座らせる咲哉。
何だかとても偉そうであるが、完全に咲哉のペースである。
ある種の異常ともいえる雰囲気に、茶鬼は瞬く間に飲まれしまったのだ。
目の前で理解に追い付かないことが起こると、頭に隙ができ、思慮が鈍る。
これは一種の催眠状態に近いといえるだろう。
「俺の条件に首を縦にさえ振れば、今日は好きなだけこの神酒を飲ませてやろう」
「じょ、条件といいますと……?」
偉そうな咲哉の隣にセトがどかっと座り、その対面にかしこまった態度の茶鬼がいる。
まるで任侠映画のワンシーンを見ているようだ。
「なぁに、簡単な条件だ。今後、部下になって俺のために働く、たったそれだけのことだ。もちろん、働きよってはこれからも神酒が飲みまくれる機会もあるだろうよ」
(ゴクッ)
茶鬼の唾を飲み込む音が医療施設に鳴り響く。
「この条件が飲めないなら、二度と神酒を飲む機会は失われるだろう……」
そういってテーブルに並べた神酒を次々とアイテムボックスにしまいだす咲哉。
「ちょ、ちょと待ってくれサクヤさん!」
「なんだ? さっきの無言は拒否ではなく、承諾だったか?」
「承諾だ! 俺は咲哉さんの部下になる!」
「そうか……いい判断だな。手始めに神酒ソーマで乾杯でもするか。残りの神酒は新しい部下ができた祝いの席として、夜にでも振る舞ってやる。なぁに、約束は守るから安心しろ」
まるで咲哉がヤクザの親分にしか見えないのは気のせいだろうか。
「あっ、一ついい忘れていたことがある。俺の部下は全員モンスターイートというスキルで……」
モンスターイートの説明をする咲哉。
そして、部下になるにはモンスターイートで取り込むことが条件だと追加したのだ。
モンスターイートで取り込まれるメリットは不老不死であるが、デメリットもある。
それは完全に咲哉の支配下に入るということだ。
口約束で部下になったとしても約束を破ってしまえばそれでおしまいだが、モンスターイートで取り込まれたらそうもいかなくなる。
しかし、この説明を聞いた茶鬼は以外な言葉を口にするのだった。




