31-試し切り
「ガッハハハ! ロック鳥よ。寛大な我は貴様にハンデをくれてやろう! 我は龍化せず人の姿で戦ってやるわ!」
「セト選手は凄い自信ですねー。ロック鳥選手、セト選手の言葉を受けてどう答えるか?」
咲哉のなりきり実況は続く。
「ご託はいい……。お腹が空いたから……すぐに終わらせる」
「上等ではないか! その減らず口をすぐにふさいでくれるわい!」
「お互い気合は充分のようです。ここで決戦のゴングを迎えます」
闘技場にゴングの音が鳴り響き試合がスタートした。
咲哉とヘカーテの実況はまだまだ続きそうなので、私の出番はかなり減ると思われる。
「試合開始のゴングが鳴りましたが、お互い一歩も動きませんねー。ヘカーテさん、どう思いますか?」
「お互いに、出方をうかがっていると思いますわ」
「なるほど。おーっと! 先に動いたのはロック鳥選手! 霊鳥の名は伊達じゃない! 猛スピードで大空高く飛び上がり旋回を始めたー! ここから、どう動くのか目が離せませんね」
「まるで、獲物を狙う鳥のようですわ」
「あのー、ヘカーテさん。鳥のようではなくて、ロック鳥選手は鳥なのですが?」
「おほほほ。そうでしたわね」
「おーっと、ロック鳥選手が急降下を始めたぞ! 回転している! 回転しているぞ! これはスクリューランスのスキルだー! セト選手に鋭いくちばしが炸裂するかー!?」
「あら? 地面に激突して、はまってしまいましたわねえ」
「これは予想外だー! スクリューランスを華麗なバックステップで交わしたセト選手! そして、ロック鳥選手はそのまま地面に突き刺さり抜けなくなってしまったー!」
「鳥だけに頭も鳥頭なのかしら? うふふ」
咲哉の真面目な実況にヘカーテのボケ気味な解説。
まあ、ヘカーテが解説しているかというと微妙ではあるが、しっかり役割分担はできているようだ。
「馬鹿な鳥じゃのう。我の必殺技のいい的ではないか!」
「余裕のセト選手です! この隙を逃さず、必殺技を放つようだ!」
「食らうがよい! 龍翔転瞬!」
「出たー! 爆殺滅龍剣、七大剣技の一つ! 龍翔転瞬だー! 下から剣先で突き上げる強烈な一閃が決まり、ロック鳥選手は大きく上空に吹き飛ばされたー!」
「爆発して上空に吹き飛ばされたましたわね。地面に突き刺さったまま、切り刻めはすぐに仕止めれましたのに、親切に出してさしあげたのかしら?」
爆殺滅龍剣は切る剣ではなく、切って爆発させる剣である。どのような切り方をしても剣の接触とともに爆発を起こす優れた剣ともいえるのだが、難点としては意図して爆発を止めることができないことだ。
剣先で突き上げたことで爆発の衝撃もあり地面から引っこ抜けてしまったわけだが、上段から降り下ろして切りつければさらに地面に深く沈めることも可能だったはずである。
「確かにヘカーテさんのいうことも最もですが、残念ながらセト選手はそんな親切な男ではありません。すぐに止めを差すつもりはなく、七大剣技の全てを試すつもりではないでしょうか」
「思えば試し切りするっていっていましたわね」
「そうです。その証拠にセト選手は、STRを二倍に増加させるダークオーラのスキルを使っていません。すぐに勝負をつける気はさらさらないってことですね」
あくまでも試し切りにこだわるセトは、スキルを一切使うつもりがないようだ。
「大空高く吹き飛ばされたロック鳥選手は、気を失っているのか、そのまま落下してきたー!」
「地面に突き刺さった無防備の状態で攻撃を食らいましたから、かなりのダメージを受けているようですわね」
「おーっと! セト選手、空中に跳躍した! ここで放つか! 爆殺滅龍剣、七大剣技の一つ! 降龍竜巻旋風!」
「すごい回転ですわ! 目が回らないのかしら?」
「ロック鳥選手よりも高く跳躍したセト選手は、ロック鳥選手に剣先を向け! 高速回転をしながら急降下している!」
「あら! 竜巻が巻き起こっていまわ! これはスキルなのかしら?」
