第一印象は、最悪
私、「伊崎 唯」は都内の桜庭高校に通う女子高生。
ありきたりな毎日に嫌気がさして、何となく学校も面倒で、よく授業をサボっている。そんな私でも何故か美術の点数だけは良かったので、単位稼ぎのために美術の授業だけは出席していた。とりあえず学校なんて卒業できれば良いんだ。そんな気持ちで毎日を過ごしていた。
そんな私の前に4月から産休中の先生に代わって、「鳴海 順夜」という男が美術教師として現れた。
「今日から皆さんの美術を教えることになりました。鳴海順夜です。よろしく。」
だるそうな口調で自己紹介するこの男に何だかイラっときたのを覚えている。
やる気ないなら帰れよ、そう思った。まぁ、美術以外の授業サボっている自分が言えたことじゃないけれど。
イライラする私とは正反対に、見た目の良いこの男に周囲は黄色い声でいろいろ質問をしていた。
「やばっ。超イケメン!せんせー!彼女いるんですかぁ?」
「せんせー!歳はー?」
あちらこちらからお決まりの質問が飛ぶ。先生はあっという間に囲まれた。キャーキャー騒ぐ女子高生達に囲まれれば、普通の男なら悪い気はしないだろう。年齢も見た目20代後半ぐらいみたいだし、心の中では喜んでいるのだろう。だから男って奴は──。どうせ鼻の下伸ばして、デレデレと・・・。溜息ひとつついて私は、先生をチラリを見た。
「いちいちうるせぇな。女はめんどくせぇ。興味ねぇんだよ。さっさと授業はじめるぞー。」
しかし、私の予想に反して、この鳴海という男はチッと舌打ちをしたのだ。そして、呆気にとられた周囲を尻目にデッサン用の果物を何事もなかったかのようにテーブルに無造作に置き始めた。
…。あんた本当に教師か?そう突っ込みたかった。
なんなんだ、その横暴な態度。舌打ちって何!?何様!?ぶん殴ってやりたい。
だが、教師にそんなことするわけにもいかないので、とりあえず私は深呼吸をする。
・・・それに。私は、チラリとテーブルを見た。いくら何でも無造作に果物を置きすぎだろう。気付いた時、私は思わず立ち上がって、先生の腕を掴んでいた。頭に血がのぼる、という意味を実感した。
「ねぇ。あんたの態度にどうこう言うつもりはないけど、ちゃんと置いてよね。そんな置き方じゃ、良い絵が描けない。」
私は思いっきり先生を睨みつける。掴まれた腕を一瞥し、先生は私を見下ろした。まるで、くだらない物を見るような目で。
「あ?何だお前。俺に指図すんのか?」
やる気のない声はそのままだが、目は苛立ちからか鋭さを帯びている。
「気安く俺に触るな。」
先生は乱暴に腕を振って、私の手から逃れる。
何なのよ、こいつ!!
私も同じぐらい苛立っていた。しばらく睨み合ったまま無言の時間が流れた。どれぐらい時間が経っただろう。周りの生徒は双方の気迫に何も言えず、ただ黙っていた。不穏な空気が辺りに漂う。
「・・・お前。伊崎っていったか?」
そう先に口を開いたのは先生だった。
「だったら、何?」
刺々しい口調に私も負けじと言葉に棘を含める。
「お前、美術の点数だけは上位なんだってな。だったらコレ、お前並べてみろ。」
顎で無造作に置かれた果物を指すこの男を私は睨みつける。
「は?なんで私がっ。」
「できねぇっていうなら別にいいけどな。」
私になんて興味ない、お前の美術の成績なんてまぐれだと言わんばかりの態度で先生はヒラヒラと手を振る。
何なのよ、この男っ!!
私は先生を一瞥してから、無造作に置かれた果物を手に取る。
こんな置き方されて・・・。
私はそっと目を閉じて、構成を頭の中に浮かべながら果物を置いていく。
リンゴはきっとここが良い。レモンはここ。構成的に下に敷く布はこっちの方が合う。
「ほぉ。お前、俺が思っていたより少しは出来る奴みたいだな。」
いつの間にか先生が隣に立っていて、綺麗に置き替えた私を見下ろしていた。
「・・・これで良い?っていうか、あんたの置き方よりマシだよね。」
ふん、と鼻で笑って私は席に戻る。
「まあまあだな。50点ってとこか?あー。早く休み時間にならねぇかな。煙草吸いてぇな。」
先生はあくび交じりで返答する。
「このっ!!もう我慢できなっ・・・。」
今度こそ本気でぶん殴ってやりたくて、私は勢いよく席を立とうとする。
「ゆ、唯っ。」
そんな私の腕をとっさに掴む人物。
これ以上放置していたら、本当に先生をぶん殴ってしまいそうだと判断したのだろう。
「唯。ちょっと落ち着きなよ。はい、深呼吸、深呼吸。」
隣の席にいる友人の早紀が私をなだめる。早紀のゆっくりとした口調で私は落ち着きを取り戻す。早紀の鈴のような可愛らしい声には、不思議と人を癒す効果があるらしい。早紀の声に日頃から癒されているのは、私だけではないはずだ。現に早紀は物凄く男子から人気がある。癒し系の女の子はいつの時代でも最強ということだ。
「はぁ・・・。ありがと早紀。」
「親友の暴走を止めるのも私の役目ですから。」
にっこりと微笑む早紀。
「あの教師本当に最悪っっ!!」
私は思いっきり机を叩いた。
これが私と鳴海先生の出逢い。
机を叩いた手が強烈に痛かった。
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