33-格の違い
咲哉が転移したのは医療施設ではなく、闘技場の試合スペースだった。
ギガロドンの性格を考えると何となく一悶着がありそうと感じたからだ。
「モンスターサモン! ギガロドン!」
咲哉に召喚されたギカロドンは、きょとんとしている。
「あれ? 俺は何を!? セクメトさんと戦っていて、意識がなくなって……」
「お前はセクメトと戦って、あっという間に負けたんだよ」
「あはは……さすがは龍だ。強すぎだな。けど! やっぱり水中と違って速く動けないんだよな! 水中だと、もっと、ヒューと、ガーッと!」
水中のように速く動けないと聞いて何かにピンときた咲哉は、ギガロドンのスキルを確認する。
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【ウォーターアドレナリン】
スキルランク:エクストラレア
水の中にいるときのみ効果を発揮する常時発動型スキル。
全てのステータス値が二倍に増加される。
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「なるほど……。そういうことか」
ちょっと思案した咲哉はギガロドンの首輪に新たな機能を追加することにした。
「これでよしと。ギガロドン、¨ウォーターアドレナリン¨といってみろ」
「え? ウォーターアドレナリン?」
キーワードを発したギガロドンの体表が水の膜でおおわれる。
水の球に全身を包ませることも考えた咲哉であったが、何となく見た目が悪そうなので水の膜にしたのだ。
これで水中にいるときと同じ条件を再現することができれば、ステータス値が二倍に増加しているはずである。
「その状態で空を泳いでみろ」
「え? おお! 速く動けるー! まるで水の中にいるようだ!」
「そうか、それは良かったな」
ギガロドンの喜びをよそに淡々と答える咲哉。
良好な人間関係を築くためには一緒に喜びを分かち合わなければいけない。
相手が喜んでいるときに、々と受け答えをするのはNGである。
まあ、相手は人間ではなくモンスターなので、そんなことは関係なかったりするのかもしれないが。
「それより、約束は覚えているか?」
「約束? なんだそりゃ?」
「やっぱりな……。お前はセクメトに負けたから、俺の部下になるって約束だ」
「ああー。そんなこといってたな。けど、嫌だぞ!」
「あん? お前は約束を破るのか!?」
ギガロドンに約束を破られ、咲哉はあからさまに不機嫌となる。
自分が約束を破るのは平気だが、約束を破られるのは大嫌いだったのだ。
実に咲哉らしいともいえるが、自分が約束を破るのが平気なら、相手に破られても怒ってはいけないと思う……そう感じるのは私だけではないだろう。
本当にどうしようもなく最悪な性格である。
ギガロドンは不機嫌な咲哉をさらに煽る。
「だってよー! 俺、自分より弱いやつの部下になるのは嫌だもん! お前が龍だったら話は別だけどさ」
「俺は龍じゃなく人間だ。けど、お前より強ければ問題ないってことだな?」
「あはは! お前は何か変な技を使ったりしてスゲーやつだとは思うけど、人間なんだから俺より強いわけないじゃん」
既にイライラマックスの咲哉は、話をそこそこにギガロドンをぶちのめすことにしたようだ。
「ご託はいいから、かかってこい。人間なんて楽勝なんだろ?」
VIPルームでのんびりしていたセトたちも、この状況に気が付いたようだ。
「あれは咲哉とギカロドンではないか。あんなところで何をやっとるんじゃ?」
「試合スペースにいるのですから、ダーリンはギガロドンと戦うつもりではないかしら?」
「よわよわさめー」
「ほう……。咲哉が本気で戦うとしたら興味深いのう」
バーチャル世界でしか咲哉の戦いを見たことがなかったセトは、初めての実戦が見られるかもしれないと興味津々のようだ。
「ダーリンなら余裕で勝ってしまいますから、面白い試合にはならないと思いますわよ」
ヘカーテは咲哉の化物じみたステータスを知っているので完全に勝ちを確信している。
「お兄ちゃんなら、らくしょー」
セクメトは何も考えていないが、咲哉への信頼は厚い。
「美味しい……」
スパルナは咲哉とギガロドンの戦いになど興味はなく、ひたすら食べ続けている。
「ほら、丸焼き鮫! 早くかかってこいよ!」
手招きをして、さらに徴発をする咲哉。
「丸焼きじゃねえ! 後悔しても知らねえからなー!」
そういうとギガロドンはメガクラッシュのスキルを発動し、速攻で強烈な体当りを仕掛けた。
手加減する気などは一切なく、最初から本気全開のようだ。
「なんだ? これは攻撃なのか?」
メガクラッシュを左手一本で難なく受け止める咲哉。
「ばっ、馬鹿な! 俺の渾身の一撃を片手で……!」
