21-人間やめました
「止まれ!」
首に爪を突き刺された咲哉は、命を刈り取られる直前に世界構築スキルを発動させ、女の動きを停止させることに成功した。
深い傷のように見えるが命に別状はない。
しかし、ちょっとでもスキルの発動が遅ければ即死していた可能性が高いだろう。
「お兄ちゃん! 大丈夫!?」
「ああ、かすった程度の傷だ。それにすぐ治せる」
見ただけでかすった程度といえない傷であることは分かるのだが、世界構築スキルを使って一瞬で回復させ、セクメトを安心させる。
「しかし、これはどういうことだ? こいつがセクメトの姉ちゃんなんだろ?」
飛びかかった姿勢のまま宙に停止している女を見て、咲哉は怪訝そうに尋ねた。
「お姉ちゃん、ぼうそうしちゃった」
「暴走?」
「血を飲まないと、ぼうそうするー」
何だか物凄い勘違いをしていたのではないかと、ひとつの考えが咲哉の頭によぎる。
「ひょっとして、姉ちゃんは龍じゃないのか?」
「ちがーう! ばんぱいあー」
「やっぱり、そうか……」
咲哉の予想は的中した。セクメトのお姉ちゃんは龍ではなくヴァンパイアだったのだ。
よくよく考えると、人間である咲哉のことをお兄ちゃんと呼んでいるのだから、お姉ちゃんが龍ではない可能性も充分あったのだ。
「うーん。どうすっかな」
とりあえず、動きが停止しているヴァンパイアのステータスを確認してみる。
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【ステータス】
名前:ヴァンパイア・クイーン
種族:魔族
種別:夜魔
ランク:EX
属性:闇
称号:第一始祖・幻影の支配者
LV:93
HP:27694/27694
MP:42644/42744
STR:1569
INT:1781
DEX:1527
AGI:2185
特性:耐肉体(大)・耐精神(大)・耐闇(極大)・耐ドレイン(大)・耐即死(大)・弱光(極大)
STR系スキル:ブラッディバレット・ブラッディソード
INT系スキル:ドキットチャーム・シャドウバインド・シャドウモンスター・識別の魔眼・幻影の魔眼・エナジードレイン
DEX系スキル:ヴァンパイアインフェクション・チェンジソーサリー・キャッスルクリエイト
AGI系スキル:シャドウキリング・ファントムアクセル
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セトやセクメトと比べると、かなりステータスが劣っているが、物騒そうなスキルの多いことからスキル特化型のモンスターなのであろう。
「セクメト、姉ちゃんは血を与えれば大人しくなるんだよな?」
「うん!」
「そうか。じゃあ……」
しばらく考えていた咲哉は空中から赤い液体の入った瓶を出現させる。
そしてそれを女の口に流し込んだ。
「これでオーケーと、動いていいぞ」
空中で停止していた女は、糸の切れた操り人形のようにその場で崩れ落ちた。
「モンスターイート!」
咲哉はすかさず女に触れてモンスターイートで取り込む。
瀕死のモンスター以外は取り込めないはずなのだが、いったい何をやったのだろうか。
「これで完璧だな。モンスターサモン!」
取り込んだかと思うと、すぐに召喚をする咲哉。
銀色の長い髪をなびかせた美しい女が姿を現した。
女の着ている赤いドレスは露出が高く、豊満な胸を強調している。
男なら誰でも見惚れてしまうだろう魔性の魅力を感じた。
「あら……。私は何をしていたのかしら? そこにいるのは赤龍ちゃんよね?」
おっとりとした色気のある声が妖艶な雰囲気を助長させている。
「お姉ちゃん!」
お姉ちゃんに勢いよく抱き付くセクメト。
「あらあら、急に甘えてきて、どうしたのかしら?」
「お姉ちゃん、ぼうそうしてたー!」
「まあ……そうだったのね。我慢し過ぎちゃったみたいね。うふふ」
「我慢し過ぎたってなあ、危うくこっちは殺されかけたのだが?」
特に動揺も反省もしていないおっとりした女の様子に咲哉は怪訝な態度を示す。
「迷惑かけちゃったかしら? けど、見たところ元気そうだし、お姉さんが抱き締めてあげるから許して欲しいわ」
そういって咲哉を抱き締める女。
「ちょ、ちょっと! ま……」
ちょっと待てといおうとしていたようだが、やわらかく豊満な胸を押し当てられ、それどころじゃなくなってしまう咲哉だった。
「うふふ。真っ赤になっちゃって、かわいいのね」
「わっ、分かった! 許してやるから、とにかく離れろ」
ますます顔が赤くなる咲哉だったが、どうにか女を押し退けるのに成功する。
