38-ブラックヒストリーノート
「ラーン。お前はどんな武器にするんだ?」
「俺はルシファーズアクスを作って欲しい」
「ルシファーズアクスだと?」
「そうだ!」
「お前がか?」
「そうだ! って、師匠、何か俺にだけ当たりが厳しくないか?」
何となく咲哉の中でラーンの立ち位置が決まりかけている今日この頃である。
「俺は師匠だからな。お前の扱いは厳しい!」
「そっ、そうか……。で、作ってくれるのか?」
「まあ、製作難易度はかなり高そうだが、やってみるか」
「サクヤよ。あれを再現することができるのか? うむ……まあ、サクヤなら可能なのかもしれんな」
ルシファーズアクスとは、咲哉の作ったバーチャル格闘ゲームでデモンが装備している斧である。
セトまで再現が難しいといっている斧だが、いったいどんな武器なのだろうか。
「サンキュー! 師匠! 俺もデモンみたく! ルシファーズアクスで、がんがん敵をなぎ倒すぜ!」
「そうか。期待しているぞ。ここで作るのはちょっと難しいから、待っていてくれ」
そういって咲哉は転移して姿を消したのだった。
◆ ◆ ◆
「ダーリンは何処にいったのかしら?」
「サクヤが急に姿を消すことなど、今に始まったことではないわい。まあ、すぐに戻ってくるじゃろう」
「それもそうですわね」
「師匠早く戻ってこないかなー! 俺のルシファーズアクスが待ち遠しいぜ!」
急に姿を消す男と、いつのまにか汚名を着せられていた咲哉であったが、二人の予想通りすぐに戻ってきた。
「待たせたな。これがルシファーズアクスだ」
「おお! ゲームのままだぜ! さすがは師匠だ!」
咲哉の手には巨大な両刃斧が握られている。
柄の長さは2メートルあり、斧の刃は両刃を合わせると1メートル60センチにもなる。
こんな巨大な斧を振り回せるのかとも思うが、STRが6000近くもあるラーンなら問題ないだろう。
「使い方はほとんどゲームと同じだが、必殺技の名前を言葉に出すと技が自動的に発動される。ただ、超必殺技だけは若干ゲームと仕様が違う」
「ん? 師匠、それはどういうことだ?」
「ゲームだと超必殺技はすぐに終わってしまうだろ? しかし、おれの作ったルシファーズアクスはMPが続く限りずうっと使い続けることができる」
「マジでか!? そいつはスゲー! ということは、MPは時間で消費されるってことか?」
「そうだ。詳しくは……」
咲哉の説明は続く。
しかし、ここで超必殺技の詳細は語らないでおこう。
お楽しみとは後に取っておくものなのだ。
ラーンがモンスタープリズンのモンスターと戦うときに詳細は明らかになるだろう。
「あとはスパルナだな。お前も武器を選んだのか?」
「セブンフォースランチャー……」
「えっ? ちょ、ちょっと待て! その名前を何処で知ったんだ……?」
「ん……? サクヤの部屋……」
「はあ? お前は俺の部屋に勝手に入ったのか!?」
「入るなとは……いわれていない……」
思えば咲哉はワイズに自分の部屋に入らせないようにとは、一言もいっていなかった。
人の部屋に許可なく入ってはいけないというのは、人にとっては常識だと思われるが、モンスターには通用しないことらしい。
咲哉の思わぬ盲点であった。
「そうか……。あのノートを見たんだな?」
「危険な、武器と防具が……たくさん書いてあった……」
「見たのか……」
「サクヤよ。そのノートとはいったい何なんじゃ?」
「萌え萌えソード……マイクロビキニアーマー……」
「ちょ! それ以上、いうな!」
「ん? なんで……?」
「なんでって! あ……あれは、この世に出すには強力すぎる危険な武器と防具をまとめた資料なんだ……」
「なっ、なんじゃと!?」
嘘八百である。
このノートはいわゆる咲哉の黒歴史ノートである。
格好よくいうならば、ブラックヒストリーノートとでも名付けようか。
咲哉がオンラインRPGにハマっていたときに、こんな武器と防具があったらいいなと中二病的に書き上げたのがブラックヒストリーノートである。
では何故、アスナルドにブラックヒストリーノートが存在しているかというと、咲哉が世界構築スキルで再現したからだ。
世界構築スキルを覚えた今ならノートに書いてある全ての武器と防具を作り出せると思い再現したのだった。
しかし、いざ中身を確認してみると予想以上に内容が痛かったのである。
誰にも見られたくないと思っていたノートをまさかスパルナが見られてしまうとは……恥ずかしくて穴があったら入りたい咲哉であった。
「セブンフォースランチャー欲しい……」
「あっ、あれはだな……」
「萌え萌えソードより……ドレスブレイカーより……セブンフォースランチャーが欲しい……」
いつになく饒舌なスパルナは、咲哉の気など露知らずがんがんに押す。
「だっ、だから、ちょっと待て!」
「トランスペアレント・スイムウェアも捨てがたいけど……セブンフォースランチャーで……」
「分かった! 分かった! 作ってやるから、もうしゃべるな!」
トランスペアレント・スイムウェアを直訳すると透明な水着である。
透明な水着を捨てがたいというスパルナもスパルナであるが、何をどう妄想してそんな防具を考えたんだと、声を大にしていいたい。
