20-セクメトのお姉ちゃん
「ワイズ、セクメトの姉ちゃんがいる場所を教えてくれ。城を転移させる」
コントロールルームへと移動しながらセクメトのお姉ちゃんがいる場所をワイズに聞く咲哉。
今回はさくっと城を転移させて目的地へと向かうことにしたのだ。
「セクメト様の御姉様でございますか?」
ちょっと間を置いたワイズはそう尋ね返し、咲哉と一緒にコンロールルームへと入る。
セクメトも二人の後を追ってきた。
「セクメトの話によると姉ちゃんがモンスタープリズンにいるらしい」
「かしこまりました」
ワイズはモニターに映る地図の場所を指し示す。
「セクメト様の御姉様がおりますのは、この辺りでございます」
「分かった。では城を浮上させる」
「お兄ちゃん、ふじょうってなぁにー?」
城が浮上するところをまだ見たことのないセクメトは不思議そうに尋ねた。
「まあ、見ていれば分かる」
「みてるー!」
「浮上せよ! 咆哮龍牙城!!」
城がゆっくりと浮上を開始する。
「わー! うかんだー!」
モニター画面を見ていたセクメトは大はしゃぎだ。
「ステルスモード発動! 万物遮断結界展開!」
「なんか、かっくぉいいー!」
はしゃぐセクメトを見て、飛行する城を満喫してもらいたい衝動にかられる咲哉だったが、何となく胸騒ぎを覚え急ぐことにする。
「のんびり空の旅を楽しむのも悪くはないが、すぐ城を転移させるぞ」
「うん! わかったー!」
セクメトのお姉ちゃんがいる場所へ城を転移させると、森の一画に西洋風の城がそびえ立っていた。
「モンスタープリズンに城だと……?」
「うん! あのお城にお姉ちゃんがいるー!」
「姉ちゃんが建てた城なのか?」
「しらなーい」
咲哉のいる島は無人島である。
そこに城があるというのはそもそもおかしい。
セクメトのお姉ちゃんが城を建てたとしか考えられないのだが、一匹の龍に作ることができるのだろうか。
「まあ、姉ちゃんに会って聞けば分かることか。姉ちゃんの傍に転移するぞ」
「ダメー! お城の入口からいかないとつまんなーい!」
「つまんないってなー、まあ、仕方がないか……。じゃあ、城の前に転移するぞ」
「うん! お兄ちゃんだいすきー!」
面倒くさいと思いつつも、やはりセクメトには甘い咲哉であった。
「じゃあ、ワイズ、行ってくる。留守を頼んだぞ」
そういうと咲哉はセクメトを連れて城の前に転移をする。
「こう見ると、西洋風の城も悪くないな」
城は掘で囲まれており、跳ね橋が降りて城門へと続いていた。
「お兄ちゃんは、ここで待っててー」
そういうとセクメトは、てくてく跳ね橋へと歩いていく。
そして、橋の中ほどにさしかかったとき堀の中から巨大な長い影が飛び出してきた。
「ん!? あれは大蛇か? かなり、でかいな……」
大蛇と呼ぶにはあまりにも巨大な蛇。
その大きさはセクメトを余裕で丸呑みできるほどだ。
威嚇する大蛇をよそに、セクメトは何やら指で印を結び始める。
「いっくよー! 火遁・猛火球の術!」
そういうと、セクメトの口から巨大な火炎が吐き出され、大蛇を顔から包み込んだ。
「はあ? 火遁・猛火球の術って、あれはただのファイアーボールだろ?」
咲哉の突っ込みも空しく、大火炎に飲まれた大蛇はそのまま堀へと落ちていき、煙のように消え去った。
「こっちきていいよー! お兄ちゃーん!」
城の門が音を立てて開いていく。
「大蛇が倒されると城門が自動的に開くのか? まるで門番だな」
「はやくー!」
「おう! いま行く!」
セクメトに急かされて城門を抜け城の中庭へと入る。
「お兄ちゃんは下がっていて」
「はい?」
セクメトがそういうと、何処からともなく影のような物が集まってきて巨大な人型をなしていく。
その姿は頭は牛、体が人という巨体のモンスター、ミノタウルスだった。
手には巨体に見合った斧を持っている。
「またまた、でかいのが現れたな」
「お兄ちゃんには、指一本触れさせない!」