セトの回りに竜巻が巻き起こるのを見て、スキルなのかと確認をするヘカーテ。
龍族が剣のスキルを使用するなど、考えられなかったからだ。
「あの竜巻はスキルで巻き起こったものではなく、爆殺滅龍剣そのものの力ですね」
「凄い魔剣なのですわね」
「ああー! ロック鳥選手に降龍竜巻旋風がヒットー! 竜巻に巻き込まれながら地面に叩きつけられたー!」
「さすがにあの攻撃を受けては、ただでは済まないのではないかしら……」
「ダウン! 完全にダウンしているー! ん? セト選手が何かをいっているようです」
「鳥よ! さっさと起きるのだ! これで終わってしまってはつまらん!」
「ロック鳥選手は微動だにしません。まだ瀕死ではないようですが、相当まずい状態ですね」
どうやったらロック鳥が起きるかを考えるセト。
そして、古典的で素晴らしい方法を思い付く。
「なんじゃあれは? おお! 旨そうな鮫じゃのう!!」
「美味しそうな鮫? どこ……?」
「ああ……。食べ物の力は偉大なのか、ロック鳥選手が目を覚ましました」
「あの鳥は食べることしかか考えていないのかしら?」
「あれ? 鮫いない……。騙された……」
すっかり騙されて不愉快そうな表情を浮かべるロック鳥。
食べ物の恨みは恐ろしいというが、どうなることやら。
「あれは!? ロック鳥選手の体から風圧が巻き起こっています! ウインドフォースのスキルを発動したようだ!! AGIが二倍に増加しています!」
「ほう……。やっと本気を出すのか? かかってくるがよい」
「セト選手は余裕の挑発だ! 本当に大丈夫なのだろうか!?」
「ロック鳥選手のAGIが6638に上がっていますわね。それに比べてセト選手のAGIは2412ですわ。これだけ差があるとさすがに厳しいかと思いますけど……」
「確かにそうですが、軽い攻撃では何度当てても意味がありませんからね。INT値が低いセト選手に有効な攻撃となると風属性魔法になりますが、ロック鳥選手がどう反撃するのか非常に楽しみですね」
「はっ、は、速いですわ! 気が付いたらもう空に!! あら? セト選手の剣から何か放たれましたわね」
「あれは龍斬波です! 爆殺滅龍剣、七大剣技の一つ! しかし、かすりもしない! かすりもしないぞー! ロック鳥選手凄いスピードだー!」
「あのスピードに遠距離から斬激を当てるのは不可能ですわ」
「おおー! いつのまにかセト選手の顔に切り傷ができています! まるで、目に見えない風の刃が襲いかかっているようだ!」
ロック鳥は空を高速に飛び回り、遠距離から風属性魔法で風の斬激を無数に放っていたのだ。
破壊不能効果を持つ特攻服やチェーンメイルには傷一つ付いていないが、無防備な顔には切り傷が増えていく。
「ガッハハハ! 我に傷を付けるとは面白い……が、それもこれで終いじゃ! 逆鱗咆哮!!」
「出たー! 爆殺滅龍剣、七大剣技の一つ! 逆鱗咆哮!! 地面に突き刺した剣が龍の如く咆哮を上げる!」
「凄い音ですわね!」
「ああーっと! ロック鳥選手が気を失い、空から落ちてきたぞ!」
逆鱗咆哮とはダメージを受けた直後のみ発動できる必殺技で、15秒間だけ相手の意識を絶つことができる。
15秒というと短く感じるかもしれないが、戦闘中では勝敗を分ける致命的な時間となるだろう。
「これは不味いぞ! セト選手のあの構えは……爆殺滅龍剣、七大剣技の一つ! 爆殺滅龍砲だ!」
「力を溜めているのかしら? 凄い気迫を感じますわ!」
「きたー! 爆殺滅龍砲が放たれたー! 巨大な魔闘気の塊がロック鳥選手に直撃する!!」
「あれを食らって無事でいられるのかしら?」
「まあ、おそらくは大丈夫でしょう。本来の威力と比べると半分も出ていないようですからね」
「あれで半分ですか!?」
「最大出力で爆殺滅龍砲を放つには、もっと溜めの時間が必要です。魔闘気の大きさも三倍くらいは大きくなるはずですよ」
「ということは、セト選手は手加減をしているということかしら?」