「ところで、真っ赤な顔の貴方さんは、何処のどなたなのかしら?」
「お兄ちゃんだよー!」
「お兄ちゃん? 龍じゃないわよね……あら、人間?」
咲哉は気が付かなかったが、このときセクメトのお姉ちゃんであるヴァンパイアクイーンは識別の魔眼を発動していた。
識別の魔眼は咲哉の作ったアナライズスコープを劣化させたようなスキルで、ステータスの参照とアイテム鑑定をすることができる。
アナライズスコープよりは劣っているので相手がどんなスキルを所持しているか見ることはできない。
「あら……? あなたは、本当に人間なのかしら?」
「俺はれっきとした人間だ。何をどう考えたら人間じゃないって結論になるんだ?」
「だって、あなたは、まるで……そう、化物みたいなステータスよ」
「はい? いやいや、化物って……お前よりはステータスが低いだろうが」
「謙遜かしら? お姉さんは何でもお見通しなのよ」
咲哉はすっかり失念していたが、お姉ちゃんのいっていることのほうが正しい。
モンスタープリズンクラスのモンスターを既に三体も取り込んでいる咲哉のステータスはとんでもないことになっていたのだ。
まさかと思い咲哉は自分のステータスを確認する。
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【ステータス】
名前:サクヤ・カンバヤシ
種族:人間
種別:転生人
年齢:18才
称号:外道
ジョブ:神の使徒
サブジョブ:モンスターイーター
LV:1
HP:83056/14000(83056)
MP:79788/28000(79788)
STR:250(7438)
INT:500(7340)
DEX:100(2838)
AGI:149(3654)
STR系スキル:ダーククロウ・ダークファング・ダークテイル・ダークオーラ・ダークスマッシュ・多重障壁・龍王の貫禄・ダークインパクト・ファイアークロウ・ファイアーファング・ファイアーハッキング・ブラッディバレット・ブラッディソード
INT系スキル:モンスターイート・モンスターサモン・モンスターリリース・世界構築(機能制限版)・ネームオーダー・ダークブラスト・ダークブレス・ダークインフェルノ・ファイアーボール・ファイアーストーム・ファイアーブレス・マナオーラ・エクスプローション・多重結界・龍王の威圧・ペスティレンスブレス・ディジーズコンバレセンス・ドキットチャーム・シャドウバインド・シャドウモンスター・識別の魔眼・幻影の魔眼・エナジードレイン
DEX系スキル:ヴァンパイアインフェクション・チェンジソーサリー・キャッスルクリエイト
AGI系スキル:シャドウキリング・ファントムアクセル
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自分のステータスを見て唖然とする咲哉。
龍であるセトやセクメトに匹敵する……いや、トータル的には完全に上をいっている。
しかも、これでまだレベル1なのだから、この先、さらにとんでもないことになるのは目に見えている。
咲哉が『俺、人間やめました』と思った瞬間であった。
モンスターイートは取り込んだモンスターのステータス値、最低10から最大50パーセントが自身のステータスに増加されるスキルだ。
INTが高い咲哉は当然の如く最大値である50パーセント分のステータスが増えている。
ちなみに咲哉のアナライズスコープでは、元のステータス値の右横にカッコ書きで、増えた分の数値が表示されるようになっている。
これは何らかのスキルやアイテムを使用してステータスを増加させていることが分かるようにするための仕様だ。
しかし、アナライズスコープより性能が劣る識別の魔眼では、増えた分の値しか表示されていない。
よって、セクメトのお姉ちゃんから見ると、レベル1なのにも関わらず化物じみたステータスの人間と思われる結果になってしまったのだ。
「いや、まあ、あれだな。とにかく俺は人間だ。うん、そういうことで」
「うふふ。そんなに強いのに謙虚なのね。ところで……」
「あん? まだ何かあるのかよ」
「転生人や神の使徒って何のかしら?」
「ああ、まあ、その話はおいおいな」
セトにも話していないことをここでいってしまうのは、確実にトラブルになる。
セトが怒りだすことが目に見えているからだ。
そんな面倒なことにならないように口を濁す咲哉であった。
「あっ、そういえば暴走していたときの記憶はあったりするのか?」
「残念ながら記憶はないのよ。あなたに、あんなことや、こんなことをされてしまったのかもしれないのだけど……うふふ」