「これが渾身の一撃だと? 笑わせるな! テメエは俺に喧嘩を売ったんだ! もっと楽しませろよ? オラッ!」
咲哉はヤンキー特有の脅しを入れて、右拳でギガロドンの顔を殴り付ける。
勢いよく吹っ飛ばされたギガロドンは闘技場の壁に激突した。
この闘技場は日本と同じ表現をするならば、東京ドーム五、六個分くらいの広さがある。
殴られただけで単純計算480メートル以上も吹き飛ばされたことになるのだ。
壁に激突したギカロドンの前にすかさず転移をする咲哉。
そして、顔をつかみ取り、そのまま片手で軽々と持ち上げた。
「これで終わりってわけじゃねえよな? 人間相手じゃ楽勝なんだろ? さっさと起きて、その力を見せてみろよ?」
そういうとそのままギカロドンを地面に叩き付ける。
「ちくしょー! 何なんだよ! お前は! まるで化物じゃねえか!!」
「あん? 化物だと? 俺はひ弱な人間だよ!」
瞬時に距離を詰めた咲哉に再び顔面を殴り飛ばされ、ギカロドンは反対側の壁まで吹き飛んでいった。
壁から反対の壁までは、単純計算で970メートルもある。
もはや人間が殴り飛ばせる距離を遥かに超越していた。
再び転移をしてギガロドンの前に現れる咲哉。
「ああ、何かよー。こうも一方的だとクソつまらんな。おい! 丸焼き鮫! 俺は何もしないから好きなだけ攻撃を当ててみろ」
「うっ、う……。くそー! 馬鹿にしやがってー!」
上空に飛び上がったギガロドンは咲哉に向かって急降下をし、ギガインパクトのスキルを発動した。
強烈な体当たりであるギガインパクトを食らった咲哉だったが、無防備で受けたにも関わらず、吹き飛ぶどころか地面から一歩も動いてすらいない。
「はあ……。お前の実力はそんなもんか。もう、飽きたわ」
「あっ、あ……。化物ー! もう、嫌だー!」
上空に急上昇をして逃げ出すギガロドン。
「逃げんじゃねえよ!」
咲哉はギガロドンの頭上に転移をし、鞘から神龍刀・咲哉を引き抜く。
「テメエと俺じゃ……! 格が違うんだよ!」
そういって咲哉はギガロドンを頭から真っ二つにしたのだった。
「あれがサクヤの本気か……。もはや、人間を超越しておるのう……」
さすがのセトも唖然としてしまう強さだったらしい。
「さすがはダーリン。格の違いを見せつけましたわね」
咲哉が圧勝することを確信していたヘカーテは当たり前のように称賛を送る。
「お兄ちゃん、いいなー! 剣でとどめさしたー」
セクメトはギガロドンとの戦いで大刀・龍鱗を使えなかったことを未だに気にしているらしい。
「ここの待遇……最高……」
戦いには一切の興味を見せず、ひたすら食べ続けているスパルナだった。
真っ二つにされたギガロドンは光の粒子となって消えていく。
今までの戦いでは爆発ばかりが続いたので見えなかったが、瀕死になると光のエフェクトが発生するようになっているのだ。
すぐに医療施設へ転移しては面白くないと咲哉の考えた仕様である。
蓋を開けてみると、圧倒的な力の差を見せつけ勝利した咲哉だったが、これにはトリックがあった。
当たり前といえば当たり前だが、世界構築スキルを頻繁に使用しての結果である。
どのように世界構築スキルを使ったかというと、まず、咲哉は自身の体に添うように衝撃吸収結界を張った。
衝撃吸収結界は、あらゆる物理攻撃全ての衝撃を吸収する結界である。
メガクラッシュとギガインパクトのスキルも結界により衝撃が吸収されていたので、容易く片手で受け止められ、無防備で攻撃を食らっときも、びくともしなかったというわけだ。
そして、ギガロドンを壁まで殴り飛ばしたり、片手で持ち上げたりしたのも、STR任せではなく、世界構築スキルを使って物理的に動かしたにすぎない。
世界構築スキルを使えば、『壁まで吹っ飛べ』、『持ち上がれ』と念じるだけで、そんなことは容易く可能なのだ。
ギガロドンが恐怖で逃げ出したのも、世界構築スキルで恐怖を植え付けたにすぎない。
世界構築スキルをこれでもかってくらい多用していた咲哉であるが、最後の止めだけは自身の力で行っている。
神龍刀・咲哉には何でも真っ二つに切り裂ける万物切断の効果があるので、正しくは自身の力というより刀の力だったりするのだが。
実際はギガロドンとスパルナをモンスターイートで取り込んだ今の咲哉なら、世界構築スキルを多用しなくても自力で勝つことが容易だったという事実もある。
しかし、力が絶対と思っているギガロドンには、圧倒的な差を見せつけて服従させる必要があったのだ。
これは咲哉がヤンキー時代につちかった経験則である。
人間である咲哉に手も足も出ず、ぼろ雑巾のように敗北したギガロドン。
次に咲哉の顔を見たとき、どのような反応をするのか非常に見ものである。