「手加減していたのか、溜める時間が足りなかったのか? おそらくは前者でしょうね。試し切りにこだわっているようですから」
「あら、空からロック鳥選手が落ちてきましたわ」
「空から落ちてくるロック鳥選手! 強烈な勢いで地面に激突したー! 一度は復活を果たしたロック鳥選手ですが、このまま終わってしまうのだろうか!?」
「お腹空いて……もう、ダメ……」
「ギブアップ宣言とも取れますが、瀕死になるまで試合は終わりません! ここまでくるとロック鳥選手が憐れに思えてきます」
「ダーリン……もう既に瀕死としか思えないのは気のせいかしら?」
「お腹が空いたとしゃべれる余裕があるくらいですから、まだ大丈夫でしょう。それに瀕死になると自動的に医療施設へ転移されるようになっていますからね」
「さすがにここまで一方的ですと可哀想ですわね」
「まあ……。試合後にたらふく食べさてあげれば、全てが何事もなく解決するような気もしますけどね」
「それもそうですわね!」
一方的な蹂躙と呼べるほど憐れな目に遇っているロック鳥だが、確かにお腹いっぱい食べさせてやれば何事もなくケロッとしているような気もする。
「おお! セト選手には血も涙もないのか!? ここで放つか! 爆殺滅龍剣、七大剣技の一つ! 九頭龍牙連斬!!」
「凄まじい剣速ですわ! 何回切りつけたのかしら!?」
「九回ですね。ノックバック効果が働く前に超高速で切りつける剣技です」
「ノックバックですか?」
「そうです。ノックバックとは相手を吹き飛ばす効果のことですね。爆殺滅龍剣で切られると、必ず相手はノックバック効果のある爆風で吹き飛ばされるわけです」
「だから先ほどから切る度に爆発が巻き起こっていましたのね……すごい魔剣ですわ」
「この魔剣の凄さはそれだけではありません。七大剣技の名前をキーワードとして発するだけで、自動的に技が繰り出されるのです」
「ひょっとして……この魔剣をお作りになったのはダーリンですか?」
「あはは……。まあ、そうなんですけどね」
「さすがダーリンですわ!!」
解説者モードから微妙に素が出かかっている二人。いつもの話し方に戻るのも時間の問題だろう。
「まだ瀕死になっていないのか、ロック鳥選手は相当タフですね。しかし、おそらく次の攻撃で終わるでしょう。最後に残っている七大剣技は滅龍死突閃ですからね」
「滅龍死突閃とはどんな技なのかしら?」
「滅龍死突閃はヒットさえすれば、相手のHPを50パーセント確定で削ります。そして、HPが50パーセント以下の場合は、必ず相手に止めを差すことができる必殺の技なのです。隙が大きいという難点もありますが、今回の場合は大丈夫でしょう」
「鳥よ! これで終わりにしてやろう! 言い残す言葉はないか?」
「お腹空いた……」
「そうか。その遺言はしかと後世に語り継がせよう」
格好つけているセトだが、そんな遺言を後世に残されたくはない。
というより闘技場の効果で死ぬことはない。
「止めじゃ。滅龍死突閃!!」
ロック鳥に食らい付く龍のエフェクトとともに鋭い突きが放たれた。
「滅龍死突閃が炸裂したー! その一撃は食らい付く龍の如く! ロック鳥選手を貫き大爆発を……。ヘカーテ、もう実況は終わりだ。何だかとても疲れた……」
「うふふ。ダーリンのお好きになようになさってくださいな」
「ああ……。何か慣れないことをすると肩が凝るな」
「夜のベッドでたっぷりお揉みしますわよ」
「あ、まあ……大丈夫だ」
実況解説者モードからいつもの話し方に戻った二人は、相変わらずのペースだった。
滅龍死突閃により貫かれ、大爆発に巻き込まれたロック鳥。
爆風が収まったあとに……その姿はなかった。
瀕死のダメージを受け医療施設に転移されたようだ。
「しかし、タフな鳥だったな……。とりあえず、俺はセトをVIPルームに転移させてから、ロック鳥のところに行ってくる」
そういうと咲哉はセトを呼び戻し、あっという間にロック鳥のところへ転移するのだった。




