32-丸焼き
「ほんとボロボロだな。まるで巨大な焼鳥だ……。食ったら美味かったりしてな」
咲哉の前に爆発で丸焼きになったロック鳥が横たわっている。
瀕死になり医療施設へ転移されたのだが、ここは名ばかりの医療施設であり、HPが回復されるわけではない。
見た感じは特に何もない巨大な部屋といえるだろう。
しかし、HPの回復がされないといっても、減ることもなく、最低限死なないように瀕死の状態が保たれる仕様となっている。
咲哉がモンスターイートで取り込むためだけに作られたのが、この名ばかりの医療施設である。
「モンスターイート!」
ロック鳥をモンスターイートで取り込む咲哉。
目的を無事に果たしVIPルームへと転移して戻るのだった。
「戻ったぞ。次はセクメトとギカロドンの対決だな。セトもお疲れだったな」
「なんじゃと? 我は疲れてなんかおらんぞ」
「いや、そういう意味じゃなくてだな……」
日本ではよくいう¨お疲れ様¨などの言葉は、セトには通じないらしい。
「それより、我の戦い振りはどうであった?」
「ああ。見事だったな。ジークを彷彿とさせるようだったぞ」
「そうであろう。サクヤの作った爆殺滅龍剣の完成度も素晴らしかったしのう」
バーチャル格闘ゲームのキャラクターであるジークが持つ爆殺滅龍剣。
この剣を完全に再現することで、かなりチートな魔剣となってしまった。
必殺技名を言葉として発するだけで体が勝手に動き、技が自動発動する魔剣など、アスナルド広しといえど何処にも存在しない。
咲哉的には攻撃力に不満を覚えたので、あとでこっそり強化しておこうと思ったのはここだけの話である。
「まあ、その話はこれくらいにして、セクメト、ギカロドン。試合の準備はオーケーだな?」
「おーけー! ちまつりー!」
「お、俺! 胸を借りるつもりで頑張ります!」
「んー? お姉ちゃんと違って、セクメトは、むねちいさいよー」
自分の胸を触りながら、ヘカーテの胸を揉みしだくセクメト。
「あっ、ああん! もう、セクメトちゃん……」
「ったく、お前らさっさと試合を始めるぞ!」
目のやり場に困った咲哉は有無をいわさず、二人を試合スペースへと転移させたのだった。
「ギガロドン! ¨鮫化¨というと鮫の姿に戻るからな!」
マイクを使ってギガロドンに話しかける咲哉。
それを聞いてギガロドンは早速モンスターの姿に戻る。
「あっ、あの! セクメトさんは龍の姿には!?」
「んー? セクメトは忍者だから、りんきおうへんだよー」
「にんじゃ? りんきおうへん? よく分からないけど、分かりました!」
ギガロドンは水中から出たことがないので忍者の存在を知らず、セクメト語の理解も難しかったようだ。
「よし、お前ら準備はいいな! 試合始め!」
いきなりセクメトに食いかかりパワーファングのスキル発動するギガロドン。
セクメトは側転してそれを交わし印を結ぶ仕草をしてファイアーブレスを吐き出す。
「火遁・猛火球の術ぅ!」
空を泳ぎ危なげなく回避するギガロドン。
「あの鮫、かなり速いですわね。セクメトちゃんは大丈夫かしら?」
「確かにな。セクメトの火力が高くても当たらなくては意味がない。まあ、心配する気持ちは分かるが、大丈夫だ」
咲哉の自信は何処からくるのか。
その理由はすぐに判明することとなる。
連続でファイアーブレスを吐き出すセクメトだが、ギガロドンの素早い動きに全て交わされてしまう。
「はやくてあたらないー!」
「うおー! やべー! セクメトさんに誉められちまったぜー!」
セクメトは褒めたつもりはないのだが、すっかり大はしゃぎのギカロドン。
「あたらないなら、あたるようにするのー!」
素早い動きで空中を泳ぎ回っていたギカロドンの動きが急に止まり、そのまま地面に墜落していく。
「これでおーけー!」
「まあ! セクメトちゃんは何をしたのかしら……!?」
「龍王の威圧だな。耐性のないやつがこのスキルを食らうと、必ず気を失う」
「まあ、凄いスキルですわね」
気絶したギガロドンに近寄っていくセクメト。
「さめのまるやきー!」
そういうと印を結ぶ素振りをし、ファイアーボール、ファイアーブレス、エクスプローションと三連続でスキルを発動した。
「火遁! 猛火球ぅ! 滅却ぅ! 滅失ぅ!」
既に何だか分からない火遁であるが、凄まじい火炎の嵐がギガロドンを襲い大爆発を起こす。
INTの少ないギガロドンがまともに直撃を受けてしまったのだから、おそらく、ひとたまりもないだろう。
「んー? もう終わりー? だいとうりゅうりん使えなかったー」
大爆発が収まった後にギガロドンの姿はなかった。
大刀・龍鱗を使えなかったセクメトは若干ご機嫌斜めである。
「あらあら、もう終わってしまいましたの?」
「相性が悪かったせいもあるだろうが、圧倒的に実力が違ったな」
