36-咲哉の計画
「え!? また俺が食べていいのか? 伝説に出てくるような果物なんだろ?」
七色に輝くアンブロシアを受け取り、まじまじと見つめるラーン。
「いいから、ばくっと遠慮なく食ってみろ」
「わかった……」
意を決したラーンはアンブロシアを丸かじりした。
「あっ……。口の中で一瞬にして溶けていく……あっ。やべー! 旨すぎて涙が……!」
「全部食べたな?」
そういうと咲哉は、神龍刀・咲哉を引き抜きラーンの首を一刀両断した。
「わっ! 師匠にまた切られた! って……」
「やはり、大丈夫そうだな」
続いて咲哉は刀を鞘に収め、ラーンを殴り付ける。
「わー! 師匠ー! えっ? あれ!?」
「なるほど。そういうことか」
咲哉の放った攻撃は全てラーンの体をすり抜けたのだ。
「ラーン。俺の手を振ってみろ」
「え? う、うん……」
「握れているみたいだな」
アンブロシアの攻撃無効化とは、攻撃が全てすり抜けるというものだった。
咲哉の手を振れるということは実体はきちんとあり、攻撃のみがすり抜けてしまう仕様ということになる。
「さすがは伝説に登場するだけあって、とんでもないアイテムだな。よし、次のテストだ」
テストと聞いて、後ずさるラーンが少し可哀想である。
咲哉の手にいつのまにか不気味な杖が握られていた。
材質は木に見えるが真っ黒であり、杖の頭部に骸骨が装飾されている。
「なんじゃ、その杖は? 何とも不気味な杖じゃのう……」
この杖はもちろん咲哉が世界構築スキルを使って即興で作ったものである。
「この杖はな……蛇に睨まれた蛙の如く相手を恐怖に陥れ、身動きを封じる杖だ。こんな感じにな」
咲哉が杖をラーンに向けると骸骨の目が怪しく光った。
ラーンの顔から一瞬で血の気がひき、微動だにしなくなる。
咲哉がラーンの肩を揺らしても、硬直したまま動く気配はなかったが、杖で頭を小突くと途端に我に返ったのだった。
この杖は頭を叩くことで効果を解除することができるのである。
「はあ、はあ……。やばい! スゲー怖かった……」
「ラーン。大丈夫か? これでも飲んで落ち着け」
「あ、ありがとう……。師匠……」
咲哉が飲ませたのは、あらゆる状態異常を無効化する神酒ソーマである。
「あ……うっ、旨すぎる! なんだこれー!」
再び杖を使い恐慌の効果を発動させる咲哉だったが、ラーンに変化はない。
「実験は成功だな。よし、お前ら! 今日は大盤振る舞いだ! アムリタ、ソーマ、ハオマ、アンブロシアと! 好きなだけ飲み食いしていいぞ!」
「サクヤよ。そんな貴重なものをいいのか? 我は遠慮をしないぞ!」
本当の意味でのありがたみを分かっていないセトであるが、とりあえず遠慮はしないと宣言する。
「だ、ダーリン……? さすがにそれは大盤振る舞いしすぎじゃないかしら……?」
この中で一番価値が分かっているであろうヘカーテは、嬉しさよりも、伝説級のアイテムを大盤振る舞いするという咲哉の行動に焦りを感じていた。
「わーい! おおばんぶるまいー!」
セクメトはよく分かっていないが、咲哉のしてくれることなら全て喜ぶだろう。
「あの! あの! あの! あの旨くて美味しいものが、また飲めるのか! 食えるのか! スゲー!」
ラーンは嬉しさのあまり咲哉の実験台にされたことなど、過去のことになってしまったようだ。
「ふふふ……。ふふふ……」
スパルナについては語らないでおこう。
「お前らー! 新しい仲間が増えたお祝いだー! 飲んで食いまくれー!」
アムリタ、ソーマ、ハオマ、アンブロシアとテーブルに山盛り用意した咲哉は、MP全回復ポーションをさくっと飲み干していた。
伝説級のアイテムだけあって、相当MPを消費したらしい。
この調子で朝まで宴会が続くのだが、乱れまくった様子をお伝えするのは忍びないので、描写は控えさせていただく。
ちなみに、大盤振る舞いにネクタルと黄金の林檎を出さなかったのは、効果を考えると宴会を妨げる恐れがあったので咲哉が自重したのだった。
◆ ◆ ◆
宴会が終わり、城に戻ってきた咲哉は昼まで仮眠を取り、今は一人で部屋にこもっている。
一人部屋にこもって何をしているかというと、決して怪しいことをしているわけではない。
明日からの計画を考えていたのだ。
ヘカーテ、ラーン、スパルナは、城に入るのが初めてということでワイズに案内を任せ、そのあとは自由に行動をさせている。
セトとセクメトはいつものように自由を満喫しており、今頃漫画を読んでいるか、ゲームでもしていることだろう。
