10-どや顔
すっかり日が登り朝を迎えた頃、咲哉とセトは徹夜で遊び続けていた。
娯楽室にハマったセトの喜び具合に調子づいた咲哉は、オセロに囲碁、将棋やチェス、トランプ、ウノ、花札、麻雀と娯楽品を次々と作ったのだ。
特に麻雀の奥深さはセトの琴線に触れるものだったらしく、面子が足りなくて4人麻雀はできなかったが、ワイズを入れた3人麻雀で熱く盛り上がってしまった。
初心者であるセトが咲哉やワイズに勝つことも度々あったのだから、短い時間でかなりの密度だったともいえる。
もちろん、ワイズに真面目にやられると誰も勝てなくなるので、手加減を命じていた咲哉であったが。
「もう朝じゃねえか。ちょっと昼まで寝かせてくれ……。赤龍のところは、それからだ」
「うむ。もう朝か。楽しい時間はあっという間に過ぎるのう」
「っうか、セトは眠くないのか?」
「我は1週間くらい不眠不休でも大丈夫じゃ」
「タフだな……」
微妙に呆れつつも龍の生態はそんなものなのかと寝室で眠りにつこうとした咲哉だったが、肝心なことを思い出す。
「そういえば、セトの召喚時間のリミットってどのくらいなんだ? 分かるか? ワイズ」
モンスターサモンで咲哉の体から呼び出されセトには召喚時間が存在し、その時間はINTの大きさで左右される。
「咲哉様のINT値は500ですので、召喚時間は無制限でございます」
「無制限なのか? そうか、だったらいいか」
咲哉は特に何の疑問も感じることなく、そのまま布団に潜り込むのであった。
転生クエストのキャラクター作成で咲哉は初期ボーナス値999を出し、STR250、INT500、DEX100、AGI149に振り分けた。
実は種族が人間の場合、レベル99になったとしてもINT500には届かない。
INT系のレアジョブだったとしても、レベル99でINTが300に届くか届かないかくらいなのだ。
このことから考えると、モンスターサモンの召喚時間がINT500で無制限というのは、不思議でも何でもない話だといえる。
咲哉は龍族でも最強クラスであるセトの異常なステータスを見たせいで、自分のステータスが高いとは思っていない。
しかし、実際はレベル1なのにも関わらず、既にレベル99を超す強さを持っているのだ。
人間の中ではきわめて桁外れな存在だといえる。
咲哉がこのことに気が付くのはもう少し先の話であるが。
◆ ◆ ◆
「よし、眠気も覚めたし、赤龍のところへ行ってくるか」
寝室から出た咲哉は風呂に入り、セトの姿を探す。
「お目覚めですか。咲哉様」
風呂から上がるとワイズが声をかけてきた。
「セトは何をしている?」
「セト様はバーチャル格闘ゲームをなさっております」
「そうか。じゃあ、飯を食ったらそっちに顔を出すか」
セトが遊んでいる格闘ゲームは、頭にバーチャルメットを被ることにより、意識を仮想空間へ飛ばし、本物さながらの臨場感を体験できるというものだった。
もちろん、このゲームはアスナルドのどこにも存在していない。
精神魔法を使えば代用できるかもしれないが、咲哉の作ったゲームのように細かくシステムを構築することはできない。
現存するどんな魔術師や魔導師にも不可能なことだろう。
まさに、世界構築スキル様様である。
食事を済ませた咲哉は、ゲームが一段落したことを見計らってセトに声をかける。
「セト、そろそろ赤龍のところへ行くぞ」
「おっ、もうそんな時間か」
「赤龍のところにはどうやって行く? 転移でか? それとも城で行くか?」
「何!? 転移じゃと? サクヤは転移魔法も使えるのか? んん!? それより城で行くとはどういうことじゃ? この城は動くのか?」
「セト君、この城は空を飛ぶだよ」
「なんと! 空を飛ぶ城か!! そんな城は伝説上でしか聞いたことがないぞ」
どや顔の咲哉に興味津々のセト。何気にこの二人はいいコンビかもしれない。
新しく増えた城の3階部分は、ネームオーダーの力で主砲の発射室が増設されていた。
咲哉はこの部屋を世界構築スキルを使って、コントロールルームへと進化させたのである。
ちなみに主砲は天守閣から出ている龍の口から発射される。
「なんじゃ、これは!? 室内なのに外が見えるのか?」
終始興奮しっぱなしのセトがびっくりしているのは、コントロールルームから見える景色である。
