17―定番通りにいかない
セトとセクメトが散々な目に遭っていた頃、咲哉はどうしていたかというと、墓の下から急に出てきた手に右足をつかまれていたのだった。
「見事に足をつかまれてしまったな」
かなり冷静そうに見える咲哉だが、どんなに足を引っ張っても動くことができず、何気に困っていたりする。
「手を離す気はないんだな?」
咲哉がそういうと、足を握る手の力がさらに増していく。
「てめえ! さっきよりも強く握ったな? 俺にも考えがあるんだぞ」
咲哉の考えることなど、どうせ碌でもないことだろうが、とりあえず様子を見てみよう。
「いいか? いくぞ! 最初はグー! じゃんけんポン!」
そういわれた手は反射的にグーを握り、じゃんけんをしてしまったのだ。
「バーカ! 手を離すなんて、頭悪いんじゃねえの? あっ、頭はねえか?」
手から解放されて何事もなかったように歩き出す咲哉であった。
◆ ◆ ◆
「しっかし、セトとセクメトは何処に行ったんだ? あんなもんで逃げ出すとは龍の名がすたるぞ」
ネームオーダーのせいで龍族の恐怖が倍増していることなど知らない咲哉は悪口をいいまくりである。
「まあ、龍が強いといっても、お化け屋敷を怖がるようじゃダメダメだよな」
しばらく墓地を歩いていた咲哉は森へと辿り着く。
「自分で作っておいて何だが、ずいぶんと不気味な森だな」
立ち止まっていても仕方がないと、森に足を進める咲哉だったが、奥から赤ん坊の泣き声が聞こえてきて立ち止まる。
「オギャー! オギャー!」
「こんな森の中に赤ん坊なんているわけがないよな」
そう思って再び歩き出すと、しばらく進んだ道の脇でカゴの中に入った赤ん坊が泣きわめいていたのだった。
しかし、咲哉は赤ん坊に目を向けることもなく道を通り抜けようとする。
「オギャー!! オギャー!!」
さっきよりも大音量で泣きわめく赤ん坊。
素通りするのがはばかれるほどの声音だ。
「やかましい! どうせ、お前は抱き上げたら石のように重くなるだろ!? 大人しくしてろよ!」
「なんと……! 定番を裏切るとは、情緒の欠片もないやつじゃの!」
赤ん坊は子泣きジジイの化けていた姿だった。
「情緒を持って、嫌な思いなんてしたくねえよ!」
「子泣きジジイの美学が分からないやつには、こうじゃ!」
そういうと子泣きジジイは咲哉の真上に跳躍し、頭に向かって落ちてきたのだ。
身を反転させてそれを交わす咲哉。子泣きジジイは行き場を失い地面に落ちる。
辺りに轟音が響き渡り、落ちた地面に深い穴ができていた。
「あぶねえー! 地面に穴があく重さって、いったい何キロあるんだよ……」
穴に落ちないように、おそるおそる中を覗きこむ咲哉。
「おーい! 出してくれー! 一人じゃ出られん」
「知るか! 自業自得だ!」
地面の奥深く、身動きひとつ取れない子泣きジジイの泣き声が、森の中にこだましていた。
◆ ◆ ◆
子泣きジジイをサクッと無視して森を通り抜けると、古い民家の建ち並ぶ場所が見えてきた。
民家の間を通り抜けてしばらく歩いていくと、大きな屋敷が見えてくる。
武家屋敷だろうか、立派な外観をしており、ひときわ目立つ建物だ。
屋敷が気になりつつも、もたもたしてはいられないと無視して通り越そうとしたとき、敷地内から定番の声が聞こえてきた。
「お皿が1枚……。お皿が2枚……」
咲哉は興味津々で屋敷内へと足を踏み入れる。
そこには井戸の上にたたずみ1枚づつ皿を数える女がいたのだった。
女は死装束をまとっており、頭には幽霊定番である白い三角布を着けている。
「おお! 定番どおりテンプレートだ!」
「お皿が3枚……。お皿が4枚……」
咲哉が見つめる中でどんどん皿を数えていく女。
「お皿が5枚……。お皿が6枚……。お皿が7枚……」
「もうすぐ数え終わるな。あの名シーンをこの目で見ることができるとは」
「お皿が8枚……。お皿が9枚……」
「やっぱり1枚足りない。うらめしやだろ?」
「え!?」
きょとんとする女。せっかく締めの言葉をいおうしてところで咲哉にいわれてしまったのである。
咲哉みたいに空気を読まないやつは実社会では確実に嫌われるだろう。
「早く続きをいえよ。1枚足りないんだろ?」
既に数えたはずのお皿をさらっと反対の手に持ち換える女。
そして何事もなかったように皿を数えだす。
「お皿が10枚……。やっぱり、1枚多い……」
「はあ? どう考えてもおかしいだろ! 既に数えた皿を数え直して、水増ししてんじゃねえよ!」
「うるさいわね! きちんと10枚あるわよ!」
「逆ギレしてんじゃねえ! どう見たって9枚しかないだろうが!」
「はあ? あんた目が腐ってるんじゃないの? 10枚ありますよーだ!」
さすがに呆れて声のつまる咲哉であったが、これでは拉致があかないと思い、とりあえず10枚あることを認めて話を先に進めることにする。
「分かった。とりあえず、皿は10枚あるとしよう」
「そうよ。10枚あるのよ!」
「さっき、お皿が10枚、やっぱり1枚多いって、いっていたよな?」
「そうよ。だから何よ!」
「で、それからどうするんだ?」
咲哉がいいたいことは、本来なら10枚あった皿のうち1枚を割ってしまい、そのことで処刑をされて化けて出るという設定だったということだ。
