つゆびより
そういった閑かな町中に、細々と敷かれた小路──、通学路を歩む道すがら。
顔を会わせた知人たちと、朗らかに挨拶を交わした穂葉は、いつもと変わらず嬉しそうだ。
クイッと史のほうを向いた揚々(ようよう)たる笑顔が、じつに眩しい。
「でも、暑いですねー? 今日は」
「なぁ? もう夏だよなー……、マジで」
「ですね! 夏! 夏ですよ!!」
大いに“はしゃいで”みせた後、あたまの天辺に手を当てて、瞳を細めてみせる。
柔らかな面差しで、見慣れた町並みを眺望する。
そこに、季節の機微をさがす。
現在は六月である。
先の季節における、どこか眠たげな・緩慢とした大気を見送った後。 茹だるような暑気が、今年も次第に見え始める頃だった。
「夏、好きだったっけ?」
「ふん? 私です?」
「うん」
「大好きですよ! 夏女ですよ? こう見えて!」
「マジか! 初耳だわ……」
夏の気配は、もう近くまで来ている。
とろけそうな熾烈さを、燦々と増し始めた陽光。
沸々(ふつふつ)と茹で上げられた大気の様子。
活気を含んだ風の匂い。
ぬるい薫風を、ゆるやかに提供する青々しい若葉。
それら、身近に感じる夏の気配が、この小路にも溢れている。
「そういえば、昨夜の番組さ?」
「え? 昨日、なにか見ましたっけ? ぜんぜん覚えてないです私っ!」
「あ、そっか……。 ごめんごめん」
この町には、松の樹木が多い。
大抵、どこの民家の庭先にも植わっており、軒並みに、その緑青色を望むことができる。
所以としては、市木に指定されているから。
市木であり、高羽のシンボル。
「今日の晩ごはん、何がいいですか?」
いつまでも褪せることのない清々(きよきよ)しい色合いを、健やかに纏い続けている。




