15-ジェットコースター
「そこの乗り物に乗って、そのヘルメットを被ってくれ」
咲哉が説明しているのはジェットコースターの乗り方である。
しかし、ジェットコースターといってもレールがひかれているわけでもなく、小型の飛行機が城の壁に向かってぽつんと置かれているだけだ。
乗員が6人でいっぱいという小さな飛行機である。
「今度はなんじゃ!? ワクワクするのう!」
「つけたよー! たのしみー!」
アスナルドに飛行機は存在しない。
二人とも見たこともない乗り物に大興奮しているように見えるが、まあ、そんなことは関係なくネームオーダーの効果でハイテンションだったりする。
「俺がこのレバーを前に倒すと出発する。ヘルメットは被ったな?」
「とっくに被っておるわい! 早く出発するのじゃ!!」
「お兄ちゃん、いっていいよー! はっしゃしてー!」
自分の力作であるジェットコースターに乗り興奮している二人を見て、満足した表情の咲哉はレバーを前に倒す。
小型飛行機を乗せた台が斜め45度に傾いていき、城の壁が扉のように開いた。
そして、音声ナビのカウントダウンがスタートする。
「3、2、1、発射!」
勢いよく空へと飛び出していく小型飛行機。
その速度は秒速20キロメートルに達し、5秒ほどで大気圏を抜けて宇宙空間へと到着したのだった。
「なんじゃこれは!? 物凄い速さで飛び出したかと思えば……」
「お兄ちゃん、ここはどこー?」
「ああ、ここは宇宙だ。そんなことより、次はワープをするぞ」
宇宙を知らない二人であったが、面倒な説明はさくっと省かれる。
咲哉もどうやって教えたらいいか分からなかったのだ。
所詮はヤンキーレベルの学力である。
目の前に光輝くゲートが出現し、小型飛行機は吸い込まれるように突入した。
「ワープ!」
どや顔で叫ぶ咲哉。
端から見ると非常に恥ずかしい光景だが、本人は凄く格好いいと思っていたりする。
実際は叫ぶ必要など一切なかったりするのだが。
小型飛行機の中は、座席から外を360度見渡せるようになっており、ワープゲートを抜けた先はとんでもないことになっていた。
そこには、けたたましい爆発音とともに無数の光が飛び交っていたのだ。
周りを見渡すと、たくさんの宇宙戦艦が砲撃戦を繰り広げている真っ只中だったのである。
「うおー! サクヤ! 何か撃ってきたぞ!!」
「キャハハハ! あぶないあぶないー!」
宇宙戦艦から放たれたビームをすんでの所で交わすが、ビームの放射はとどまること知らない。
「ぶつかる、ぶつかるぞ! サクヤー!」
「キャハハハ! ぶつかるぶつかるー!」
放たれたビームを次々と交わしていく小型飛行機。
そんな緊迫した状況の中で、さらなるトラブルが襲う。
ブザーとともに警告メッセージが鳴り響いたのだ。
「警告! 警告! ロックオンされました! ロックオンされました!」
「うお、ロックオンとは何じゃー!」
「キャハハハ! ろっく! ろっくー!」
「後ろから戦闘機が追ってきているだろ? あれのターゲットにされたってことだ」
淡々と説明をする咲哉であったが、本来はそんな余裕あったりはしない。
迫りくる戦闘機からホーミングミサイルが発射されたのだ。
迫りくるホーミングミサイル! 危うく撃墜かと思われたが、急速旋回をして間一髪でミサイルを交わす。
「うお! ヤバイではないか! 反撃じゃ、反撃!!」
「セトよ。残念ながら、反撃する機能はない!」
「なんじゃとー!」
連続して2発、3発とミサイルが発射され、それを右に左に急旋回をしながら次々と交わしていく。
「なんなんじゃアイツは! しつこいのう!」
「キャハハハ! しつこいー!」
このままロックオン状態でミサイルを発射され続ければ、確実に撃墜される。
しかし、ここで事態は好転する。
背後で大爆発が起こり、後ろから迫ってきていた戦闘機が跡形もなく吹き飛んだのだ。
咲哉たちの乗る小型飛行機の横を見知らぬ戦闘機が並行飛行してくる。
そして、戦闘機の中にいるパイロットが親指を立ててサムズアップをしたのだ。
「グッドラック!」
まるで、そんな声が聴こえてきそうな名シーンである。
「なんなんじゃ!?」
「あのパイロットが後ろの戦闘機を撃墜してくれたんだろうな」
「うおー! やつは英雄じゃ! 英雄!!」
「えいゆうー! かっくぅいー!」
テンションマックスな二人。
