おとにきく
高羽という地名が定着したのは、いつの頃からだったろうか。
長雨が続くことも無ければ、日照りが久しいわけでも無い。
かつて、この地が保有した明美な浜は、数多の歌人を筆頭に、よく人を集めた。
「おはようございます!」
「あれぇ、穂葉ちゃん! 天國さまも! 学校かいね? これから」
「はい!」
浜松の香。 白い徒波。
それら、音に聞こえた絶世の名物も、今や形骸を残すのみだった。
「バイバーイ! 穂葉ねぇちゃーん! 史にぃちゃん!!」
「行ってらっしゃーい!」
「バイバーイ! 気をつけてね?」
寂れた砂浜。 堤防の名残。
決してたどり着けない旅館の名称が、いまだに記された案内図。
「お天気でよかったですね? 今日」
「ん。 久し振りだもんな? こんなに、よく晴れるの」
「ね? ホント久し振りですよ」
天野家の周縁は、それらの栄衰とは無縁の地域である。
白砂地区。
東白砂地区。
砂取地区。
この市町を大まかに区分する自治区のうち、東白砂地区は、もっとも内陸側に位置している。
ちょうど、お隣の栄市との境界付近にあって、古くから人荷の流入が著しい。
もちろん、流出のほうも同規模ではあるが、そこは中小都市の性か、それをいちいち気に留める必要もない。
「帽子って、かぶってもいいのかなぁ?」
「お? いま? 学校行くとき?」
「うん」
「どうかな? 怒られるかも」
「そっかー……」
新旧の国道をつなぐバイパスが整ったこともあって、昨今では、土地の再開発がピークに達している。
新興の住宅地。 経年の古民家。
現役の田畑にコンビニ。
しかし、良くも悪くも、当面の栄衰に動じない土地柄は、都会田舎という高羽の印象に、もっとも適うものだった。