そこには360度パノラマの風景が広がっていた。
ガラスを通して外が見えるわけではなく、映像としてスクリーンに投影されているのだ。
「咆哮龍牙城! 発進!!」
本日2度目のどや顔をした咲哉は城を浮上させる。
この城にはオートコントロール機能があり、コントロールルームに表示されている地図を指定することで目的地まで自動飛行される。
「ワイズ、赤龍はどこにいるか分かるか?」
「ここでございます」
ワイズは地図を指差し、赤龍のいる場所を咲哉に教えた。
「オートコントロール機能発動! ステルスモード発動! 万物遮断結界展開!!」
「おおー! かっこいいのお!!」
どや顔マックスな咲哉に興奮しっぱなしのセト。これから赤龍と戦いに行くとは思えない二人であった。
「ワイズ、赤龍のいるところまではどのくらいで到着するんだ?」
「この城は時速100キロの速度で飛行しておりますので、目的地までは2時間ほどで到着いたします」
「2時間? ここから200キロぐらいの距離か。思ったよりも遠いな。ひょっとすると、この島は予想以上にでかいのか? ワイズ、島の面積ってどのくらいあるんだ?」
「島の面積は、8万4472平方キロメートルでございます」
「確か……北海道がそのくらいの面積だったよな」
島ということから、もっと小さいものを想像していた咲哉だが、世界の大きさから考えると、北海道クラスの面積でも充分島である。
「サクヤよ。到着まで2時間もあるのなら、バーチャル格闘ゲームで対戦をしようではないか」
「おっ、自信ありそうだな?」
「サクヤが寝ている間に、爆殺滅龍剣の使い手であるジークで、ずいぶん特訓をしたからな」
「そうか。じゃあ、俺はウォーターフォールキックの使い手であるグレイブで返り討ちにしてやろう!」
これから赤龍と戦うというのに、いつまでも緊張感のない二人であった。
◆ ◆ ◆
「咲哉様、そろそろ目的地に到着いたします」
バーチャルメットを外した咲哉とセトは、コントロールルームへと移動する。
ちなみに格闘ゲームの戦績は24戦14勝10敗で咲哉が勝ち越した。
それでもセトも10勝しているのだから、特訓をしたというのは伊達じゃなかったらしい。
「咲哉様、少々問題がございます」
「ん? なんだ?」
「この先はモンスターの立ち入りを拒む結界が張っております」
「なるほど。セトはモンスターだから影響を受けてしまうわけか」
悩む咲哉は召喚状態のセトを一旦自分の体に戻し、結界を越えてから再召喚するということも考えたが、何となく可哀想な気がしてやめる。
「世界構築スキルで結界を無効化することは可能か?」
「さすがの世界構築スキルでも、神の作った結界を無効化するのは不可能でございます」
「そうか……。では、城ごと転移するというのはどうだ?」
「それでしたら可能でございます」
世界構築スキルは神から授かった力であるから、神を超える力を発揮することはできない。
ある意味これは仕方のないことであろう。
しかし、抜け道として、城ごと転移で結界を越えることはできるのだ。
これはモンスタープリズンに転移魔法を使えるモンスターがいないからこその抜け道であった。
「よし、城ごと目的地に転移させるぞ」
世界構築スキルを使って城に転移機能を追加する咲哉。
コントロールルームに表示されている地図から目標地を指定することで、自在に転移できるようにしたのだ。
もう何でもありの城である。
「咆哮龍牙城! 転移!!」
転移した先は山の中腹だった。コントロールルームの映像を確認すると、大蛇のように体の長い赤龍がとぐろを巻いている。
東洋風の龍だ。
体は真っ赤というより赤褐色に近いだろうか。
ステルスモードを機動しているので、赤龍は城の存在を認識することは出来ない。
「あれが赤龍か。セトと違って東洋風の龍なんだな」
一人言を呟く咲哉にセトは大きな声を上げて宣言する。
「よし! 今からあれをぶっ倒してくるぞ! 我の雄姿をそこから見ているのじゃ!!」
そういうと天守閣から人型のまま飛び出し、空中で龍の姿へと変化した。
既にダークオーラのスキルを発動し、セトは臨戦体制である。
ネームオーダーでパワーアップしたセトは赤龍に勝てるのであろうか。




