19-セトの部屋
セトの部屋はお化け屋敷の裏にあった。
そこには、セトそっくりの黒龍王が彫りこまれている四角い扉があり、いかにも、『ここはセトの部屋です!』と主張しているかのようだった。
「おお! ここが我の部屋か!?」
「そうだ。いい感じの扉だろ?」
「うむ。ここまではよい感じじゃ。問題は部屋にどんな娯楽が用意されているかじゃな」
扉の外観はセト好みであったが、まだまだ機嫌は直らないようである。
「まあ、お楽しみはこれからだ。扉の前に立ってみてくれ」
いわれた通り扉の前に立ったセトは、歓喜の声を上げる。
「おおー! この扉は自動で開くのか!」
「かってにあいたー! すごいー!」
アスナルドには横にスライドする自動ドアは存在しない。
初めて見る自動ドアにセトもセクメトも大興奮である。
しかし、部屋に入ったセトは一瞬にして顔をしかめた。
「なんじゃこれは? 本ばかりではないか!」
部屋の壁は本という本で敷き詰められており、他にはテーブルとソファーが置いてあるだけだった。
娯楽が用意された部屋というよりは書斎か図書館に近い感じだろう。
特に好んで本を読むわけではないセトが怒るのも無理のないことだ。
「セト君、まあ、落ち着きたまえ。この本を読んでみるといい」
得意げに一冊の本を棚から抜き取り、セトに渡す咲哉。
「むむっ、これは絵本か? 見たこともない形式の本じゃな」
「セクメモも読むー!」
咲哉はセクメトにも本を渡し、自分も適当な本を選んで読み始めた。
黙々と本を読み進める三人。
「どうだね? セト君」
セトが一冊読み終わったのを確認すると、咲哉は自信ありげな口調で尋ねる。
「我は本を侮っていた! これは立派な娯楽じゃ!」
「そうだろう、そうだろう。この本は俺のいた世界ではひとつの文化として成り立っている、漫画というものだからな」
咲哉がセトの娯楽として作ったのは漫画である。
いっとき漫画喫茶にハマり膨大な数の漫画を読んでいた咲哉は、読んだことのある漫画を全て再現したのだ。
世界構築スキルを使えば咲哉の記憶から漫画を再現することなど容易いことであった。
しかも、この漫画は誰でも読めるように自動翻訳機能まで付いている。
例え文字の読めない人であったとしても、頭の中に直接言葉が読み上げられるようになっている優れものだった。
そこまでやるかという感じではあるが、こだわりだしたらとことんやるのが咲哉である。
「サクヤよ。このドラゴンの玉という漫画の続きを読みたいんじゃが?」
「読み終わった漫画にドラゴンの玉1と書いてあるだろ? 次は2の数字が書いあるのを読むんだ。数字の順番通りに読んでいくといい」
セトが読んでいるのは地球で一世を風靡した『ドラゴンの玉』という漫画である。
七つの玉を集めると願いが叶うという有名なアレだ。
最初に読むには名作が一番だろうと咲哉が選んだ漫画だ。
「お兄ちゃん、セクメトもつづきが読みたいー!」
「だから数字の順番通りに読めばいいといってるだろ」
そういった咲哉であったが、何だかんだでセクメトには甘い。
親切に二巻を手渡すのであった。
セクメトが読んでいる漫画は、『メンマ疾風伝』である。
地球では大人子供を問わず大人気の忍者漫画だ。
忍者はどんな国でも人気者なので、セクメトも気に入ってくれるだろうと咲哉が選んだのだった。
ちなみに、咲哉が作った漫画は『ドラゴンの玉』や『メンマ疾風伝』以外にも、『明日のジョージ』、『ホワイトジャック』、『海賊王に俺はなる』、『娯楽王カードモンスターズ』、『ベルサイユの百合』、『魔法少女マゾか☆マジか』、『釣りキチ助平』、『快進撃の巨人』、『ログ・ホラフキン』などなど、他にも数え切れないほど膨大にある。
読破するのには何ヵ月もかかるであろう。
「あっ、そういえば、いい忘れていたことがある」
「むっ、何じゃ? 今いいところなんじゃが」
「ああ、わるいわるい。テーブルをタッチするとドリンクのメニューが現れてだな……」
実は一見何の変鉄もないテーブルだが、これが優れものであった。
テーブルの上が液晶画面となっており、タッチをすることでドリンクのメニューが現れる。
そして、飲みたいドリンクをタッチするとテーブルの中から自動的に出てくるのだ。
あまりに未来的な仕様である。
もちろん、メニューにはセトが大好きな酒もある。
「おおー! 酒を飲みながら漫画が読めるのか! なんという便利なテーブルじゃ!!」
至れり尽くせりで大感動のセトであった。
実は読みたい漫画を一瞬でテーブルに転移させようと考えていた咲哉だったが、本棚にある漫画を自分の目で見て選ぶのも楽しみのひとつだと思い、自重をしたのだった。
ジェットコースターとお化け屋敷で機嫌を悪くしたセトだったが、すっかり上機嫌となっている。
地球が生んだ漫画の文化は素晴らしく偉大である。
◆ ◆ ◆
咲哉が朝食を済ませてセトの部屋へ行くと、二人ともまだ漫画を読み続けていた。
咲哉は眠気に耐えきれずさっそうと寝てしまったというのに、徹夜で漫画を読みふけていたようだ。
以前セトがいっていたように、龍というのは一週間くらい寝なくても平気な生き物というのは本当らしい。
「そろそろお姉ちゃんのところにいかないと、まずいかもー」
咲哉の姿を見つけると、何かを思い出したようにセクメトが突然話しかけてきた。
「いきなりなんだよ? お姉ちゃんの所に行かないとまずいって?」
「うん。お姉ちゃんのところにいくー!」
「っうか、お前に姉ちゃなんていたのか?」
「いるよー!」
どうやらセクメトにはお姉ちゃんがいるらしい。
しかし、突然、お姉ちゃんのところに行かないと不味いとか……嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか。
「まあ、会いに行くなら引き止めはしないが、お姉ちゃんはこの島にいるのか?」
「うん! この島にいるー!」
この島にいるということは、必然的にモンスタープリズンに閉じ込められている凶悪なモンスターということである。
セクメトのお姉ちゃんというからには龍に違いないのだろうが、いったいどんなことをやらかして閉じ込められたのだろうか。
「お兄ちゃんも、一緒にいこーよー」
「はあ? 俺も一緒に行くのか? まあ……仕方がない。付き合ってやるか」
「わーい!」
「我はいかんぞ! 漫画を読んで待っておるからな」
徹夜したにも関わらずセトはまだまだ読み続けるらしい。
よほどハマってしまったのだろう。
このままだと近い将来必ず『ハメハメ波』の練習をしだすに違いない。
ハメハメ波とはご存知の通りドラゴンの玉に出てくる必殺技のことである。
セクメトの姉ちゃんなら安心だろうと、簡単に同行することを決断した咲哉であったが、そうは問屋が卸さないのが転生クエストという物語である。
いったいセクメトのお姉ちゃんとは何者なのだろうか。
色んな意味で期待が膨らむばかりである。




