できること2
現状をひとまず打破する方法なら、いくつかある。
“異世”を拵えるというのも、その内の一つだ。
かなり強引ではあるが、新たな世界を創造し、白橋の巨体を一旦そこに押し込める。
そうして、気が済むまで暴れさせてやる。
でも、それは単に問題の転嫁。 なにも解決しないような気がするのだ。
とりあえず暴れれば発散されるストレスとは、ワケが違う。
彼の苦悩は、もっと根深い。
もっと、根本のところから変えてやらないと。
ちょうど、そんな時である。
「何の音ー……?」
「雷かな?」
修羅場にあっては完全に場違い。
住宅街にあっては、いたって普通。
ほど近くの民家から、かすかに聞こえた声を受け、史は満面を蒼白させた。
「しまった……!」
この状況は、非常にマズい。
慌てて視線を巡らせる。
民家の玄関が・窓枠を覆うカーテンが、それぞれ住人の手によって、今まさに開かれようとしている。
屋外の光景を見れば、人々は間違いなく恐慌をきたす。
収拾困難な、凄まじい恐慌だ。
それは、本来なら不要の危険をまねく恐れがある。
白橋に、“復讐”の好機を与えてしまう。
とにかく、こうなっては採れる手段はひとつ。
急いで“異世”を新造し、この昔なじみを押し込める。
もちろん、彼を独りにするのは忍びがないので、自分も。
しばらくの間、引きこもるしかない。
「騒がしいな……?」
「何かあったの?」
結果として、間に合わなかった。
「………………」
住人と視線が合った。
「ぁ…………!」
「………………」
とにかく、なにか言葉をかけるべく、舌の根を落ち着かせる。
いや、そんな暇はない。
この期に及んで、逡巡はマズい。
でも、なんと声をかければいい?
“はやく逃げて!”
“大丈夫だから、騒がないで!”
最良のセリフを、選ぶことができない。
「………………」
そんな史を一瞥し──、おそらく、出勤前のサラリーマンだと思う。
壮年の男性は、とうとう白蛇のほうへ、視線を移した。
しかし、
「べつに、何もないよ?」
「えー? じゃあ、さっきのは?」
家人とやり取りを交わしつつ、自宅内へ引きあげていった。
「………………?」
ワケが分からず、とにかく別の場所へ目を向ける。
屋外を気にしている家庭は、なにも一軒だけじゃない。
「あれ? さっきの……。 あ、おはようございます」
「あぁ、おはようございます。 さっき……」
「ねぇ? なにか、すごい音しましたよね?」
「あ、やっぱり聞きました?」
おとなり同士、不思議そうに顔を見合わせる住人。
「………………」
窓からザッと外を確認した後、すぐにカーテンを閉ざす民家。
おのおの、この状況をまったく意に介していない様子だった。
というより、“見えていない”と表したほうが、正しいのかも知れない。