10枚あるなら処刑されることもなくハッピーエンドとなってしまうので、どうするんだと幽霊に聞いているわけである。
「それからどうするって……。¨お皿が10枚、やっぱり1枚多い。うやめしやー¨に決まっているじゃない!」
「はあ? 10枚あって1枚多いなら問題ないっうか、むしろラッキーじゃねえか?」
「あっ、そういわれるとそうね……。じゃあ、お皿が10枚、やっぱり1枚多い……。えっと、だったら叩き壊せばいいのよ!!」
「うお! あぶねえ! 皿を投げんじゃねえ!」
1枚どころじゃなく、次々と咲哉に皿を投げ続ける女。
「ふぅ。これでお皿は0枚よ。すっきりしたわ」
そういうと女は井戸の中へと消えていくのだった。
「はあ、何だったんだアレは……」
咲哉の作ったお化け屋敷にいる幽霊は、全て自立式のAI(人口知能)が組み込まれている。
テンプレートとなる思考はあるが、自由意思を持っているので不測な事態にも対応できるようになっている。
咲哉が予期せぬ行動を取ったので、今回のような顛末になってしまったのだ。
子泣きジジイが暴走した件も全く同じ理由である。
咲哉が絡むと定番通りにいかないのだった。
咲哉が途方にくれていると騒がしい声が外から聞こえてきた。
屋敷を出て声のする方向を振り返ると……。
「いやー! 助けてー!」
セクメトが何かに追われて猛スピードでかけてきていた。
「お兄ちゃーん!」
咲哉を見付けて抱きつくセクメト。
「ん!? あれはテケテケか?」
「テケテケテケテケテケテケテケテケ!」
咲哉は抱きついているセクメトを背後に降ろすと、そのまま体を反転させた勢いでテケテケの顔を右足で蹴り上げた。
そして左足を振り上げ、上空に吹っ飛んだテケテケに踵落としを食らわせる。
地面に叩きつけられたテケテケは痙攣したまま動かなくなった。
「間近で見ると、テケテケはマジで気持ちが悪いな」
そういうと咲哉はテケテケを引きずって、皿女がいた井戸の中へと放り投げる。
「何か落ちてきたー!!」
皿女の叫び声が聞こえたような気もするが、咲哉は気が付かないふりをするのだった。
「セクメト、大丈夫か?」
「えーん! お兄ちゃーん! こわかったよー!」
びびりまくりなセクメトを見て、これでも龍かと内心思う咲哉であったが、とりあえず頭を撫でて落ち着かせることにする。
「俺がいるから、もう大丈夫だ。セトを探すぞ」
「うん!」
咲哉の手を握りながら安心して着いてくるセクメトだった。
◆ ◆ ◆
「あれは何だ? 血か……?」
民家の庭から赤い液体が流れ出してきていたのだ。
「お兄ちゃん、ちん、ち、血なの?」
「わからん。とりあえず、見に行ってみるか」
ビクビクしながら咲哉に着いていくセクメト。
庭先に立ち入ると、大きな釜が転がっており、その横に気を失ったセトが倒れていたのだった。
「どういう状況なんだ、これは?」
「カマにおそわれたー」
「どうだろな? 釜が倒れて赤い液体がこぼれたみたいだが」
気絶しているセトを容赦なく叩き起こし状況を確認しようとする咲哉。
「うっ、腕が! 煮えるー! はふ……!? サ、サクヤではないか?」
「腕が煮えるって何だよ?」
「危うく釜で煮られて食われるところじゃったんじゃ!」
「龍の煮物か……。それは旨いのか?」
「我の煮物なら旨いに決まっておろうが! って、違う! 食ってはダメじゃ!!」
「何怒ってんだよ。冗談に決まっているだろ」
冗談といいつつも、旨いなら本当は食べてみたいと思っているのが咲哉である。
例え『食ったしてもモンスターサモンで召喚しているから24時間経ったら復活するし、問題ないんじゃねえ?』とか思っているから、始末に負えない性格の悪さだ。
「まっ、冗談はさておき、そろそろお化け屋敷を出るか」
「もう、こりごりじゃ。出れるもんなら、今すぐにでも出してほしいわい」
「はやく、でたいー!」
もうすぐお化け屋敷から出ることができそうな表現をした咲哉であったが、そう簡単に脱出できるわけがない。
なんせここは咲哉が作ったお化け屋敷なのだから。
「よし、出発するぞ。今度こそ俺からはぐれるんじゃねえぞ? あと、足下にもきちんと気を配れよ」
咲哉の誘導で無事に民家が建ち並ぶ場所を抜けて、一同は山道に差し掛かる。
「この山を登るのか?」
「いや、山は登らないぞ。こっちに出口へと続く道があるからな」
セトの問いかけに山道の横を抜けて、出口へ続く道を案内する咲哉。
「ここが出口へと続く道だ」
そこには小さな洞窟があり、奥に光が射し込んでいた。
「あの向こうが出口か? 我が一番乗りじゃ!」
「セトに負けないー!」
喜び勇んで洞窟の光に向かって走り出す二人。
「ちょっと待て!」
咲哉の制止する声など聞こえないのか、猛スピードで洞窟を走っていく。
しかし、そんな二人の姿が一瞬にして何処かに消えてしまった。
「あーあ、だからいったのに。足下にも気を配れってよ」
セトとセクメトは突然あいた地面の穴に、真っ逆さまとなり落ちていってしまったのだ。
「よし。俺も続くか」
そういうと咲哉は底の見えない穴に向かって飛び降りるのだった。
穴は何処に続いているのか?
勘のいい人ならすぐに分かる行き先です(微笑)




