29-宣戦布告
「セト! 聞こえるか?」
「なんじゃ? 聞こえておるぞ」
無線で連絡を取る咲哉はセトの現在地を確認する。
「いま何処にいる? もう、待ち合わせ場所には着いてるか?」
「もうとっくに到着しているわい!」
セトに似合わず時間前に到着していたようだ。
おそらく自分の釣果を自慢したくて早くきたのだろう。
「そうか。だったら岸に向かって空を見ていろ。面白いものが見られるぞ」
そういうと咲哉は無線を切るのだった。
「面白いものじゃと?」
咲哉たちの船は間もなく待ち合わせ場所へと到着する。
もうすぐセトの視界にも入るだろう。
「なっ、何じゃあれは!?」
空飛ぶ船に巨大な鮫と鳥がぶら下がっている光景を見て愕然とするセト。
「サクヤー! いったい何なんじゃ、何がどうなっておる!?」
セトは無線を使って慌てて咲哉に連絡を取る。
「いやー、色々あって、何か釣れちゃって」
「うーむ……。凄いものが釣れたのう。それより、サクヤよ。何故、そっちの船は空を飛んでおるんじゃ?」
「あっ、いってなかったか? お前の船も飛べるぞ」
「なんじゃと!」
咲哉はわざとセトに飛べることを教えていなかったのだが、いかにもいい忘れていたかのように伝える。
セトに知られてしまえば釣りどころではなく、飛行艇レースに変更されかねないと思ったからだった。
セトが今まで飛行できることに気が付かなかったのは、この船はボタンやレバー操作だけでは空を飛べず、音声認識も必要だったからだ。
セトが適当に操作しても飛べないように咲哉はしっかりと考えていたのである。
「右下に赤いスイッチがあるだろ? それを押しながら¨飛べ¨と叫ぶんだ」
「うむ。こうか? 飛べー!」
セトの船が浮上を始める。
「おお! 浮かび上がったぞ!」
「ボタンを離すと浮上が停止するから、俺の船の高度に合わせてボタンを離すんだ」
「うむ! ボタンを離したぞ!」
「あとは、基本的に水の上での操縦と同じでいいが、浮上後はハンドルの上下で上昇下降が自由自在になる」
実はこの船にはまだ隠された仕様があった。
それは潜水機能である。
酸素は地上から無制限に転送されるようになっているので、破壊不能効果のあるこの船は深海すら自由に潜水することができる。
またまた自重なしにとんでもない物を作った咲哉だが、この先使い道があるかは謎である。
空飛ぶ船を自在に操り、遊びまくっているセト。既に鮫や鳥のことなどどうでもよくなっているらしい。
「おーい。セトー。遊びまくるのもいいが、釣果はどうだったんだ?」
「我は10メートルほどのアカエイを釣ったが、その鮫の大きさには勝てん」
あっさりと負けを認め、空飛ぶ船を漫喫しているセトは、ある意味非常に潔いともいえる。
「サクヤよ。ところで、その巨大鮫は誰が釣ったんじゃ?」
「ふふふ。もちろん俺に決まっているじゃねえか」
「そうか。我ら三人への願いは決まったのか?」
「いや、まだだが」
「まあ、ゆっくり考えるがよい。我らは千年後でもいいぞ」
「そんなに長生きしねえよ!」
不老の咲哉は不慮の事故にでも遭わない限り千年後も生きているのだが、この衝撃的な事実を知るのはいつになるのだろうか。
「わたしはダーリンのためでしたら、勝負に関係なく何でも願いは聞きますわよ」
「セクメトもー!」
その気持ちが嬉しいような重いような微妙に複雑な心境の咲哉であった。
「まあ、そんなことより、この鮫と鳥をどうにかしたいのだが……?」
「そんなもん、さっさと仕留めて食ってしまえばいいではないか」
セトのいうことも正論といえば正論だが、咲哉としては当たり前の如くモンスターイートで取り込みたい。
「いや、まあ、そうなんだが。こいつらモンスターなんだよ。俺のいいたいことは分かるだろ?」
「むむっ、そいつらはモンスターなのか? なるほど……さすがはサクヤじゃのう」
「まあ、そういうことだ」
モンスターイートで取り込みたいという意思が伝わったと思いきや……。
「爆殺滅龍剣の試し切りに使えってことじゃな」
「はい?」
「思えば、作ってもらってから一度も試し切りをしていなかったからのう」
「あっ、いや、そういうことじゃ……ああ、分かった。とりあえず、一旦、城に戻るぞ。転移するからな」
何だかややこしい話になったなと思いつつ、船を城の近くに転移させる咲哉であった。
◆ ◆ ◆
世界構築スキルで動きを封じられたままのギガロドンとロック鳥から、釣り糸が取り除かれる。
生簀に入っている魚を城の巨大水槽に転移し、船をアイテムボックスに収納する。
そして、二体のモンスターとともに城ごといつもの平原に転移し戻ってきた咲哉。
既にこの平原は咲哉のホームグラウンドと化し、ここが一番落ち着くのだ。
セトは自分の部屋から爆殺滅龍剣を持ち出し準備万端のようだ。
「お兄ちゃん、セクメトもたたかいたいー!」
「お前もやるのか? しかし、鳥はともかく鮫は水中じゃないと戦えないぞ」
「サクヤよ。何をいっておる。お前のスキルを使えば、鮫を空に飛ばすことなど朝飯前じゃろうに」
「あっ、まあ、確かにな……」
そこまでやるのかと思った咲哉だったが、空を自在に飛び回る鮫は何気に面白いと思い実行することにした。
世界構築スキルで口だけを動かせるようにして、ギガロドンとロック鳥に話しかける。
「あー、お前ら。人の言葉は話せるか?」