予想以上に弱かったギガロドンだが、一般的なモンスターのステータスを比べると決して弱いほうではなく、どちらかというと強い部類に入る。
しかし、モンスタープリズンに閉じ込められるほど脅威の実力とは感じられないのも事実である。
セクメトをVIPルームに転移させて労いの言葉をかける咲哉。
「セクメト、お疲れだったな」
「んー? つかれるほどやってないよー。よわよわだったー」
やはり日本では主流の労い言葉はセクメトにも通じないらしい。
「俺はギガロドンのところに行ってくるから、ちょっと待っててくれ」
そういうと咲哉はあっという間に医療施設へと転移した。
「確かに鮫の丸焼きができあがっているな。けど、鮫って食えなかったよな?」
こんがり焼けているものを食べたくなるのは、おそらく咲哉だけではないだろう。
丸焼きというのは何となく美味しそうに見えるものである。
「モンスターイート!」
丸焼きになって横たわっているギガロドンをモンスターイートで取り込む咲哉。
どこで召喚しようか迷ったが、ロック鳥から先にここでモンスターサモンを行うことにしたようだ。
「モンスターサモン! ロック鳥!」
巨大な鳥が姿を現し、第一声にしゃべった言葉はやはり――
「お腹空いた……」
だった。
予想通りの展開に戸惑うことなく咲哉は話しかける。
「もうすぐ、たらふく食わせてやるから安心しろ」
「ほんとに……?」
「ああ。本当だ。ただし、約束を忘れていないだろうな?」
「約束……?」
「セトに負けたお前は今日から俺の部下だ。これで問題なければ、毎日たらふく食わせてやる」
「毎日、お腹いっぱい食べさせてくれるなら、一生着いていく……。着いてくるなといっても着いていく……。これ、もはや、あなたが避けられない決定事項……」
「あー、大丈夫だ。飽きるくらい食わせてやる」
「うふふ……」
食べ物が絡むと途端に饒舌になるロック鳥だった。
この手のタイプは食べ物さえ与えてやれば不満は出ないので、非常に操りやすいといえるだろう。
「よし。俺の部下になることが決まったお前に、新たな名を与えてやろう。そうだなー」
「名前……? 美味しいの……?」
「ああ……まあ、それはどうだか知らんが、よし。お前の名前は今日から¨霊鳥王・スパルナ¨だ!」
ロック鳥の体が金色に輝き出す。
「すっ、凄い光だな……」
発光が収まった後には、全身が金色に染まった美しい姿へと変わっていた。
大きさに変化はなかったが、その神々しい姿は食い意地の張った鳥にはとても見えない。
「ずいぶん様変わりしたな……」
「たらふく食べるのは、まだ……?」
姿が変わっても中身は食い意地の張った鳥そのままだった。
スパルナという名前は、神話に登場する鳥の王のことである。
美しい翼を持つものという意味があり、インド神話に登場する神鳥ガルーダの淵源ともいわれている。
「たらふく食うのは人化してからだ」
「人化……」
ギガロドンが人化したときのやり取りを覚えていたのか、キーワードを発してすぐに人化するスパルナ。
食い意地こそ張っているが決して頭が悪いわけではないらしい。
「お前も雌だったのか……」
雄雌どちらか予想できなかった咲哉だが、これ以上に女が増えても困ると思い、雄であって欲しいと願っていたのだ。
スパルナが人化した姿も咲哉が設定したものだ。
ギガロドンと同じくSPL48のメンバーから選び、ジュリナというポニーテールがよく似合うアイドルだった。
スパルナの髪型は金髪のポニーテール。
ポニーテールとショートカットは咲哉が好きな髪型である。
スパルナはポニーテールでギガロドンがショートカットというのは咲哉の好みを反映していたのだった。
「このひらひらしたの邪魔……」
またしても同じ過ちを繰り返す咲哉。
スパルナはあっという間にワンピースを脱ぎ捨さり、スッポンポンになってしまったのだ。
ギガロドンのときと同じ対処をして、咲哉がこの危機を乗り切ったというのは説明するまでもないことである。
「待たせたな。これから、たらふく食わせてやる」
そういうと咲哉はVIPルームへ転移して、セトたちにスパルナを紹介する。
「こいつか食い意地鳥……じゃなくて、ロック鳥改め霊鳥王・スパルナだ」
「10食昼寝つきの待遇で、お世話になる……。よろしく……」
スパルナの言葉に呆れて沈黙してしまう一同。
「ああ、まあ……。そんな感じた。ヘカーテ、テーブルの使い方を教えて、スパルナにたらふく食わせてやってくれ」
「分かりましたわ。ダーリンはどうなさいますの?」
「ああ。まだギガロドンの件があるからな。ちょっくら片付けてくる」
そういうと咲哉は転移を行い一瞬で姿を消したのだった。
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というわけで、明日の更新は20時です☆