セクメトがちょっと格好いい台詞をいったのは明らかに漫画の影響である。
さっきの火遁を真似たファイアーボールといい、こうやって人は中二病に侵されていくのだろう。
まあ、セクメトは人じゃなく龍なのだが。
すっかりメンマ疾風伝のキャラクターになりきっているセクメトを見て、若干引き気味な咲哉であったが、ここは大人しく見守ることにした。
ミノタウルスの巨大な斧が降り下ろされると、続けざまにバク転をして交わすセクメト。
そして、またまた印を結び息を吸い込む動作をする。
「火遁・猛火滅却ぅー!!」
セクメトの口から巨大な火炎流が吐き出される。
「おいおい、それはただのファイアーブレスだろうが!」
またまた咲哉の突っ込みも空しく、ミノタウルスは火炎流に飲み込まれ跡形もなく消滅したのだった。
「お兄ちゃん、つぎいくよー!」
「はいはい」
セクメトのペースに呆れ気味な咲哉であったが、楽しそうなので好きにさせておくことにする。
モンスターが襲ってきても、今のところセクメト一人で特に問題なく倒しているので、咲哉がすることは何もないともいえたのだ。
「この階段をのぼるー。あたまの上にちゅういー」
そういうとセクメトは頭上に向かって飛び蹴りを連続で放ち、頭上から落ちてきていた巨大な洗面器をべこべこに破壊した。
「赤龍王セクメト連弾だよ!」
「おいおい、セクメト連弾って……いてっ!」
セクメトの技名に呆けていた咲哉の頭に洗面器が落ちる。
「お兄ちゃん、油断しちゃだめー」
いやいや、お前のせいだろと思いつつも言葉を飲み込む咲哉。
まるでコントの如く上から落ちてきた洗面器に違和感を覚えたのだ。
城を防衛する罠であれば相手を傷付けるものでなくてはおかしい。
咲哉が他にもおかしいと感じたのは、セクメトのお姉ちゃんと会うだけのはずがモンスターに襲われていることだ。
しかも、セクメトはどんなモンスターが現れるかを知っているかのように戦っている。
モンスタープリズンに閉じ込められたモンスターにしては、手応えがなさすぎるというのもおかしい。
考えれば考えるほど全てにおいておかしいのだ。
「お兄ちゃん、いくよー」
「あっ、ああ。分かった」
色々おかしな点や違和感などはあるが、咲哉は今のところ洗面器を頭に食らっただけで大きなダメージはない。
とりあえず、細かいことは気にしないようにしてセクメトに着いていくことにした咲哉であった。
頭上から洗面器という古典的な罠にかかった精神的なダメージは……気にしない方向で。
階段を上った先は長い通路となっており、脇に無数の鎧が並んでいた。
今にも動き出しそうな鎧……というか確実に動くだろう。
こういうお約束は裏切っちゃいけない。
二人が通路を進んで歩いていくと、まさにお約束通りの展開で鎧が一斉に動き出した。
定番が大好きな咲哉は、テンプレート通りの展開に内心ほくそ笑んでいたが、セクメトは動き出した鎧に向かってとんでもない行動を取る。
「忍法・お色気むんむんの術! うふーん!」
幼女から大人の姿へと変化するセクメト。
こちらもお約束通り、服は着ておらず、スッポンポンの状態だ。
「あれ? 効かないねー」
セクメトの裸体などお構いなしに剣を振り上げ襲いかかる鎧たち。
「ていっ!」
見てはいけないところが見えそうな勢いで、セクメトは回し蹴りを放った。
まともに蹴りを顔面に食らった鎧の頭部のみが吹き飛ばされていく。
頭がなくなっても攻撃をやめようとしないことから察するに中身は空洞のようだ。
バク転を繰り返し鎧から距離を取ったセクメトは、またまた印の真似事をし、口から高密度の炎を吐き出した。
「いっけーい! 火遁・猛火滅失ぅー!」
鎧たちは炎に包まれ大爆発を起こす。
おそらく、エクスプローションのスキルだろう。
跡形もなく吹き飛んだ鎧と裸で得意げな表情をする大人セクメトを見て、何処からどう突っ込んでいいか分からなくなる咲哉であった。
「ん? お兄ちゃんにお色気むんむんの術きいたー?」
セクメトの頭にゴツンとげんこつを食らわし元の姿へと無理やり戻す咲哉。
