9-咲哉の城
「じゃあ、とっとと赤龍をぶっ倒しにいくか? ん……待てよ。やっぱり疲れたから明日にしねえ?」
「疲れたって、サクヤが戦うわけではないであろう」
「いや、まあ、そうなんだけどよ。万全の体調でセトの雄姿を観戦したいじゃねえか」
「うむ。まあ、そういうことなら仕方がないのう」
簡単に丸め込まれてしまうセトは、ステータスが上昇しても脳筋であることに変わりはないらしい。
「せっかくだから、セトにも俺の城で休んでもらいたいのだが、体がでかすぎるんだよな。人の姿になったりはできないのか?」
高位の龍は人の姿に化けることができるという、どこぞで聞いた知識を思い出して咲哉は尋ねる。
「そんな器用なことはできん!」
不機嫌そうに答えたセトから想像するに、人化できる龍も存在するのであろう。
「そっか、じゃあ、これを使え」
咲哉はそういうと、セトの指に装着できるほど大きな指輪を世界構築スキルで作り出した。
「この指輪をつけて、人の姿を頭でイメージし、¨人化¨と唱えると、人に化けることができる」
「どこから出したんじゃ!? これは魔法の指輪か? こんなレアな魔道具を持っているとは、サクヤは凄いのう!」
「まあな……」
世界構築スキルのお陰なのだが、特に触れることもなく自分の手柄とする咲哉であった。
指輪にはサイズの自動調整機能がついており、人化したあとに大きさが合わずに外れてしまい、龍に戻っちゃうなんて、コントのようなことにはならない。
「ところで、この珍妙な城は何て名前なんじゃ?」
「名前か? そうだなー、城の名前は¨咆哮龍牙城¨だ」
思えば城に名前をつけていなかったなと、何食わぬ顔でネームオーダーを行う咲哉。
「おおー! この城は変形までするのか!!」
ネームオーダーの力で変形し始めた城に、これでもかってくらい大興奮するセト。
天守閣にあった金鯱は消滅し、換わりに長く鋭い角が突き出す。
屋根瓦には牙のような無数の突起がはえそろい、3回建てから4階建てに増築された。
そして、挙げ句の果てに天守閣には龍の顔が飛び出してきたのである。
龍の口内には砲門のようなものが覗いていた。
何とも異様な城に変化し、かなり引き気味な咲哉であったが、セトの期待を裏切らないようにこっそりと世界構築スキルで変形機能を追加したのは、ここだけの話である。
後に判明するのだが、実はこのとき元の城に戻る変形機能だけではなく、ステルス機能、飛行機能、万物遮断結界なども追加していたのだった。
咲哉はセトに喜んでもらえて大変気分が良かったので、がっつり城を改良したのだ。
そこには自重という言葉は一切存在しない。
「ワイズ、セトが人化したら城の中を案内してやってくれ。俺はちょっと疲れたから横になる」
「かしこまりました」
「あっ、城の中ではセトを自由にさせていていいからな」
今まで空気のような存在となっていたワイズにそう伝えると、咲哉は寝室で横になるのであった。
◆ ◆ ◆
「凄い城じゃのう! 変形するだけに留まらず、設備もまた凄いことになっておるのう!!」
「気に入っていただけましたでしょうか?」
「うむ。素晴らしい城じゃ!」
黒く短い髪に漆黒の鎧マントをまとったイケメンの姿がそこにあった。
この背が高く必要以上にイケメンな男がセトの人化した姿である。
ちなみに、鎧マントは装備品ではなく体の一部が変化したものだ。
城の中を見て、大興奮のセトであったが一番気に入ったのは娯楽室である。
その中でもダーツとビリヤードに特別興味をしめした。
今までセトにとっての娯楽は酒しか存在していなかったのだから、このようなゲームに興味を持つのは当たり前のことともいえる。
今まで見たことも聞いたこともないような遊びに大興奮である。
ワイズからビリヤードやダーツのルールを教わり熱中するセト。
全ての設備に破壊不能の効果が付与されているから、STR8000台のセトが例え乱暴に扱ったとしても決して壊れることはない。
「うーむ、ずいぶん慣れてきたが、この娯楽の真骨頂は対戦なのであろう? ワイズよ、一緒にやらないか?」
「申し訳ございません。私の技術では、セト様の足元にも及びませんので、遠慮をさせていただきます」
「そうか、無理にやらせるのもな。サクヤが起きてから一緒にやるか」
もし、セトと対戦したのであれば、ワイズが決して負けることはない。
この世界のことを何でも知っているワイズは、ダーツをどの角度でどのくらいの力加減で投げたら何処に当たるかなど、全てを把握している。
ビリヤードでも同じだ。
セトに対戦を申し込まれたワイズは、主人であるサクヤの友となったセトに圧勝をして不快な思いをさせないように、空気を呼んで自重したのだった。
「うーん、よく寝たな……」
そこに欠伸をしながら気だるそうに咲哉がやってくる。
「おお! サクヤ! この城は凄いのう!!」
「ん? ビリヤードをやっているのか? っうか、無駄にイケメンなその姿はなんだ?」
セトがイケメンに人化することなど、微塵も想像していなかった咲哉は怪訝そうに突っ込みを入れる。
「なんじゃ? この姿が気に入らんのか? この姿は人間で唯一、我と互角に戦った男を模倣しているのだぞ」
「何!? セトと互角に戦える人間がいるのか?」
「もう、かれこれ1000年くらいは経つかのう。ずいぶんと昔の話になるわい。名前は確か……レジェンじゃったかな?」
「ふーん。イケメンで強い男なんて反則だな」
セトは知らないがレジェンという男は邪神からアスナルドを救った英雄である。
彼の逸話や軌跡は文献にも残され、英雄談は絵本や物語として未だに語り継がれている。
邪龍といわれ天災として恐れられていたセトが、世界を救った英雄の姿を模倣し人化しているとは、ある意味感慨深い話である。
「サクヤはこの姿が気に入らないようであるが、我の記憶に残っておる人間なんて数えるほどしかおらんのじゃ。サクヤにレジェンと……レジェンの仲間だった女どもくらいじゃな。サクヤの姿に人化するわけにもいかんし、男となるとレジェンくらいしか残らんわけじゃ」
「イケメンの仲間は、やはり女ばかりなのか! くそっ! ムカつくな!! まあ、1000年も前の話だったら、もう死んでいるか……」
咲哉は顔だけでチヤホヤされるイケメンが嫌いだ。
いや、正直にいうと、ちょっとだけ羨ましいとも思っている。
自分のことをブサイクとは思っていないが、イケメンとも思っていない。
顔だけでモテた記憶など皆無に近いのだ。
「そんなことより、我とビリヤードで勝負をしようではないか!」
「あん!? いいけど、俺は強いぞ」
イケメンとなったセトをガツンといわせるために、闘志をあらわにする咲哉。
地球にいた頃ビリヤードとダーツはかなりハマり相当慣らしていたのである。
結果は予想通り咲哉の圧勝。
イケメンには一切手加減をしない。
「ぐぅー! 何故サクヤの打つボールは跳んだり、くねっと曲がったりするのじゃ! 卑怯ではないか!!」
「卑怯といってもな……。そういうテクニックだからな」
「我にもそのテクニックを教えるのじゃ!」
明日は赤龍との戦いだというのに、すっかり娯楽にハマってしまうセトであった。
こんなことで大丈夫なのだろうか。