「あんなことやこんなことって!? まあ、あれだ。お前は暴走して俺に倒され……」
「あら、あなたに押し倒されちゃったのかしら? 記憶がないのが残念ねえ」
「お兄ちゃんが押したおしたー」
「違う! ったく、お前も誤解を招くようなことをいうのはやめろ」
「てへへ」
「てへへじゃねえ!」
この二人は本当の姉妹ではないが、こうみると実の姉妹に見えてくるから不思議である。
もはや呆れてしまい口を開くのが面倒になる咲哉であったが、我慢して続きを説明することにする。
「とにかく、倒されたお前はモンスターイートのスキルで俺に取り込まれ、今は召喚されている状態ってことだ」
「よく分からないけれど……。身も心もあなたの物になったって、ことかしらね?」
ある意味正しく、ある意味間違っている言葉に答えをつまらせる咲哉であった。
突然だがここで咲哉がどうやってモンスターイートで取り込んだかを説明しておこう。
これは特に焦らすほどのことでもなく、物凄く単純な方法である。それは世界構築スキルで作り出した血に瀕死の効果を付与していたのだ。
血を飲むと瀕死になるという、かなり極悪非道なことをやらかしていたのである。
しかし、不老不死のヴァンパイアを正攻法で瀕死にするのは非常に難しい。
また、咲哉自身が危うく命を落としかけたことから自分の身を守るという側面で、あえて非道なことをしたのだ。
咲哉はお世辞でもいい人間とはいえないが、だからといって非道であったりはしない。
しかし、殺されかけてまで人道的見地を貫いたりはしないのだ。
敵対する者に容赦はしない、所詮はヤンキーなのだから。
「身も心もお兄ちゃんのものー! お姉ちゃんもセクメトと同じだねー!」
またまた突然誤解を招くようなセクメトの言葉であったが、そのお陰で話がそれることになる。
「あら、赤龍ちゃん? セクメトって何かしらー?」
「お兄ちゃんに名前つけてもらったー」
普段の呼び方をセクメトの姉ちゃんやヴァンパイアクイーンと呼ぶのも微妙だなと思った咲哉は名付けを行うことにした。
「そうだな。お前にも名前を付けてやろう」
「あらあら、殿方に名前を付けられるなんて……まるで、お前は俺の物って、独占されているみたいでいいわねえ」
「いや、まあ……。あっ、お前はヴァンパイアだから、やはり日光は苦手なのか?」
うまく話をそらしたように見える咲哉であるが、きちんと考えがあっての質問だった。
「ええ、残念ながら昼間のデートはできないわ。灰になっちゃうもの……」
「やはり、そうか……。なら、お前の名前は今日から¨夜魔王・デイウォーカー・ヘカーテ¨だ!」
「あら……。何だか体が熱い……。あん!」
微妙にいやらしい声が出ているような気もするが、ネームオーダーの効果で体に変化が表れていた。
体に黒いオーラが噴き出したかと思うと、次の瞬間には光に包まれ、収まったときには――
「いやん!」
胸が明らかに一回り、いや二回りは大きくなり、ドレスが弾け飛んでしまったのだ。
「もう……エッチなのね……」
恥じらいながら胸を押さえる姿が何ともセクシーであり、目のやり場に困る咲哉。
「まあ、これは事故だ。俺がエッチというのは否定しないが、今回は完全に事故だ」
否定しないのかよ……という突っ込みは、まあ、しない方向で。
「それより、これでおそらく日の光が平気になっているはずだ」
「日光が平気に? 胸が大きくなっただけのように感じるけど……。うふふ。本当だったら嬉しいわねえ」
「まあ、外に出てみれば分かるさ」
咲哉がネームオーダーで付けた『夜魔王・デイウォーカー・ヘカーテ』は、『夜魔王』と『デイウォーカー』が合わさる一見すると矛盾した名前のように感じる。
夜魔とは夜を暗躍する魔族という意味であり、デイウォーカーとは昼でも出歩けるヴァンパイアという意味になるからだ。
咲哉の考えとしては、夜魔の王に昇格させることで、日の下を歩くことができる最強のヴァンパイアであるデイウォーカーになる、という意味を含ませている。
ちなみに、ヘカーテという名は、天界、地上、冥界を司る三位一体の女神のことであり、これも日光を平気にさせることを増強する意味合いを持たせて名付けられていた。
咲哉のくせに、きちんと考えて名付けられているのがびっくりであるが、実は神話や映画好きだったのが功を奏した結果でもある。
ヴァンパイアであるヘカーテは、日光が平気になることなど、まるで信じていない。
しかし、それに反して咲哉は妙に自信満々だ。
これで外に出て灰になっちゃう……なんて落ちは勘弁してもらいたいところであるが、いったい、どうなってしまうことやら。