特に反応はない。
ギガロドンはともかく、霊鳥であったとしても人の言葉は話せないようだ。
そこで咲哉は二つの首輪を作り出すことにした。
首輪には人の言葉を理解し話すことができる効果と、人化の効果を付加する。
そして、ギガロドンの首輪には、陸上での呼吸と、空中を水中のように泳ぎ回れる効果を追加した。
もちろんサイズは自動で調整される仕様にしてある。
二体のモンスターに首輪を装着し、咲哉は再び話しかけた。
「お前ら、これで俺のいっていることが理解できるだろ。人の言葉も話せるようになっているはずだ」
「あっ、あ、ふぅー、苦しかった……。息が出来なくて死ぬかと思ったぜ。俺を殺す気か!」
いきなり陸上に釣り上げられ、しかも宙に吊るされたギガロドンはさすがに苦しかったらしい。
文句の一つもいいたくなるのは当たり前である。
一方、ロック鳥はとんでもない言葉を発する。
「鮫……。食べ損ねた……」
隣にその鮫がいるというのに、いきなりの爆弾発言である。
やはり、モンスタープリズンに閉じ込められたモンスターは一癖も二癖もあるらしい。
「てめー! このデカ鳥がー! いきなり爪で襲ってきやがって!」
「しゃべる鮫も美味しそう……」
「なんだとー!」
「おいおい、お前ら喧嘩はするな。その鬱憤はこいつらで晴らせ」
そういってセトとセクメトを指差す咲哉。
「ガッハハハ! 我が相手になってやるわ!」
「セクメトもー!」
「人間が俺の相手をするって? 陸の上だからって、いい気になるなよー!」
「人間、あんまり、美味しくなさそう……」
ギガロドンのいってることは分かるが、ロック鳥は食べることしか考えていないのかと微妙にどう反応していいか困る咲哉だった。
「まあ、人間に見えるが、こいつらは龍だぞ」
「嘘つくなよー! 龍ったら、こう、もっと大きくて、ガーっと!」
「龍は美味しい……?」
「えっと……。まあ、なんだ、その……。ああ、とにかく、龍化して見せてやってくれ」
二体の反応にどう返したらいいか迷った咲哉は、とりあえず、龍であることを証明することにした。
「口寄せ! りゅうかー!」
「面倒臭いのう……。まあ、咲哉の頼みなら仕方がないわい」
そういうと人の姿から一瞬で龍化する二人。
赤龍王と黒龍王が同時に並ぶ姿は、さすがに威風堂々としている。
大蛇の如く長い胴体は深紅の鎧甲殻におおわれ、幼女だった姿が嘘のような貫禄を放っている赤龍王セクメト。
二本足でそびえ立ち巨大な翼に漆黒の鎧甲殻を持つ黒龍王セト。
その手には巨体に相応しい大きな爆殺滅龍剣を握り、刀身を肩に乗せていた。
よく見ると龍化したセトに合わせて、爆殺滅龍剣まで巨大化しているようだ。
「おお! サクヤよ! 爆殺滅龍剣まで、我の龍化に合わせて巨大化するようにしたのだな!」
「そうなのだよ。セト君。いい仕事をしただろう」
「さすがはサクヤじゃ!」
そんなしょうもないやり取りをしていると、しばらく無言だったギガロドンが驚愕の声を上げる。
「りゅ、りゅ、龍だあー! スゲー! やべー! カッコいい!! なっ、涙が出てきた!」
唖然とする咲哉たちだったが、ロック鳥の言葉でさらに違う意味で唖然としてしまう。
「龍は、硬くて不味そう……」
その発言を聞き龍の姿から人に戻ったセトは不満の声をあらわにした。
「サクヤよ。旨そうといわれるのもどうかと思うが、不味そうといわれるのも癪に障るのう。我の相手はこの食い意地の張った鳥に決まりじゃ!」
「あっ、ああ、そうか。まあ、ほどほどにな」
幼女の姿に戻ったセクメトは、何やら妙に感動しているギガロドンに向かって宣戦布告をする。
「じゃあ、泣いてるサメはセクメトがやるー」
宣戦布告じゃない気もするが、とりあえず宣戦布告としておく。
「俺、ずっと龍に憧れていて! 水中には水龍とか海龍とか、ああ! 空飛ぶ龍なんて初めて見たし! やべー! 涙が止まらない!」
何だかしどろもどろであるが、とにかく感動しているらしい。
鮫も涙を流すのかと、内心で妙に感心をしている咲哉だった。
「まあ、とにかくお前らにはセトとセクメトの相手をしてもらう。もし、お前らが勝ったとしたら自由にしてやろう。その代わり、負けたら俺の部下になることが決定だ。異存はないな?」
「おっ、俺、胸を借りるつもりで頑張ります! あっ、けど、水の中じゃないと戦えない……」
「安心しろ。俺がお前に着けた首輪は、水中のように空を泳ぐことのできる効果がある」
「まっ、マジで!? スゲー! あんたいったい何者だよ!」
「あっ、まあ、細かいことは気にするな。それより、ロック鳥もこの提案に異存はないな?」
「選べる立場じゃないから、やるしかない……。けど……。お腹空いた……」
初めて食べ物から離れた会話をしたと思ったら、やはり食べ物の話題で締めくくるロック鳥であった。
こんな感じで何となく対戦相手が決まったのだが、微妙に物足りなく感じる咲哉。
「うーん……何かが足りないんだよな。そっ、そうか! 闘技場だ!!」
対戦といえば闘技場である。
気持ちがしっくりおさまった咲哉はこの対決を盛り上げるに相応しい闘技場を作ることにした。
この場の勢いだけで作られてしまう闘技場だが、この先、とんでもなく予想外の使われ方をすることになる。
しかし、それはしばらく後の話である。




