27-大物出現
津波騒動に邪魔をされながらも、気を取り直して釣りを再開する咲哉たち。
津波の影響で魚が釣れないのではと心配していた咲哉だったが、それは杞憂であった。
咲哉とセクメトはどんどん釣果を上げていったのだ。
しかし、その一方でヘカーテにはまるで動きがない。
どうやら、ターゲットを10メートル級の大物クラスだけに絞っているようである。
そんな大物がごろごろ転がっているとは思えないのだが、咲哉に願いを叶えてもらいたいヘカーテは意地でも頑張るようだ。
大物にこだわらず純粋に釣りを楽しんでいる咲哉とセクメトは、順調に魚を釣り上げていく。
まあ、大物にこだわらないといっても、地球の魚と比べるとかなりの大きさだったりするのだが……。
気になる釣果は、ギンガメアジ80センチ、ゲンゴロウブナ60センチ、コショウダイ80センチ、ウナギ1メートル80センチ、カムルチー(雷魚)1メートル50センチ、ナマズ3メートル、ヒラスズキ1メートル、スズキ1メートル40センチと、普通に考えるとあり得ないくらいの大漁である。
しかも、小物を含めるとまだまだ多くの魚を釣っているのだ。
異世界だからこそ、これだけ豊富な大物が釣れるのかもしれない。
しかし、人の手が入っておらず、荒らされていないからという理由のほうが大きいともいえるだろう。
「もうすぐ日没だな。そろそろ戻る準備をするか」
咲哉がそういったとき、今まで静閑していたヘカーテに動きが起こる。
「ヒットですわ!!」
これまでにないほど大きく竿がしなる。
破壊不能の効果があるので折れたりはしないが、竿が折れそうなほどの引き、と表現すると分かりやすいだろう。
かなりの大物だと想像できるが、ヒットした魚はセトを上回ることができるのだろうか。
リールを巻き取り、竿をしゃくりながら大物を引き寄せていくヘカーテ。
距離が近付くほどに船が大きく揺れる。
「これは相当でかいんじゃないか!?」
「セトさんには負けませんわ! ダーリンから願いを叶えてもらうのは私です!!」
ヘカーテらしからぬ凄い気合いに若干引き気味の咲哉。
「ダーリン! 玉網を!!」
「お、おう!」
玉網が魚に合わせて自在に大きくなるといっても、生け簀に入りきらなければ対処に困る。
「で、でかすぎる! こいつは鯉か!? 10メートルはあるんじゃないか? さすがにこれを生け簀に入れるのは無理だぞ!」
「あらあら、生け簀に入らないのでしたら、ダーリンに玉網ごと沖まで両手で持っていてもらいますわ」
「いやいや、さすがにそれは……」
持てないことはないが、面倒極まりないと思った咲哉は打開策を考える。
「よし! セクメトちょっと持ってろ! 俺に考えがある!」
「んー? わかった。もってるー」
あまり乗り気じゃなさそうなセクメトをよそに、咲哉はどこかに転移をして姿を消してしまうのだった。
「ダーリンはどこに行ったのかしら?」
「わかんなーい」
さっきまで暴れていた魚はいまは微動だにしていない。
その理由はセクメトが龍王の威圧を使ったからだ。
このスキルをまともに受けると、耐性のないものは即座に気を失う。
セクメトが赤龍王に昇格してから覚えた強力なスキルである。
竿を持ったままのヘカーテに、玉網を持ち上げ続けるセクメト。
しかも、船は巨大魚の重みで若干傾いており、何とも微妙な光景であった。
そんな情況の中で咲哉がやっと戻ってくる。
「待たせたな! 城に水槽を作ってきたから、この巨大魚を転移させるぞ! いいな?」
咲哉はわざわざ四階建ての城を五階に増築して、巨大な水槽を作ってきたのだ。
「お城に水槽ですか? えっ、ええ、お願いしますわ。ダーリン」
10メートルを超す巨大魚が入る水槽など正直ピンとこないヘカーテ。
地球なら水族館などにある大きな水槽を容易に想像することができるが、ここは異世界である。
アスナルドにそんな巨大水槽は存在しないのだ。
ヘカーテの了承を得た咲哉は世界構築スキルを使い、巨大魚を城の水槽に転移させたのだった。
「ふう……。船が傾いたときは焦ったぞ。まあ、船を引っ張るほどの力がなかったのは救いだったな」
「これでセトさんに勝てるかもしれませんわ」
「まあ、あとは実際にサイズを計ってみての判断だな」
「お姉ちゃん、がんばれー!」
頑張れというセクメトだったが、後は帰ってからサイズを計るだけである。
日没は迎えていないが、残りわずかな時間でこれ以上の大物を釣り上げるのは難しいだろう。
「よし。間もなく日没だ。沖まで戻るか」
「あとは結果を待つばかりですわね」
「かえってマンガよむー!」
漫画という聞きなれない言葉を聞いたヘカーテはセクメトから説明を聞き、興味津々のようだった。
「今回の釣りはわざわざ船まで用意したからな。せっかくだから、レイクトローリングしながら帰るか」
レイクトローリングとは船にルアーをひかせる釣り方のことである。
ちなみに、海で行う場合はレイクは付かず、ただのトローリングという。
船には竿を取り付けるホルダーが設置されているので、竿に張り付きっぱなしじゃなくても船を航行させてルアーをひかせることができる。
三人ともそれぞれ好きな場所に竿を取り付け、リールのボタンを押しルアーの効果を発動させた。
「帰りはセクメトが運転していいぞ」
休みたかった咲哉はセクメトに操縦をさせることにする。
船の操縦席には地図が表示されているので、セクメトでも目的地に辿り着くことはできるだろう。
「ヘカーテ、セクメトを見ていてくれるか?」
「ええ、分かりましたわ」
そういってオーナーズルームの寝室で横になる咲哉。
ヘカーテを遠ざけておかないとベッドに潜り込まれる危険があったからだ。
咲哉が横になって休んでから数分くらい経っただろうか、船が急に激しく揺れ始めた。
「なっ、なんだ!?」
急いで操縦席に向かった咲哉は絶句する。
「たのっしぃー!」
そこには、船をジグザグ航行させながら、はしゃいでいるセクメトがいたのだった。
「はあ……。何かと思えばセクメトのせいか。っうか、こんな情況じゃ寝てられん!」
「あらー? ダーリンはお一人で寝ていたのかしら……? わたしを呼んでくれれば、たっぷり癒して差し上げましたのに」
「あっ、ああ。また今度な」
ヘカーテを交わすのに使った¨また今度¨という言葉は、素晴らしく都合いい言葉である。
また今度って、次の今度なのか、そのまた次の今度なのか、いつの今度なのか分かりはしない。
あなたが¨また今度¨といわれたとしたら、うまく交わされていると思って間違いないといえるほど都合のいい言葉だ。
ヘカーテを軽く交わした咲哉は、操縦席の裏にあるサロンで休むことにする。
しかし、サロンのソファーに座ってのんびり……はできなかった。
セクメトのジグザグ航行が激しすぎたのだ。
仕方なく咲哉はサロンの窓から外を覗いて、レイクトローリングしている竿を確認することにした。
すると、セクメトとヘカーテの竿が大きくしなっていたのだ。
これでもしセクメトが10メートル級の大物を釣り上げたとしたら、勝負はまだまだ分からなくなる。
クライマックスを迎えつつある釣り勝負に、どんでん返しはあるのだろうか。