「っうか、お前は大人の姿にもなれたのかよ!」
「セクメトは、にんじゃだから、大人も子供もじゆうじざいー」
「はあ……もういいや」
大人の姿に変化した絡繰りはスキルだった。
セクメトはチェンジソーサリーのスキルを使って人化している。
このスキルを使用すればどんな姿にも変幻自在だ。
しかし、人化したら特攻服などの装備が、アイテムボックスから自動で着用される仕組だったはずなのだが、咲哉はミスを犯していた。
セクメトが人化したら自動着用ではなく、幼女の姿になったら着用されるようにしていたのだ。
幼女以外に人化しても特攻服が自動着用されないという盲点を突いたのが、このお色気むんむんの術だった。
「セクメト、忍者になったせいか、いつもより敵がよわいのー」
「いつもよりって、この城に来たらいつも戦っているってことか?」
「うん!」
姉ちゃんと会うために何故毎回戦うのか……謎は深まるばかりである。
セクメトがいつもより敵が弱いと感じた理由は、当たり前の如く忍者になったからではない。
というより、セクメトは忍者ですらない。
この理由は凄く単純明快。
それはネームオーダーの効果で赤龍王に昇格されていたからだ。
「階段のぼるよー」
「今度は洗面器が落ちてこないだろうな……」
気を引きしめていた咲哉であったが、そういうときに限って何も起こらなかったりする。
人生なんてそんなもんだ。
洗面器に注意をしながら、階段を上りきった先は大広間だった。
天井もかなり高く、何かと戦うことが想定されているような作りだ。
咲哉がそんなことを思っていると案の定――
巨大なカボチャが突然天井から降ってきたのだ。
カボチャには目と口の部分に切れ込みがあり、空洞な中身に炎が灯っている。
このモンスターは10月31日といえばおなじみのジャックランタンだ。
「ジャックランタンだと!? 今日はハロウィンか? って、異世界ではそんなの関係ないか」
「お兄ちゃん、たたかうよー! 印をむすんで口寄せの術だよー!」
「はあ? 印だと!?」
セクメトの忍者ごっこに合わせるのかと思いつつも、それらしい印を結んで、口寄せの術っぽい動作をする咲哉。
「いくぞ、セクメトー! 忍法! 口寄せの術!!」
咲哉が口寄せの術もどきを行うと、目の前に真紅の赤い龍が姿を現した……っうか、そのまんまセクメトである。
幼女の姿から龍化したセクメトは、長い胴体でジャックランタンを締め付けたかと思うと、体全体から炎を舞い上げた。
ファイアーハッキングのスキルである。
その様子を見ていた咲哉は……。
「火遁・龍炎縛の術!」
とかいって、何だかんだノリノリだった。
炎をまとったセクメトに締め付けられたジャックランタンは、粉々に吹き飛び、煙のように消えてしまった。
「お兄ちゃん、かっくぉいいー!」
幼女の姿に戻ったセクメトは、咲哉と一緒にジャックランタンを倒してご機嫌である。
まあ、咲哉は何もしておらず、実際はセクメト一人でモンスターを倒したのだが、そこに触れてはいけないだろう。
「この扉で、さいごー」
大広間を抜けた先に豪華な装飾のされている扉があった。
「最後ってことは、この扉の向こうに姉ちゃんがいるのか?」
「うん!」
城の道中に様々な疑問が沸いてきたが、全てはセクメトのお姉ちゃんに聞けば判明することであろう。
最後の扉を開けて部屋の中へ入る咲哉とセクメト。
「お姉ちゃーん! きたよー!」
そこには玉座のような椅子にうつむいたままの女が一人で腰をかけていた。
顔は確認できないが、長い銀髪に黒色のドレスが際立っている。
しかし、何ともな不気味な雰囲気が漂っているのは気のせいだろうか。
「ん? 遅かったかもー」
「はあ? 遅かったって?」
二人が言葉を発した瞬間、玉座に座っていたはずの女が一瞬にして消える。
そして、姿を見失ったときには既に、影のような黒いオーラをまとった女が咲哉の首に鋭い爪を突き刺していたのだった。