英雄ともてはやしたパイロットがこの後すぐに撃ち落とされてしまったことは……知らないほうが幸せだろう。
「戦闘空域を離脱する! ワープするぞ!」
戦闘から逃げるように小型飛行機は光のゲートへ飛び込みワープをした。
ワープ先にさらなるトラブルが待ち受けているとも知らずに。
「うお! 今度はなんじゃ!?」
「おっきい、いわー! ぶつかるー!」
ワープした先は、無数の隕石が飛び交う場所だった。
次々と小型飛行機に向かってくる隕石を次々と交わしていく。
「グワッハハハ! どうせこの巨大な石もぶつからないのであろう? さすがにもう慣れたわい!」
「ぶつからないー?」
機内に強い衝撃音が響き渡る。
「なな、なんじゃ!?」
すっかり油断していたセトであったが、人生そんなに甘くはない。
しかし、甘くない人生だからこそ楽しみたいと思うのが人であろう、多分……。
「警告! 警告! 隕石が衝突しました! 乗員はすみやかに消化活動を行ってください!」
「セト、セクメト! そこの消火器を取って急いで消火をしろ! もたもたしてると墜落するぞ!!」
セトとセクメトに消火器の使い方を教えて、急いで消化をさせる。
墜落したら洒落では済まない。
「こっ、これでいいのか!?」
「しょうかー!」
消火器から勢いよく水が飛び出し、どんどんと火が弱まっていく。
「消火を確認しました! 自動修復機能を作動いたします」
船内アナウンスが流れたと同時に、隕石郡からも無事に脱出したのだった。
「よし! またワープをするぞ!」
「ワープ! ワープ!」
「またワープをするのか? ワープ後は録な目に遭わんから嫌じゃ!」
セクメトは喜んでいるようだが、セトはワープ後に録なことが起こらないと悟ったらしい。
まあ、実際にその通りである。
ワープゲートを抜けた先で小型飛行機がガタガタ音をたてて揺れだしたのだ。
「警告! 警告! 宇宙嵐に巻き込まれました! 乗員は衝撃に備えてください!」
強風にあおられ小型飛行機は吹き飛ばされる。
そして、ぐるぐる旋回をしながら急降下していくのだった。
「うわー! 目が回るー! サクヤ、どうにかするのじゃ!」
「キャハハハ! ぐるぐるするー! ぐるぐるー!」
墜落していく飛行機であったが、まだまだトラブルは終わらない。
宇宙といえばお約束のアレが待っているのだ。
「警告! 警告! 後方にブラックホールが出現しました!」
ブラックホールが急に出現するなど本来は有り得ないことかもしれないが、ここは異世界である。
ファンタジーとは何でもアリな世界なのだ!
旋回しながら墜落していた飛行機だが、今度はぐいぐいと後方に引っ張られる。
「ブラックホールとはなんじゃ? 後ろに引っ張られているのは気のせいか!?」
「ああ、確かにブラックホールに吸い込まれているみたいだな」
「なんじゃと? ブラックホールに吸い込まれるとどうなるんじゃ!?」
「吸い込まれると、この飛行機は消滅するな」
「消滅じゃと? それは、まずいのではないか!?」
「キャハハハ! しょうめつー!」
妙に冷静な咲哉であるが、ブラックホールに吸い込まれると跡形もなく潰されて消滅してしまうだろう。
モンスターサモンで召喚されているセトやセクメトであってもスキル使用者の咲哉が死ねば元も子もない。
「ブースターを作動させる。しっかりつかまっていれよ!」
咲哉がそういうと、小型飛行機から勢いよくジェットが吹き出された。
しかし、そのかいもなくあっさりとブラックホールに吸い込まれてしまうのだった。
機体がミシミシ音をたてて、きしんでいく。
最後には潰れて、木っ端微塵となってしまうだろう。
「わりい……。俺たち死ぬわ」
「なんじゃとー!!」
「お兄ちゃん、ばいばい」
それが、咲哉、セト、セクメト……最後の言葉であった。
「あなたたちは宇宙の藻屑となりました」
目の前に不吉な文字が浮かび上がる。
「ううっ、なんじゃ!? 我は生きておるのか……?」
「お兄ちゃん、ただいまー」
「そりゃあ、生きているだろうよ。俺が作った渾身のバーチャルマシンだからな」
「なな、なんじゃと?」
「だから、バーチャルマシンだよ。お前らは仮想現実を楽しんでいたんだよ」
「楽しんでないわ!」
「あたしは、たのしかったよ!」
ハイテンションモードなのにも関わらずご機嫌斜めなセトと、相変わらず能天気なセクメトであった。
次回はお化け屋敷に突入!
ネームオーダーの効果がどう影響するのか?




