18-裏ルート
何とも不気味に暗い空。
辺りには、小さな子供たちが各々に石を積み上げる姿が見える。
そして、石が山のように積まれると、何処からともなく鬼が現れて、その石を崩してしまうのだった。
「賽の河原か。一番マシな地獄に落ちたようだな」
咲哉はお化け屋敷を脱出する最後の関門として、色々な地獄を用意していた。
どの地獄に落ちるかはランダムで決まり、ここを抜けると無事にお化け屋敷をゴールできるというわけである。
厳密にいうと賽の河原は地獄ではなかったりするのだが、咲哉が作った仮想世界なので本人が気にしなければどうでもいいことである。
「二人とも起きろ!」
気を失い地面に倒れているセトとセクメトを叩き起こす咲哉。
「ううっ、ここは何処じゃ? 急に足場がなくなり落ちたような……」
「うーん……。お、お兄ちゃん?」
「お前らは落とし穴に落ちて、地獄に落ちたんだよ」
地獄と聞いて微妙に顔が引きつる二人。
アスナルドにも地獄は存在するのだ。
しかし、地獄といっても地球でいわれているように、罪を犯して死んだら落ちる世界ではない。
アスナルドの地獄とは魔族と鬼族が支配する大陸のことである。
魔族と鬼族には龍族に匹敵する強さを持つ猛者も多くおり、龍族と鬼族が犬猿の仲であることはアスナルドでは有名な話であった。
「お前ら何か勘違いしていそうだが、ここは俺が作った仮想世界だ。死ぬことはないから安心しろ」
「うむ……。どんなやつが現れても我らの敵ではないわ。なあ、セクメトよ」
「うん!」
地獄と聞いて二人の間に、妙な共感が芽生えた瞬間であった。
「あー、そうか。まあ、期待しているぞ」
そういうと、すたすたと先に歩き出す咲哉。
「ちょっと待つのじゃ! あの鬼どもは襲ってこんのか?」
子供が作った石の山を崩す鬼を見てセトは疑問を口にする。
「ああ、あいつらはこっちから手を出さない限りは襲ってこないから安心しろ」
「ふむ。わざわざ相手にする必要もないってことじゃな」
「ていっ!」
咲哉の言葉を聞いていなかったのか、セクメトは鬼に向かって走り寄っていき、いきなり飛び蹴りを食らわせた。
「何をやっとるんじゃ!」
「ん? 鬼はてき」
「いやいや、我らにとって確かに鬼は敵であろうが……」
セトが話終わるのを待つことなく、何処からともなく沸いてきた鬼が一斉に襲いかかってきた。
咲哉たちは武器を持っていない。お化け屋敷に武器を持ち込むことなど咲哉の美学に反するからだ。
お化け屋敷のお化けからは逃げると相場が決まっている。
もちろんスキルも使えない。
しかし、そんな状況なのにも関わらず、セクメトが勝手に攻撃を仕掛けてしまい、咲哉の予定が微妙に狂ってしまった。
「お前ら! 仕方がないから蹴散らすぞ!」
そういうと咲哉は鬼の腹に中段蹴り放つ。
蹴り飛ばされた鬼は周りの鬼を次々と巻き込みながら地面に叩きつけられた。
「既に試したかもしれないが、龍化はできないから気を付けろよ!」
「分かっておるわい!」
セトとセクメトもお化けから逃れるために、当たり前の如く龍化を試みていた。
しかし、何回龍化をしようとしてもすることができず、諦めの境地に到っていたのだ。
人の姿でしか対処できないセトが選んだ武器は、鬼そのものだった。
鬼の顔を鷲掴みにして、武器の如くぶんぶん振り回しながら他の鬼を次々と蹴散らしていく。
STR系のセトらしい、かなり豪快な戦い方だ。
「ていっ!」
その一方でセクメトは、素早い動きで鬼の死角から飛び蹴りを食らわせる。
鬼からすると、気が付いたら吹き飛ばされているという状況だろう。
小柄な体型と素早さを活かした素晴らしい戦い方といえる。
しかし、特攻服をまとった幼女が鬼を次々と蹴り飛ばしている姿は、かなりシュールに見えるのだった。
「鬼族のくせに手応えがないのう。やつらは下級クラスの鬼なのか?」
「普通の鬼がどのくらい強いかは知らんが、ここは俺が作った仮想世界だからな。細かいことは気にすんな」
次々と襲ってくる鬼を無双しながら進んでいく咲哉たちの前に、数十メートルはあろうかと巨大な地割れが立ち塞がった。
「この地割れに飛び込むぞ!」
「ここに飛び込むじゃと!? 大丈夫なのか?」
「俺を信じろ!」
「お兄ちゃんは、いつもただしいー!」
そういうとセクメトは真っ先に地割れに向かってダイブした。
セトと咲哉もそれに続いて飛び込む。
風切り音を体に感じながら地割れに落ちていくと、急に空間が開けた。
そして、次の瞬間には水の中に落ちていたのだった。
「お前ら、大丈夫か!?」
「がぶっ、だ、大丈夫じゃ! し、しかし、何じゃこの赤い水は?」
「だいじょうぶー! けど、水があかいー!」
「ここは血の池地獄だな」
血の池地獄とは、生前、性に関する罪を犯したものが落ちる地獄といわれている。
しかし、ここは咲哉の作ったお化け屋敷であるから、そんな設定は存在せず、たくさんの亡者が血の池で溺れているだけだった。
