あさおきて
定位置のベッドボードに腰を据えた目覚まし時計は、本日も連綿たる歩みを続けていた。
「む……っ」
秒針が進む微かな音色は、終わりなく、代わり映えもない。
万物に与えられた時の足並みを、忠実に体現するのみだった。
「んむ……?」
そんな微音も、ようやく鳴動を開始した目覚まし時計の真価に呑まれ、忽然と失せ果てる。
「うもぁ……っ」
甲高いアラーム。 木製の宮棚が軋む音。
「うむむ……っ」
それら、起床を知らせる無粋な騒音が、寝起きの耳に否応なく突き刺さってくる。
「うむぁ……っ」
どうにかして逃れたい。
薄手の夏布団を、頭からバサリと被る。 くにゃくにゃと身を捩らせる。
「うぁ……」
そんなことを続ける内に、かすかな微睡みは、早くも心地のよい名残を呈するのみとなった。
「あぁ……」
そうして、ついに観念を余儀なくされた天野史は、のろのろと意識を覚醒させた。
「はぁ……」
それでも尚、頭の中から全身へ、ふわふわと渡りゆく眠気のほどは、安易に振り払えるものでは無い。
後頭部に接する枕の感触。
腹部をカバーする夏布団の肌触り。
それらが、現在は恰好の足止め材料となって、スムーズな起床を阻む。
眠いのだ。
すごく眠い。
「ぬぁ……」
ともあれ、気合いを入れないことには始まらない。
ゆるゆると持ち上げた片方の腕を、緩慢な動作で頭上へ送る。
なかば手探りの体で、スイッチの在処を突き止める。
「んむ……」
滑らかなプラスチックの手触りは、室内温度のためか、じっとり生ぬるい。
それを、力いっぱい押し込んでやる。
「おし……」
斯くして、鳴動を中止した目覚まし時計は、製品としての普遍的な作業を、コチコチ……と続行。
薄暗い自室は、もとの静寂を取り戻す運びとなった。




