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桜の鍵   作者: 夏村ゆう
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プロローグ

さくらの舞う季節が来ると思い出す。

春の柔らかな風にのって香る花のにおい。

どこかくすぐったさを覚えて、思わず頬が緩む。

それと同時に切なさも覚えて、苦しさで視界が歪む。

今、自分の顔を鏡でみたら、きっと苦笑するだろう。


あの頃は、さくらの香りと煙草の香りが混じっていた。

上品な香りに混ざる苦い香り。

あなたの香り。

私が大好きだった──。


ねぇ…あなたも同じ景色を違う世界から見ているのかな。

柄にもなくそんなことを思って、雲1つない青空に手を伸ばしてみる。


“カチャッ”


あなたが愛用していたジッポーの蓋が閉まる音が

聞こえたような気がした。


『なぁ?お前は何で──』

気付けば夢中になっていた、やる気のないあなたの低い声。


今も彼がいなくなったと実感できずに、癖で隣を見てしまう。

「そんなはずないのにね。私もいよいよ危ない人の仲間入りって?」


自虐的に笑って目を細める。

目の前に広がる雲1つない青空。


「こんなにクリーンな青空に、今の私の心は不釣り合いね。」


ツーンとする鼻をすすりながら、私は顔を伏せた。

ずっと我慢していたが、もう耐えられそうにない。


「なんで約束守る前にいっちゃうかな…。ほんっと先生はっ…。」


そこまでしか言葉が出なかった。

いや、声にならなかった。


気付いた時には、私は大声で泣いていた。

どうしても伝えたかったことがある。

私は、まだ何もあなたに伝えていなかったのに。


いつも自分勝手で、やる気がなくて、だらしがなくて。

でもそんな彼が私は好きだった。

大好きだったのだ。

※無断転載、複製はご遠慮ください。

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