「何じゃこの気味の悪い連中は!」
「それは亡者だ。捕まると池に引きずり込まれるから注意しろよ」
「もうじゃ、こわいー!」
基本的に亡者は溺れているので自分のことで手一杯である。
本来はこちらから近寄らない限りは安全なのだが、出口が見つかったとするなら、話は変わってくる。
「上に光の穴が見えるのは分かるな? あそこから垂れてきているロープにつかまって、上まで登っていくんだ」
咲哉が指差した頭上に光の穴が見える。
その穴からロープが垂れ下がってきており、登りきるとお化け屋敷をゴールすることができるのだ。
しかし、そんな簡単にいかないのが咲哉の作ったお化け屋敷である。
このロープは一人づつしか登ることができず、二人以上で登ろうとすると切れてしまうのだ。
「まずはセクメトから登れ! 俺とセトは亡者を食い止める」
溺れて必至に足掻いている亡者だったが、ロープを発見すると血眼になって集まってきた。
そして、血の池から逃れようとロープをつかみはじめたのだ。
「セト、亡者を殴り飛ばせ!」
「嫌な役回りじゃの!」
次々と亡者を殴っては吹き飛ばしていく咲哉とセト。
血の池に浸かっているので蹴りは放てず、殴るしかない。
「お兄ちゃん! もうすぐゴールするー!」
「よし! そのままゴールしろ!」
セクメトは無事にロープを登りきり光の穴へと消えていった。
「セト、次は俺が登る。亡者の足止めは任せたぞ」
「ちょっと待てい! 一人残された我は、どうやってロープを登ればいいのだ?」
セトが一人になってしまうと亡者を食い止める者がいなくなる。
ロープの重量制限は一人までであるから、亡者が一緒に登ってきてしまうと脱出不可能となるのだ。
セトが一人取り残された時点で、ロープが切れて再び血の池に真っ逆さまとなることは確定事項なのである。
「最後の一人はあっという間に脱出できる裏ルートがあるから大丈夫だ」
「裏ルートじゃと?」
「それにお前が一番強いんだから、殿を務めるのは当たり前のことだろ」
「た、確かに我が一番強いからな。殿を務めるのは当たり前じゃの!」
脳筋なセトは、当たり前の如く簡単に丸め込まれてしまうのだった。
「殿は任せたぞ!」
そういって咲哉はさっさとロープを登ってゴールしてしまうのだった。
亡者を殴り続けて裏ルートが発動すのを待つセト。しかし、いつまで経っても何かが起こる様子はない。
「裏ルートはどうなったんじゃ!? ええい! 仕方がない!」
セトが考えたのは周りの亡者を全て吹っ飛ばし、ロープから遠ざけてから登るということだった。
ありったけの力を込めて亡者たちを殴り飛ばすセト。
「今じゃ!」
周りの亡者を遠ざけた隙に急いでロープを登っていくが、出口から中程くらいとなったとき、わらわらと亡者がロープにつかみかかってきたのだ。
ぶちぶちと音を立ててロープが切れかかる。
「お前ら手を放すのじゃ! 落ちるではないか!!」
既にお約束ではあるが、そのままロープは切れてしまい、セトは血の池へと落ちていくのであった。
南無……。
「くそー! 裏ルートはどうなってるんじゃ!」
セトが咲哉を疑い始めたそのとき、轟音と共に血の池が大きく波打つ。
「なんじゃ! いったい何が……で、でかい!」
そこには天井まで届くかというほどの巨大な鬼がセトを見下ろしていたのだった。
唖然としているセトを鬼は無造作につかみ上げ、ぶんぶんと振り回した。
「は、放すのじゃ! くそ鬼めー!!」
セトの声が聞こえたのか、はたまた嫌がらせか、鬼はその手を放し、セトを天井に投げつけた。
「ほんとに放すやつがおるかー!」
セトの突っ込みが虚しく響き渡り天井に直撃する……かと思いきや、出口の穴へすっぽりと入ってしまう。
そう、これが咲哉のいう裏ルートだったのだ。
鬼に出口の穴へと放り投げられて脱出するという、何とも憐れな裏ルート。
実に咲哉らしい落ちであった。
「よう、セト! どうやら、無事に戻ってきたようだな」
「セト、おかえりー!」
先に帰っていた咲哉とセクメトがセトに声をかける。
「無事なわけがあるか! あの脱出の仕方は何じゃ!!」
「ああ……脱出の仕方ね。まあ、あれだな。あれはジェットコースター的な娯楽のひとつだ。うん、多分そんな感じだ」
「いい加減なことをいうなー!」
「まあ、そうカリカリするな。次は新しく作ったセトの部屋を案内するぞ」
セトの部屋を話題にしてご機嫌を取るつもりだった咲哉だが、さすがにセトの怒りは収まらない。
「これで我の部屋が手抜きだったら只では済まさんぞ!」
「ああ、まあ、そうだな。俺的には会心のできだから、まあ、楽しみにしていてくれ」
「たのしみー!」
「セクメトの部屋じゃなく、我の部屋じゃ!」
セクメトにまで八つ当たりをするセトであった。
この怒りが解消されるかは咲哉の作った部屋次第である。