「まずは全員分のアイテムボックスを作って、あっ、そういえば、ラーンとスパルナの特攻服を作らないとな」
頼まれてもいないのに特攻服を作ろうとしている咲哉。
既に仲間たちの格好は特攻服に統一することを決定したようである。
「武器は各々に聞くとして、必要なアイテムはと……」
こんな感じで夕方まで、一人作業を続ける咲哉であった。
◆ ◆ ◆
「お前ら! 一時間後に全員リビングに集合だ! ワイズ、このアナウンスを聞いていないやつはお前がリビングに連れてこい。以上だ」
いつのまにやら作っていた場内アナウンスで全員集合の旨を伝える咲哉。
これから何が始まるのだろうか。
「よし。全員揃ったな」
誰一人ワイズに連れてこられることなく自主的に集合したようだ。
スパルナが遅れてこないかと心配していた咲哉だったが杞憂であった。
ワイズから城の説明を一通り聞いたスパルナは、リビングでひたすら食べ続けていたらしい。
集合場所がリビングだったから、問題なかったというわけだ。
食べるのが一段落したのか、今は真面目に話を聞く素振りを見せているので、食い意地鳥にしては偉いといえよう。
「サクヤよ。皆を集めてどうしたというのじゃ? ゲーム大会でもするのか?」
「ゲーム大会か……それも面白そうだな、って違う! 全員に集合してもらったのは、明日から俺の計画を手伝ってもらうためだ」
「計画ですか? ダーリンのためなら何でも手伝いますけど、いったい何かしら?」
「セクメトも手伝うー!」
「俺も手伝うぜ! 師匠!」
この三人は問題なしで、セトも頼めば手伝ってくれるだろうと予測していた咲哉。
問題はスパルナだ。
「我も友である咲哉の頼みなら協力は惜しまんぞ」
「そうか。さすがは俺の友であり、妹であり、部下であり、仲間だな。頼りにしている」
「友はセクメトさん、部下はラーンさん、妹はセクメトちゃん、仲間はスパルナさんよね……? 妻である私が抜けていますが? どういうことかしら? ダーリン」
「おい! いつから妻に……って、知ってていっているだろ!? はあ……」
「皆の前だからって照れなくてもいいのよ、ダーリン。うふふ」
「まあ、細かいことはいい……。手伝って欲しいこととは、モンスタープリズンの制圧だ」
「制圧じゃと! ガッハハハ! いい響きじゃのう!」
この手の話に脳筋セトは必ず乗ってくる。
咲哉はモンスタープリズン制圧の詳細を話し出す。
「モンスタープリズンにいるモンスターは残り五体だ。俺とセト、セクメト、ラーンは単独で、ヘカーテとスパルナはツーマンセルで各個撃破に当たってもらう」
予めワイズからモンスタープリズンに残っているモンスターの詳細を聞いていた咲哉は、相性なども考え各個撃破のプランを考えた。
そして、各々に分かりやすく詳細を説明したのであった。
「詳細は以上だが、スパルナも問題ないな?」
「問題ない……食べた分はきちんと働く……」
食い意地鳥のスパルナは、予想以上に従順な鳥であった。
スパルナの了解も得られ安心した咲哉は特攻服を渡すことにする。
「よし。問題はなさそうだな。ラーンとスパルナには特攻服を渡しておく」
特攻服など一式の装備をアイテムボックスから取り出し、ラーンとスパルナに渡す咲哉。
「いま来ているワンピースより、とても気持ちのいい着心地だから安心しろ」
「おお! これで俺も本当の意味で師匠たちの仲間になるってことだな!」
ラーンの特攻服は青色で背中にリオプレウロドンの刺繍がしてある。
「着方が分からない……着せて……」
スパルナの特攻服は光沢のない金色で、背中にフェニックスの刺繍がされていた。
特攻服を受け取った二人は立ち上がり、その場でスパッとワンピースを脱ぎ捨てる。
お約束は裏切らない。
アイドルの容姿をした二人が生まれたままの姿で仁王立ち……。
男なら誰でも目が釘付けになりそうなスッポンポン姿であるが、免疫のない咲哉には刺激が強すぎたらしい。
真っ赤になってテーブルに顔をふせてしまったのだ。
「ヘカーテ、スパルナに着せてやれ……」
「うふふ。ダーリンは本当に照れ屋さんなのね」
着替えが終わるまで顔を上げることのできない咲哉であった。
「ふう……。最後に、セトとセクメトは武器を持っているが、お前らはないだろう。何か必要なら作ってやるから、明日までに考えておくように。以上だ」
明日の朝八時に再集合をして、最終の打ち合わせが行われる。
そして、いよいよモンスタープリズンの制圧が始まる。