「サクヤよ。この世に出すには危険すぎる武器なんじゃろ? そんなもんを作っていいのか?」
「あ、ああ……。まあ、一つくらいならいいだろ」
「本当にいいのか?」
何気に食い下がるセトである。
「俺が責任を持つから大丈夫だ!」
ブラックヒストリーノートの責任をどうやって取るつもりなのだろうか。
「よし! 作るぞ!」
そういうと次の瞬間、咲哉の手に巨大な白いグレネードランチャーが握られていた。
全長が1メートル80センチもあり、グレネードランチャーと呼ぶにはあまりに巨大すぎる大きさだ。
リボルバー式なのか直径30センチと大きめのシリンダーがついており、弾を12発装填できるようになっていた。
「なっ、なんじゃその武器は!? 見たこともないような形じゃのう!」
「ん? アスナルドにはグレネードランチャーはないのか?」
「グレネードランチ……? なんじゃそれは?」
異世界にグレネードランチャーが存在すると思っている咲哉のほうがどうかしている。
「そうか。大砲くらいはあるだろ?」
「大砲なぞ漫画でしか見たことがないわい」
アスナルドには大砲も存在しなかった。
遠距離射撃の武器は弓、弩、投擲などが主であり、どの武器もスキルに依存している。
スキルが主体な世界であるがゆえに武器そのものの発展が遅れているのだ。
「大砲もないのか? まあ、いい。この武器は水、火、風、雷、土、闇、光の各魔法弾と四つ特殊弾を発射することができる」
「ほう……それはまたとんでもない武器じゃのう。この世に出すには危険な武器というのも納得じゃわい」
「そんな武器、聞いたことがありませんわ。さすがダーリンですわね」
「超絶スゲー!」
咲哉はここでちょっとした嘘の説明をしている。
実際は水、火、風、雷、土、闇、光の七属性魔法弾が特殊弾なのである。
咲哉がいった四つの特殊弾は、地球では一般的に使われているグレネード弾、誘導弾、貫通弾、炸裂弾のことだった。
しかし、異世界のアスナルドでこの弾のことを説明するは非常に難しかったので特殊弾と説明したのであった。
咲哉の説明を聞く限りセブンフォースランチャーに恥ずかしい要素はなさそうな気がする。
確かに中二病的な発想の武器には感じるが、まだまだましな部類なのではないだろうか。
何をそんなに嫌がっていたのであろう。
「ふふふ……セブンフォースランチャーをゲット……」
咲哉から受け取ったセブンフォースランチャーをスパルナは何やらいじりだす。
トリガーの上部にはボタンが三つあり、左のボタンは二つ上下に並んでいる。
スパルナが右のボタンを押すごとにリボルバーが動いているようだ。
弾が発射される気配はないが、いったい何をやっているのだろうか。
続いてスパルナは左にある上下ボタンの上を何度も押し始めた。
スパルナがボタンを押すごとに――
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト、ナイン、マックスパワー!」
とアナウンスが流れる。
「もう使い方は分かっているようだな」
「試し射ち……」
「え? おっ、おい!」
咲哉が気付いたときには既に遅く、スパルナはセブンフォースランチャーのトリガーを引いていたのだった。
砲口から白金色に輝くスケスケシースルードレスをまとった女が姿を表し――
「太陽に代わってお仕置きよー!」
と叫びながら、草原の向こうにある山へと突貫していく。
数秒後……山は跡形もなく吹き飛んでしまったのであった。
「ふふふ……」
「ふふふじゃねえ! 何をやってるんだテメエは!」
「ん……? 試し射ち……」
「試し射ちで山を吹き飛ばすんじゃねえ!」
「試しておかないと……いざというときに困る……」
確かにその通りともいえるので、咲哉は言葉に詰まってしまう。
「だっ、ダーリン……? 山が……」
「跡形もなく吹き飛んでしまったのう……。スキルではなく、武器だけでこの威力とは……神話級に匹敵する武器か?」
「お山なくなっちゃったねー」
「おっ、俺の! ルシファーズアクスの超必殺技だって負けはしねえぜー!」
確かにルシファーズアクスの超必殺技も高威力ではあるが、さすがに山を跡形もなく消滅させることはできない。
せいぜい、山の一部を吹き飛ばすくらいである。
セトのいうようにアスナルドの神話には、剣を一振りしただけで山を消滅させ、海を割ったなどという話もあるが、所詮は神話である。
事実四割、着色六割というところだろう。
スパルナの暴走でとんでもない事態になってしまったが、咲哉として救いだったのは、誰もスケスケシースルードレスで現れた女の話題に触れなかったことである。
スケスケシースルーのドレス姿もどうかと思うが、『太陽に代わってお仕置きよー!』とか……痛すぎる。
ちなみにあれは光属性の特殊弾である。
設定は光の精霊ということになっているが、本当に精霊が顕現したわけではなくエフェクトでしかない。
「まあ、過ぎたことは仕方がない。吹っ飛んだ山を復元してくるから、ちょっと待ってろ」
そういって転移をし、世界構築スキルで山を復元する咲哉の姿には、哀愁が漂っていたのだった。




